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バスティーユの嵐、その回避

真夏のうだるような暑さがパリの街を包み込む1789年7月の初旬、首都の空気はかつてないほど重苦しい熱気と、いつ爆発してもおかしくない緊迫した不満に満ちあふれていた。

前世の記憶を持つルイ16世にとって、この時期、この瞬間こそが、フランス革命の歴史において最も凄惨な流血の幕開けとなった「バスティーユ牢獄襲撃事件」が引き起こされるはずの、最大にして最後の危険な瀬戸際であった。


史実の歴史においては、前年の大凶作に端を発する深刻な食料難と高騰し続けるパンの価格に苦しむパリ市民に対し、宮廷の保守派が軍隊をパリ周辺に集結させて威圧的な態度をとったことが、民衆の恐怖と怒りに火をつけた。そして1789年7月14日、怒り狂う群衆が旧体制の象徴であるバスティーユ牢獄へと殺到し、武力衝突と凄惨な流血の泥沼へと国を引きずり込む最大のトリガーとなったのである。


しかし、ヴェルサイユ宮殿の国王執務室で冷徹な眼光を走らせるルイ16世は、その破滅的な未来のシナリオを最初から一片たりとも許すつもりはなかった。


「陛下、パリ市内の穀物市場および周辺の倉庫に関する最終的な物資調達の報告にございます」

特命外交官のフェルセンが恭しく差し出した書類には、フランス全土および中立貿易によって極秘裏にかつてないほどの規模で集められた小麦と食料の備蓄データが正確に記されていた。


ルイは書類に目を通し、微動だにしない冷徹な声で命じた。

「よろしい。パリ市民が飢えに苦しみ、不満の矛先を王室に向ける隙など一片たりとも与えてはならない。直ちに、国家の全備蓄米をパリ市内のすべての主要な広場とパン屋へと極秘裏に、かつ大量に放出せよ。価格も一般の民が余裕で買い求められる最安値に固定する。飢えた腹の虫ほど、暴動の最高の燃料になるものはないからな」


「御意に。すでに王立輸送部隊と、ミラボオーの網を通じてパリ市内の商人たちへの通達は完了しております。明日の朝には、すべての市場の棚が山のようなパンで満たされるでしょう」


フェルセンが下がった後、ルイはもう一つの重大な指示を下すため、影の網の統括者であるオノレ・ミラボオーを呼び寄せた。

ミラボオーは相変わらずの不敵な笑みを浮かべながら執務室に入り、ソファに深く腰掛けた。


「お呼びですか、陛下。どうやらパリの街では、軍隊が街を取り囲んでいるという不穏な噂を聞きつけた民衆が、いつ暴動を起こそうかと気負い立っているようですが?」


「その無駄な心配を取り除くために君を呼んだのだ」ルイは冷徹に言い放った。「パリ周辺に配置されているすべての国王軍の連隊に対し、直ちに撤退命令を出せ。首都の住民を威圧するような軍事行動は一切停止する。大砲も兵士も、すべてパリの視界から完全に遠ざけろ」


ミラボオーはわずかに目を丸くし、そしてどこか感服したような笑みを深めた。

「ほう……! 軍隊をパリから完全に引き剥がすのですか? 史実や周囲の愚鈍な貴族どもであれば、『王の権威を示すために武力で民衆をねじ伏せろ』と叫ぶところでしょうに。それをあえてすべて撤回するとは……さすがは我が国王陛下、敵に塩を送るどころか、敵の持つ武器そのものを最初から取り上げてしまうおつもりだ」


「武器を奪うのではない。暴動を起こすための『大義名分』と『恐怖』を根本から消し去るのだ」

ルイは静かに立ち上がり、窓の外の青空を見据えた。

「民が暴徒と化し、バスティーユの要塞に殺到するのは、政府が自分たちを脅かし、飢え死にさせようとしているという恐怖と絶望があるからにすぎない。ならば、その恐怖の源である軍隊を消し去り、街を最高のパンと豊かな物資で満たしてみせよ。飢えもせず、脅かされもしない人間が、わざわざ命を賭けて要塞を襲撃する理由などどこにもなくなる」


その数日後、パリの街は歴史の教科書が描くはずだった「恐怖と血の嵐」とは全く異なる、驚くべき平穏と活気に包まれていた。


早朝のパリ市内の市場や広場には、これまでに見たこともないほどの大量の小麦と焼きたてのパンが山のように積み上げられ、信じられないほどの安価で市民たちに配給されていた。高騰し続けていたパンの価格は完全に安定し、人々は空腹の苦しみから完全に解放されていたのである。

さらに、パリの街を威圧するように周囲を取り囲んでいたはずの国王軍の軍隊や大砲の姿は影形もなく消え去り、残っていたのはただ平穏な日常と、王室に対する予期せぬ安堵の空気だけだった。


バスティーユ牢獄の周辺を偵察していた過激な指導者や不穏分子たちは、民衆を煽動して襲撃の口実を作ろうと必死になって声を張り上げたが、肝心の民衆は山のようなパンに囲まれ、穏やかな笑顔で家族と食事を楽しんでおり、誰も煽動の呼びかけに耳を貸そうとはしなかった。

「おい、どうなっているんだ……? 軍隊が攻めてくる恐怖もなければ、明日のパンがないという絶望もない。これでは、我々が立ち上がる大義名分がどこにもないではないか……!」

過激派の男たちは頭を抱え、自分たちが仕掛けようとしていたはずの革命の導火線が、水に濡れたように完全に不発に終わっていくのをただ呆然と見つめるしかなかった。


数日後、パリの平穏と完全な秩序の回復を確認した報告書に目を通しながら、ヴェルサイユ宮殿の執務室でルイ16世は静かに息をついた。

そこへ、何も知らずに軽やかな足取りで入ってきたマリー・アントワネットが、明るい笑顔を浮かべながら夫に歩み寄ってきた。


ラムの香るお茶を淹れたカップをルイの机に置き、マリーは不思議そうに首を傾げた。

「あなた、パリの街で何やら大規模な暴動が起きるかもしれないって、あんなに宮殿の者たちがピリピリしていたのに……今日届いた報告では、街中がすっかり落ち着いて、むしろ市民たちが国王陛下の寛大さに感謝しているって大騒ぎよ。一体、裏で何をしたの?」


ルイはティーカップを手に取り、愛する妻を優しく見上げて微かに笑った。

「大したことではないよ、マリー。人は、飢えておらず、明日の命の心配がないとき、そして無意味な恐怖に怯えさせられていないとき、わざわざ国を壊そうなどとは思わないものさ。ただ、当たり前の平穏と豊かさを与えただけだ」


マリーは嬉しそうに微笑み、ルイの腕にそっと寄り添った。

「本当に、あなたはいつだって私の予想を遥かに超えて、この国を最高の平和へと導いてしまうのね」


窓の外では、夏の太陽がヴェルサイユの美しい庭園をまばゆい黄金色に照らし出し、心地よい風が新しい時代の安定と繁栄を祝福するように吹き抜けていた。

パリ市民の不満が爆発する直前にすべての食料不安を解消し、軍事的な威圧を完璧に撤回したことで、歴史の最大の爆弾であった「バスティーユ牢獄襲撃事件」のトリガーを完全に外し、流血沙汰を未然に防ぎ切ったルイ16世。

内外のあらゆる脅威と矛盾を冷徹な計算と圧倒的な先手必勝の知性によって完全に平定したフランス王国は、もはや誰も揺るがすことのできない絶対的な黄金期を、どこまでも力強く、そして優雅に謳歌し続けるのだった。

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