29 励ましと大群
約三ヶ月も放置してすみません!
真沙斗視点となります。そして拓磨の口調が迷子です。
あれから数分後、僕はやっとの思いで泣き止むことができた。
「……落ち着いた?」
「はい……。その、すみません、でした……」
「気にしないで」
そう言って安堵する先輩を見て申し訳なくなり、そして同時にとてつもない羞恥心に襲われた。
(うう……また恥ずかしいところ見られちゃった……! 先輩と一緒に堂々と並べる男になりたいのに……!)
そう思いながら僕はぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開き、変わらず上半身を起こした状態でいる先輩を見た。
先輩はそのことに首を傾げるが目を逸らすことはせず、ただ目を合わせるだけの時間がどんどん過ぎていく。
すると外から吹いてきた風と一緒に、先輩の甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐった。
(あ……いい匂い。なんか、愛留奈先輩って感じがする……)
僕はそう思いながら、じっと先輩の顔を観察するように見る。
(やっぱり先輩って小顔だよね……それに三宅先輩と違って、どちらかというと美人系の顔立ちだし……。先輩、やっぱり人気があるんじゃ……)
そう思いながらいつのまにか逸らしていた目線を正面へと戻した――が、それは間違いだったのかもしれない。
いつの間にか立ち上がっていた先輩の顔が、僕の目の前にあったのだ。
「……っ、うあっ、なっ……!?」
「本当に大丈夫? やっぱり何かあったんじゃ……?」
「なっ、何でもないんですぅぅぅぅぅっ!」
僕は小さめにそう叫ぶと、通常は発揮できないであろう反発力を利用して、思いきり先輩から離れた。
それを先輩は怪訝そうに見て首を傾げるが、さっきの件を思い出したのかあえて聞かないでおいてくれた。
それに安堵した僕は先輩に謝ってから再び先輩を寝るように促す。
先輩は心配そうに僕を見てきてくれたが、僕は作れていないであろう笑顔でなんでもない、と伝えておいた。
「それじゃあ先輩、おやすみなさい」
「あまり眠くないけど……おやすみ」
先輩はそう言うと、目を閉じて光から目を背けるようにして寝転がる。
そして僕は先輩の寝息が聞こえてきたのを確認して、蓮のことを思い出した。
(蓮……どうして、先輩が『研究対象』なの……?)
異性の好みは人それぞれだから、先輩に恋愛感情を持っていないというのならまだわかる。
でも、先輩は僕達と違ってただの『人間』なんだから、蓮にとって『研究対象』にならないはずなのに。
(もしかして……蓮は『人間』じゃなくて『先輩自身』に関する事で、何か気になることがある……とか?)
あり得ないかもしれない。ううん、あり得ない確率の方が高いかもしれない。
でも、もしもそれが本当だったとしたら……――先輩を、狙うかもしれない。
いや、もしかしたら今までだってそうだったのかもしれない。
先輩に近づいて自分に興味を持たせ、そこから何かしようと思っていたのかもしれない。
そこまで考えて、僕は嫌悪感に襲われる。
(なんて、嫌な考え方をしてるんだ僕は……)
唯一僕と仲良くしてくれた蓮を、こんな風に考えたくなんてない。
でも、今はどうしても、こんな風にしか考えられない。
そう思っているとチャイムが鳴ったので、僕は気を晴らすためにそれと一緒に叫んだ。
「……っ、ああもう!」
「えっ!?」
「…………へ?」
叫んだ直後に背後からそんな声が聞こえ、僕はゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこには目を丸くし、扉を開けた状態のまま硬直している藍原先輩がいた。
そして僕は次が先輩の番だったことを思い出し、謝るために慌てて先輩に駆け寄った。
「すっ、すみません、驚かせちゃって……!」
「え、あ、いや、気にしなくて大丈夫だよ。それよりも、何かあったの?」
「それ、は……」
何かを察して率直に問いかけてくる先輩から目を逸らし、僕は言葉を詰まらせた。。
今までの行動を見ている限り、藍原先輩は恋愛感情とまではいかなくても愛留奈先輩に気があるのは確かだろう。
そんな先輩に、ぼくの蓮に対する浅はかな考えを伝えてもいいのか……よく、わからなかった。
そんな僕に気がついたのだろう。先輩は困ったように微笑みながら僕の頭を撫でて、何かを差し出した。
「とりあえず……一緒に昼飯、どう? お腹空いてるでしょ?」
「……ありがとう、ございます……」
僕は戸惑いながらもそれを受け取り、近くの椅子に座った先輩と並ぶようにして椅子に座る。
中に入っていたパンを一つとって俯きながら黙々と食べていると、先輩がため息をついた。
「……大方、蓮が関わってるんでしょ? 真沙斗が悩んでる理由って」
「っ! は、い……」
先輩の言葉を聞いて、僕は思わずパンを強く握ってしまった。しかし事実なので肯定する。
それを聞いた先輩は「やっぱり」と言って苦笑し、どこか遠い目をしながら話し始めた。
「実はさ、俺もちょうど去年の今頃にさ、静悟と喧嘩したことあるんだよ」
「え? お二人が、ですか?」
「うん。状況も多分、今の真沙斗と同じ。静悟の考えてることがわからなくて……それで、信じられなかった」
「――――」
『信じられなかった』
この言葉を聞いて、僕は思わず息を呑んだ。
心のどこかで、そんなことなどあり得ないと、そう思っていたのかもしれない。
だけど先輩は嘘を言っていない。だからこそ、何も言えないのかもしれない。
そんな僕を見て、先輩は優しく微笑んだ。
「でもさ、今もこうして仲良くしていられてる……。だからさ、きっとまた、仲良くできるよ」
「そう……ですよね。ありがとう、ございます」
「礼には及ばないよ。むしろ、頑張ってまた仲良くしてもらいたいな?」
「はいっ!」
そう言って笑う先輩を見て、僕もつられて一緒に笑った。
そして残りのパンを食べて教室に戻ろうと口を開いた、その時だった。
「っ!?」
「え、まさか……!」
嫌な感覚と共に、外に何かの大群が現れた。
その大群は――――妖怪だった。




