「メルの引っ越し」
午前の任務を終え、怜が自室へ戻ろうとしたそのとき、廊下の先で思わず足が止まった。
視界いっぱいに積み上げられたダンボールの山。
その間を縫うように、2体のUBがせっせと荷物を運んでいる。
「おっ、アイスガールじゃん」
ひょいと顔を出したのは、当の張本人——メルだった。
彼女はなぜか怜のことを“アイスガール”と呼ぶ。
「これ……全部あなたの……?」
呆れ半分で問いかける。
「そ!全部翌日配達にしてたから、一気に届いちった!」
メルは悪びれもなく笑った。
「ヒマなら手伝ってよー」
(いや、暇じゃ無いんだけど……)
心の中で即座に否定するが、ふと頭をよぎる。
自分もまた、似たようなことをしては部屋の前にダンボールを積み上げていることを。
——あまり人のことは言えない。
結局、怜は小さく息をつき、そのまま荷物の整理を手伝うことにした。
「お、サンキュー♪」
メルは軽くウインクを飛ばした。
◆
作業は手際よく分担されていた。
UBたちが運搬と空き箱の処理を担当、怜はダンボールの開封、メルは中身の配置を進めていく。
中から出てくるのは、高価そうなPC機材、大量の洋服、ぬいぐるみ、そしてお菓子やジュース——まさに雑多で自由なラインナップだった。
「これ……全部は入らないよ」
怜が現実的な指摘をする。
「んー……じゃ、とりあえずここからここまで!あとは空き部屋に置いといてー」
メルは迷いなく仕分けを始める。
「名前、書いとかないと分からなくなる」
「あ、そっか!ペン持ってない?」
怜はポーチからペンを取り出し、差し出した。
「サンキュー♪」
メルは受け取ると、次々に箱へ名前を書き込み、UBに指示を出して運ばせていく。
作業は驚くほどスムーズに進み、廊下からダンボールの山は跡形もなく消えていた。
「ありがとね、アイスガール!」
メルは満足げに笑い、ペンを返す。
「あんたらも、助かったよ」
続けてUBにも声をかける。
「イエイエ。ナニカオコマリゴトガアレバ、イツデモオッシャッテクダサイ」
そう応じると、UBたちは静かに去っていった。
ふと、メルがくるりと振り返る。
「そういや、アイスガールって“もちのすけ”好きなの?」
「う、うん……」
少しだけ照れながら、怜は頷く。
さっき貸したペンは、もちのすけのグッズだった。
それを聞いたメルは、部屋の中へ戻ると、山のような荷物をかき分けながら何かを探し始めた。
「はい!これ、あげる!」
次の瞬間、軽く投げ渡されたそれを、怜は反射的に受け取る。
それは、もちこのぬいぐるみだった。
「え……いいの?」
思わぬ贈り物に、怜は目を瞬かせる。
「手伝ってくれたお礼♪」
メルは笑って答えた。
同じタイプのものは、すでにいくつか持っている。
それでも、いくつあっても嬉しい。
「あ、ありがと……」
ほんの少しだけ頬を緩めながら、怜はそう答えた。




