「メルのお泊まり ~みのり編~」
「よっと!」
メルはそう言うなり、勢いよくベッドにダイブした。
今日は、みのりの部屋に泊まる日だ。
みのりは大きなクッションに腰を下ろし、リラックスした様子でお菓子の袋を開ける。
メルは1度、みのりの部屋のお風呂を借りていたが、改めて部屋の中を見回した。
きちんと整理された室内は、いかにも10代の女の子らしい雰囲気に満ちている。
壁には写真ボード、机の上には写真立て。
家族や友人、ファクターズの仲間、同じ訓練生、オルフェの職員、テツ——さまざまな思い出が並んでいた。
その中でも、ひときわ多く目につくのは、やはり閃の写真だった。
「アンタ、せっちゃん好きなのバレバレじゃん」
メルはくすっと笑いながら言う。
「だって、隠してないし」
みのりはあっさりと返し、お菓子をつまむ。
「せっちゃんモテるだろうし、ライバル多いぞ〜?」
メルはニヤリとしながら続けた。
「ま、好きになる気持ちはわかるけどね」
そう言って、自分もお菓子に手を伸ばす。
「あたしさ、最初にメルをここで見たとき、“あ、ライバル来た”って思ったもん」
みのりは笑いながら言った。
「大丈夫だって。メルの“好き”は、そういう“好き”じゃないから」
メルも軽く笑って返す。
「にしても、くっつきすぎなんだって」
みのりは呆れたように言う。
「てかさ、みのりは、誰がせっちゃんとくっつくと思う?」
メルがふと尋ねた。
「ん〜……正直に言うと、やっぱ音かな〜」
少し考えてから、みのりは答えた。
「自分じゃないんだ」
メルは思わず吹き出す。
「現実的に考えたらねー」
みのりはジト目でそう返した。
◆
「実らない恋ってやつ?」
メルがお菓子をつまみながら言った。
「そもそも、あたしが勝手に好きになっただけだし。それは仕方ないよ」
みのりは肩をすくめながら答えた。
「それに、どっちかというと、“憧れの人”って感じだし」
少しだけ視線を逸らしながら、そう付け加える。
「ふ〜ん……名前が“みのり”なのに、実らないんだ」
メルは真顔で言った。
「な〜にちょっと上手いこと言ってんのよ」
みのりは呆れたように笑い、メルの肩を軽くこづく。
そのやり取りに、2人は思わず吹き出した。
◆
「メルは、そういうのないの?」
みのりがふと尋ねる。
「ないよ〜?」
メルはあっさり答えた。
「一回も?」
「一回も」
間髪入れずの即答だった。
「あー、でも……好みというか、タイプの人はいたよ?」
メルが少しだけ考えてから言う。
「え!どんな人?」
みのりが身を乗り出す。
「ちょっと気弱そうで、チビの美少女!——つまり音!」
メルは満面の笑みで言った。
「あぁ……そっちね」
みのりは妙に納得したように頷いた。
「ん……? それ、あたしもタイプってことじゃない?」
少しイタズラっぽく、みのりが言う。
「当てはまってるの、チビだけじゃん!」
メルが即座にツッコむ。
そのやり取りに、2人はケラケラと笑い合った。
◆
「そろそろ寝よ!」
しばらく談笑したあと、みのりがそう言った。
2人は歯を磨き、部屋の明かりを落としてベッドへ入る。
「って、添い寝かいっ!」
みのりは思わずツッコんだ。
「おやすみ〜」
メルはそう言うと、さっさと目を閉じてしまう。
(……ま、いっか)
みのりも小さく息をつき、そのまま目を閉じた。
◆
翌朝。
みのりが目を覚ますと、メルがまるで抱き枕のように、しっかりと抱きついてスヤスヤと眠っていた。
そのせいで、みのりは身動きが取れない。
(ど、どうしよ……起こすのも悪いし……)
戸惑いながらも、みのりはふとメルの寝顔を見つめる。
無防備で、穏やかな寝息。
(…………かわいい)
結局みのりは起き上がるのをやめ、もうしばらく横になることにした。




