「メルのお泊まり ~アンジュ編~」
「へぇ〜、かっこいいじゃん」
「どーも」
メルは部屋の中を見回した。
今日は、みのりに続いてアンジュの部屋へ泊まる予定だった。
アンジュの部屋には、彼女らしさがよく出ていた。
趣味のバスケ用品やエレボ関連のグッズ。
壁には、海外の歌手や女優たちの電子ポスターが映し出されている。
メルには誰なのか分からなかったが、それでも——なんとなく“アンジュっぽい”センスだな、と感じていた。
「ね、音楽かけていい?」
アンジュが振り返りながら聞いた。
「うん」
メルが頷くと、アンジュはスマカを操作し、部屋に置かれたスピーカーから音楽を流し始めた。
ゆったりとした重低音。
身体に自然と染み込むようなリズム。
どうやらレゲエ系の音楽らしい。
「おぉ〜……なんか、ゆらゆらする感じ」
メルはソファへ倒れ込むように座りながら呟いた。
◆
「ま、適当にくつろいでて〜」
アンジュはそう言うと、カーペットへごろんと寝転がり、雑誌を読み始めた。
レゲエのゆったりしたリズムが、部屋の空気をさらに緩ませていく。
そんな中だった。
「ね!アンジュ!下着見せて!」
メルが急に身を乗り出した。
「……ヘンタイオヤジか」
アンジュは雑誌をめくりながら即座に返す。
「見てどーすんの」
「満足する!ね、お願い♡」
「満足するって……」
アンジュは呆れたようにため息をつきつつ、部屋の一角を指差す。
「あそこ。勝手に見れば?」
「やったー!」
メルはすぐさま収納スペースを開け、興味津々で中を漁り始めた。
「うわっ、やっぱり!エロエロだー!!」
振り返ると、メルは何故か派手なデザインの下着を頭に被っていた。
「だからヘンタイオヤジかっつの」
アンジュは半目になる。
「てか、そんな珍しい? ソレ」
「だって、他の人の知らないもん」
メルは悪びれもなく答えた。
「そういや、みのりは可愛い系だった」
「確かにね……」
アンジュは苦笑する。
そして少し興味が湧いたのか、雑誌を下ろしながら聞いた。
「じゃあさ、メルはどんなの着けてんの?」
「つけてないよ?」
あまりにも自然な返答だった。
「……え?」
アンジュの動きが止まる。
「両方?」
「両方」
メルはあっさり頷いた。
アンジュは数秒沈黙したあと、ゆっくり聞き返した。
「……今までずっと?」
「ずっと」
「マジか……」
アンジュは思わず天井を見上げた。
一方のメルは、そんなアンジュの困惑など気にもせず、被っていた下着を眺めながら楽しそうに笑っていた。
◆
「一応、軍から支給されたやつはあったけど、ほとんど使わなかったなー」
メルは思い出すように言った。
「あー……なるほどね」
アンジュは納得したように頷く。
「そりゃ珍しく感じるわけだ」
メルにとって、“下着を身につける”という感覚自体が、ほとんど馴染みのないものなのだろう。
「まぁ、するかしないかは自由だけどさ——」
アンジュは寝転がったまま続ける。
「でも、普段から着けといた方が楽だとは思うよ?」
「なら、アンジュのちょーだいよ♡いっぱい持ってるし!」
メルはそう言いながら、アンジュの下着を頭や両手にぶら下げていた。
「だから遊ぶなっての」
「ていうか、ウチのじゃサイズ合わないでしょ。ガバガバだよ?」
「そうなの?」
「まずはメルに合うサイズ測んないと」
「え〜めんど〜」
メルは即座にソファへだらける。
その反応にアンジュは苦笑した。
「じゃあ今度さ、ショップ行く?」
「ショップ?」
「下着とか服とか売ってる店。みのりんも誘ってさ」
その瞬間、メルの表情がぱっと明るくなる。
「え!行こ行こ!」
「じゃ、予定組まないとね」
アンジュは笑いながら呟いた。
少しずつ“普通”を知っていくメルの姿が、どこか微笑ましく感じられた。
◆
「ふぁ〜……」
大きなあくびをしながら、メルはソファからふらふらとベッドへ向かった。
「アンジュ〜、先寝るね〜……」
そう言って、そのままぽすんとベッドへ倒れ込む。
「はーい、おやすみ」
アンジュは雑誌を読みながら軽く手を振った。
「おやすみ〜……」
返事はしたものの、メルの声はすでに半分眠っている。
そして数秒後には、静かな寝息が聞こえ始めた。
(早っ)
アンジュは思わず笑う。
メルの頭には、相変わらずアンジュの派手な下着が被られていた。




