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人権宣言の共同起草

初秋の涼やかな風がヴェルサイユ宮殿の白亜の回廊を通り抜け、国王執務室の重厚な開け放たれた窓から、どこか新しい時代の匂いを運んできていた。

前世の歴史において、この「人間と市民の権利の宣言」――いわゆる人権宣言は、絶対王政の崩壊と激しい権力闘争の果てに、血塗られた革命の熱狂の中で生み出されるはずのものだった。王権は徹底的に否定され、やがて王の首は断頭台へと消え去る、それが史実の残酷な筋書きであった。


しかし、今のフランス王国において、その歴史の台本は完全に破り捨てられていた。

執務室の中央に置かれた巨大なマホガニーの机の上には、無数の修正が書き込まれた羊皮紙の束が整然と並べられていた。その机を囲むように座っているのは、近代フランスの運命を左右する二人の男――若き国王ルイ16世と、新時代の理想に燃える若き英雄、ジルベール・デュ・モティエ、すなわちラ・ファイエット侯爵であった。


ラ・ファイエットは、自らが持ち込んだアメリカ独立の理念とフランス的合理主義が融合した宣言書の草稿を手に持ち、緊張と興奮が入り混じった眼光でルイを見据えていた。

「陛下……。本当に、王ご自身がこの『人間と市民の権利の宣言』の共同起草者に名を連ね、自らの手で王権の制限と国民の不可侵の権利を明文化されるおつもりなのですか?」


ルイは手元に持っていた羽ペンを静かに置き、冷徹でありながらも確かな深みを湛えた瞳をラ・ファイエットに向けた。

「当然だ、ラ・ファイエット君。君が抱く『すべての人間は生まれながらにして自由であり、権利において平等である』という理想は、何も王室を打倒するための武器ではない。むしろ、これからの近代国家が永遠に繁栄し続けるための、揺るぎない礎石なのだよ」


ラ・ファイエットは息を呑んだ。彼が想像していた絶対君主の姿などそこには微塵もなかった。古い王権の神聖不可侵にしがみつくのではなく、自らその絶対性を手放し、憲法という最高法規の下で国民と手を携えて歩む「立憲君主制」の形を、誰よりも冷徹な計算と高潔な意志をもって自らデザインしている。その圧倒的な知性と器の大きさに、ラ・ファイエットは心の底から敬服する思いだった。


「ありがたき幸せ……いえ、これほどの英断を下してくださる君主を持ったフランス国民は、世界で最も幸運な者たちに違いありません」

ラ・ファイエットは深く頭を下げ、再び宣言書のテキストに視線を落とした。

「では、第一条より文言を精査いたしましょう。人間は、生まれながらにして自由で、権利において平等である。社会的差別は、共同の利益に基づくものでなければ設けることはできない……」


その夜から、ヴェルサイユの執務室における二人の共同作業は連日夜遅くまで続けられた。

ラ・ファイエットが持ち込む自由主義的な思想や人権の概念に対し、ルイは冷徹な現実主義と法制上の整合性を与え、どのような言葉を用いれば民衆の権利が完全に守られ、同時に国家の秩序が微動だに揺らがないかを完璧に計算し尽くして文章を研ぎ澄ませていった。そこには、かつての「君主のために民がいる」という古い世界観は一切なく、「国家と法律のために君主と国民が共に在る」という、全く新しい近代国家の精神が血肉となって宿ろうとしていていた。


数日後、完成した「人間と市民の権利の宣言」の最終草稿は、国民議会の全議員の前へと正式に提出された。

議場を埋め尽くした議員たちの間には、かつてないほどの激震と、それに勝る深い感動の波が広がった。王室の側から、しかも国王自身の発意と共同起草によって、国民の不可侵の権利や法の下の平等、そして言論の自由や租税の公平性が高らかに宣言されたからである。


平民代表の席からその文書を見つめていたマクシミリアン・ロベスピエールは、その文字の美しさと、そこに込められた理想の完璧さに全身を震わせていた。

「……王が、自ら国民の権利を謳う宣言を起草された……。血の海を渡ることなく、これほどまでに崇高な法秩序が、王室の主導によって完成する日が来ようとは……」

ロベスピエールは誰よりも深く頭を下げ、その目には熱い涙さえ浮かんでいた。


国民議会における圧倒的な賛成多数をもって採択された「人間と市民の権利の宣言」は、瞬く間に印刷され、パリの街頭からフランス全土の隅々にまで貼り出された。

街では、人々がその宣言の文面を声に出して読み上げ、歓喜の声を上げていた。かつては王室に対する不信感と怒りで満ちていた街路は、今や新しい法と自由の時代を迎えたことへの誇りと、国王に対する心からの信頼と敬愛の色に染め上げられていたのである。


数日後、静けさを取り戻したヴェルサイユ宮殿のプライベートサロンで、ルイは一通の新聞記事に目を通していた。

そこには、新しく生まれた立憲君主制の仕組みと、王と国民が共に歩む新しいフランスの姿を絶賛する論説が大きく掲げられていた。


そこへ、軽やかな足取りで近づいてきたマリー・アントワネットが、淹れたてのコーヒーのカップをルイの机にそっと置いた。彼女の表情には、かつて王妃としての運命に怯えていた頃の影は一切なく、新しい時代の光を浴びた誇らしい輝きが満ちていた。

「あなた、今日のパリの街は本当に美しかったわ。誰もが笑顔で、あなたと新しい法律について誇らしそうに語り合っていたのよ」


ルイはコーヒーカップに手を伸ばし、愛する妻を見上げて穏やかに微笑んだ。

「王が君臨するが統治せず、すべての力は憲法と法律という公正なルールに基づいて行使される。――私たちが選んだこの道は間違っていなかったということだね、マリー」


マリーは嬉しそうに微笑み、ルイの隣に腰掛けてその肩にそっと寄り添った。

「ええ、いつだってあなたの選ぶ道は、私たちを最高の未来へ導いてくれるわ。あなたはフランスの王であり、そしてこの国を救った最高の英雄よ」


窓の外では、秋の澄み切った空に黄金色の夕日が広がり、新しく生まれ変わったフランス王国の広大な領土と、揺るぎない繁栄の未来を優しく包み込んでいた。

王権の絶対性を自らの手で手放し、ラ・ファイエットと共に人権宣言を起草し、憲法の下で国民と共に歩む「立憲君主制」の形を完璧に確立したルイ16世。

内外のあらゆる脅威を冷徹な知性と圧倒的な先手必勝の戦略で平定し尽くした彼の王国は、もはや誰も揺るがすことのできない永遠の平和と、世界を従える黄金の覇権に向かって、どこまでも力強く、そして優雅に歩み続けるのだった。

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