28 もう一つの姿
悩みに悩んだ三人称です。。。
今回はその後の蓮の出来事です。
「…………」
蓮は真沙斗に叩かれた頬を無言で撫でた。その頬は少しヒリヒリしている。
真沙斗に言われた通り教室に戻ろうと踵を返した時、蓮はさっきの真沙斗の言葉を思い出した。
『どうして……どうして先輩のことをそんな風に言えるのさ!? どんなに一瞬だとしても、僕も蓮も、それに皆も、先輩に優しくしてもらったじゃないか!! なのにどうして『ただの』とか『研究対象』とか、そんな酷いことが言えるのさ!? どうして……!!』
『僕、全然わからないよ!! どうして蓮がそんなこと言うのかも、蓮が考えてることも、全然わからないよ……!!』
『蓮はこの後先輩のことを看病しないで授業に出ていいよ。代わりに僕が先輩を看病するから』
『僕は先輩のことをどんな感情で好きかとか、難しいことはわかってない……。でも、先輩のことを『ただの研究対象』と思ってる蓮は、先輩の近くにいさせたくない!』
最後の真沙斗の言葉を思い出した時、蓮の口からフッと笑い声が出てしまった。
「『先輩の近くにいさせたくない!』、ねぇ……? ククッ」
蓮は堪えきれずに、思わず笑った。それに気づいて慌てて口元を手で覆う。
(やばい、今はまだ授業中だってこと忘れてた。……でも、真沙斗がまさかああ言う日が来るとはね……)
授業中だとわかっていても少し吹き出してしまい、蓮はもう怒られてもいいやと思った。
すると蓮は後ろから人の気配が近づいていることに気づき、静かに耳に集中する。
しかしいくら集中しても足音が全く聞こえなかったので、蓮はどうしてと首を傾げた。
「どうして足音が聞こえない――……あ、もしかして……」
蓮は小さくそう呟いたが、途中であることに気がついてその場で高めに跳んで右手をあげた。
すると下に風がきた瞬間に何かが通り、それに蓮もポスンと音をたてて乗った。
するとそこには予想通りの物がいて、蓮は思わず笑ってしまった。
「まったく、校内でそんな姿になっちゃ駄目じゃないですか。きつく言われてたでしょ?
………幸宏先輩」
それに反応するように、ゆらゆら揺れている妖怪“一反木綿”――幸宏は、少しスピードをあげた。
あの後二人は屋上に向かい、着いた途端に幸宏は蓮を降ろして人間の姿に戻った。
「ふーっ、やっと着いたぁ! 蓮クンて見た目よりも結構軽いよねー?」
「それは褒めているんですか? それとも貶しているんですか??まぁ、どっちでもいいですが」
蓮は若干呆れた目で幸宏を見て、しかしその後目を閉じて全身から力を抜いた。
その瞬間に蓮の周りに冷たい気が放たれ、一回瞬きをした間に蓮は制服ではなく白い女物の着物を身に纏っていた。
それを見た幸宏は子供のように頬を膨らませてそっぽを向いた。
「なにさなにさぁ、蓮クンだってその姿になってるじゃんかぁ」
「俺は屋上に結界を張ってからこの姿になったんです。結界が張られていない校内であの姿になった先輩とは違いますから」
「なにそれ屁理屈みたいに正論を言わないでよー! あ、それはそうと、蓮クンはずっとその着物を着続けるの? 話では、男はそれじゃなくてもいいんでしょ?」
「まぁ、これに慣れてしまったので別にいいかなと。案外似合ってますし」
「そりゃ似合ってるけどさ? でも“雪女”だなんて……ぷっ」
「笑わないでください。俺だって家系で仕方なく、なんですから」
そう言って幸宏を睨む蓮は髪が腰のあたりまで伸びているため、本当に女子のように綺麗だった。
そのため睨む姿も幸宏にとっては上目遣いとなっているので、怖くもなんともなかった。
「そんな上目遣いの状態で睨まれても………あ、もしかして襲ってほしいの?」
「わー、俺って一反木綿の形をしているかき氷を一回は食べてみたかったんですよねー」
「ごめんなさい本当にごめんなさい。心から反省してるから僕をかき氷にしないで!」
そんなくだらないやり取りを行った後、蓮が「それで?」と問いかけた。
頭を下げていた幸宏もその言葉を聞いたら顔を上げ、ニヤリと笑って言った。
「確認したいんだよね。もしあの二人が、偶然とはいえ僕達生徒会の秘密を知っちゃったら皆は一体どうするのかを、さ」
幸宏は「そのための準備をしてたんだ」と、付け加えるようにして言った。
それを聞いた蓮は、小さく口を弧に描いた。




