27 呼び出しと溢れ出た言葉
真沙斗視点です。
「すみませーん、真沙斗をお借りしまーす」
「「…………へ?」」
突然そんな声が聞こえて、僕と先輩は間抜けな声を出してしまった。
声が聞こえた先を見てみると、そこには今授業を受けているはずの蓮がいた。
(え……? どうしてここに、蓮がいるの……?)
蓮とはどちらかが先輩を看病している時は、授業に遅れないためにきちんとどちらかがノートをとろうと約束していた。
だけど蓮はその約束を破って何故かここにいる。しかも僕を借りると言って。
そんな事情を知らない先輩は「大丈夫だよ」と僕に言ってソファーに寝転がった。
僕はまだ整理されていない脳をきちんと動かしつつも、先輩に「すみません」と言って廊下に出た。
「………それで蓮、どうしたの? もしかして、何かあったの?」
「ううん、何かあったわけではない。ただちょっと、真沙斗に聞きたいことがあって」
「聞きたいこと……?」
それならば尚更授業が終わった後でもいいのではないかと思った。
しかし蓮は些細なことで授業を抜け出したり約束を破ったりするような人物ではないということを知っていた。
じゃあ何なのだろうと思いながら「何を聞きたいの?」と問うと、蓮は小さな声で呟くように言った。
「真沙斗はさ……どんな感情で、愛留奈先輩が好きなの?」
「………へ? どんなって……えええ!?」
まさかそんな質問をされるとは思ってもいなかった僕は、さっきよりも間抜けな声を出してしまった。
さっき落ち着いてきたばかりの脳を再び回転させて、蓮の言ったことを必死に理解しようとした。
「え、あの、蓮? どんな感情でって……友達として、とか、いっ、異性として、とか、そういう……?」
「うん。そういうどんな」
「えっ、うえっ、はえええ!? な、何で!?」
「ただ単に気になったからだけど?」
「そっ、それだけ!?」
「うん、それだけ。駄目だった?」
「駄目というか……」
そんなことなら今聞きにこなくてもよかったのでは……?
そう言いたかったけど、何を言っても聞くまで教室に帰らないだろうと思った僕は、言葉の代わりにため息をついた。
そのまま僕は質問に答えようとしたが……途中でふと思った。
(蓮は先輩のこと……どう思っているのかな?)
今までの行動を見ていると、蓮が先輩に何かしらの興味を持っているのはなんとなくわかった。
だけど蓮にとってその興味は好きのうちに入っているのか、それがどうしてもわからなかった。
そこで僕は、自分の感情を伝える前に、蓮に聞いた。
「その前に聞きたいんだけど……蓮は先輩のこと、どう思ってるの?」
「は? 俺が先輩のことをどう思ってるか? そんなの決まってるじゃん」
「え……?」
もしかして蓮は、異性として先輩が好きなんじゃないかと僕は思ってしまった。
だけど蓮はそんな考えを嘲笑うかのように答えを吐き捨てた。
「そんなの――……ただの研究対象に決まってるじゃんか」
「……っ!」
パンッ
「………っえ? ま、さと?」
突然僕に平手打ちをされた蓮は、呆然としながら僕を見た。
だけど僕はさっき蓮が言ったことがどうしても許せなくて………自分でも不思議なくらい言葉がスラスラと出てきた。
「どうして……どうして先輩のことをそんな風に言えるのさ!? どんなに一瞬だとしても、僕も蓮も、それに皆も、先輩に優しくしてもらったじゃないか!! なのにどうして『ただの』とか『研究対象』とか、そんな酷いことが言えるのさ!? どうして……!!」
「っ……真沙斗!」
「僕、全然わからないよ!! どうして蓮がそんなこと言うのかも、蓮が考えてることも、全然わからないよ……!!」
その場にいるのが耐えきれなくなってしまった僕は、踵を返して生徒会室の扉に手をかけた。
そして入る前に僕のことを呼んでいる蓮に向かって、叫ぶように言った。
「蓮はこの後先輩のことを看病しないで授業に出ていいよ。代わりに僕が先輩を看病するから」
「違っ……真沙斗!」
「僕は先輩のことをどんな感情で好きかとか、難しいことはわかってない……。でも、先輩のことを『ただの研究対象』と思ってる蓮は、先輩の近くにいさせたくない!」
僕はそこまで言って、生徒会室に入った。そして勢いよく扉を閉める。
顔を上げると、そこにはソファーから起き上がって僕を見ている先輩がいた。
「え……? どうしたの? 何かあった?」
「っ……先輩……」
先輩の声を聞いた僕は、我慢できずにポロポロと涙を流してしまった。
それを見た先輩が慌てる声を出しているのが聞こえたが、僕はそれに応えることができなかった――――。




