22 不意打ち
再び龍次視点です!
俺はゆっくりとした足取りで、佐渡山愛留奈が寝ているソファーへと近付いた。
一緒に持ってきた椅子を床へ置き、座りながら佐渡山愛留奈の顔色を伺う。
無表情で三宅香里奈といる時しか笑わない彼女は今、肩で呼吸をしながらぎゅっと目を瞑って苦しそうに呻いていた。
「………いつも、こんな感じでいたらいいものを」
俺は吐き捨てるようにそう呟いたが、心の中ではその言葉を否定していた。心では、そんなところが彼女らしさを引き出しているのだと理解していたからだ。
気がついたらそんなことを考えていた俺の頬を渇をいれるように、だけど軽めに叩いた。そして、何をするかを考える。
(さて、どうするか…。大量に汗をかいているから拭いた方がいいだろうが、こいつもれっきとした女子だ。男の俺が拭くわけにもいかないし…)
どうしようかと思案していると、佐渡山愛留奈が呻き声を出しながらゆっくりと起き上がった。それを慌てて支える。
「おい、大丈夫か? 辛いんだったら、安静にした方がいいぞ」
「大丈夫、です……。さっきよりも、楽だし、それに、先輩だって、授業が……」
「俺のことは気にしなくていい。今は体調をよくすることに専念しろ。皆心配しているんだからな」
「わかり、ました……。すみません……」
「気にするな。わかったなら大人しく寝ていろ」
俺がそう言うとふにゃりと笑い、ポスンッという音をたててソファーに倒れこんだ。
一方、不意打ちであの笑顔を見せられた俺は、自分でもわかるくらい頬を紅潮させてポツリと呟いた。
「――…あの笑顔は、反則すぎるだろ……」
あの後落ち着いた俺は、暇だったので図書委員にオススメされた小説を読んでいた。
俺は本など興味がなかったから「遠慮する」と言って断ったが、それでも苛々してしまうくらい強引に押し付けてきたので、棒読みでお礼を言ってその場から去った。
(確かあいつらは「女主人公の好きな人が先輩に似ているんです!」とか言っていたな。だが女主人公の目線ばかりで、男の心情が全くと言っていいほどわからないじゃないか)
俺がため息をついてそう思いながら次のページをめくると、そこには衝撃的なものがあった。
だが問題は書かれている内容ではない。その横にある挿絵に問題があるのだ。だって、その挿絵は――…
「……先輩? どうしたんですか?」
「っ!?」
静かな室内に声が響き、俺は本を勢いよく閉じて声の主、佐渡山愛留奈の方へ目を向けた。
声を出した佐渡山愛留奈は、首を傾げながらこっちを見ていた。おそらく俺のさっきの表情を見てしまったのだろう。
「先輩……あ、その本……。それって確か恋愛小説だったはず……」
「え!? あ、その、これはだなっ! 俺の趣味という訳ではなくてだなっ!」
俺が持っている本に気づいた彼女は、この本のジャンルを言いながら更に首を傾げた。
それもそうだろう。学園内での俺は、読書するの前に図書室にすら行かないと言われているのだから。いや、事実ではあるが。
それに比べて彼女は学園一の読書家で、図書室の本は全て読んだと言われている。ジャンルを知っていて当然だろう。
俺は弁解しようと口を開いた瞬間、学園内に授業終了のチャイムが鳴り響き、同時に扉がスパンッと大きな音をたてて開いた。
「愛留奈! 色々な意味で大丈夫!?」
「先輩、愛留奈さんを襲ってないですよね!?」
「心配するのはともかくとして、何でそんな心配してんだよ! そこは何もしてないって信じろよ!」
「あははっ、でも確かに手を出しててもおかしくないよね~」
「何を言っているんですか。先輩の『ピー!』を奪うのは俺ですから」
「ちょっ、蓮!? 放送禁止用語がかかるようなこと言わないでよ!」
「「……………………」」
ズカズカと室内に入ってきた六人は、まるで打ち合わせでもしていたかのようにスムーズに言葉を順に紡いでいく。
それを見ている俺と佐渡山愛留奈は、ただ呆然とそんな漫才のような会話を見ていた。
(こいつら、うるさすぎるだろ……。つか、んな大声出してたら余計に具合悪くなるだろ……)
俺は心の中でそう思いつつ、さっきから笑ってばかりいる幸宏の頭を叩いた。
「いたぁっ! ちょっ、龍次!? いきなり叩かないでよ!」
「うるさい、黙れ。三年なんだからしっかりしろ」
叩いたことに文句を言ってくる幸宏を言葉をだけで沈め、室内に病人の佐渡山愛留奈と彼女を看病する番である三宅香里奈を残して外に出た。
俺は五人を横目で、だけど殺気を放ちながら睨みつけた。それに気づいて五人は一斉に黙りこむ。
それを一瞥してから、さっき読んでいた本の挿絵を思いだしていた。
(うるさい図書委員が言っていた『俺に似ている』というのは、そういうことか…)
挿絵に描かれていたのは目を見開く女主人公と、その視線の先にいる一人のヴァンパイア。そのヴァンパイアは、女主人公が恋心を抱いている男だったのだ。
思い返せば、確かに老若男女関係なしに『ヴァンパイアみたいだね』と言われることが多かった。
どうしてと聞くと、俺の顔はヴァンパイアみたいにカッコいいから、というのが大半だ。
(まったく……やはり無意識というのは怖いな)
だって、その言葉は合っているようで合っていないのだから。
フッと笑った俺は、振り向かずに固まっている五人に「行くぞ」と言って歩きだした。それに続くように五人も歩き始める。
気配でそれを確認してから、俺は佐渡山愛留奈のことを考えながら目の前の扉を開く。
(――――さて、これからどうするかな?)
学園内を明るく照らし出す日光が、俺の視界を覆った。
次回は龍次から香里奈にバトンパスします!




