剣神ドラゴンクエスト 蘇りし伝説の剣 (後編)
剣神ドラゴンクエスト 蘇りし伝説の剣は2003年に発売された体感型ゲーム。当時主流だったPS2のソフトではなく、ソフト内蔵型のゲームである。
後のWiiやドラゴンクエストソードの原型とも言える。
「こっちこっち上がって上がって」
チトセの案内のまま詩織はレジ横の扉から居住空間へとお邪魔する。どうやらショップの隣が民家になっているようだ。
今の時代には珍しい木造の古民家でどことなく安心感を覚える、聞くところによると最近耐震工事をしたから見えないところはしっかり新しくなってるらしい。
板張りの廊下を進み六畳半の居間へ通される。入るや否やチトセはテレビに先程のゲームをセットし始めた。
古き良き日本家屋、畳の匂いはしないが畳の目に沿って指をなぞればどことなく楽しい。畳に直接座ってたのを見てか見ずか、チトセは「そこらの座布団テキトーに使って」と言ってきたので、テキトーに座布団とって正座する。少し固い。
「よーしセット完了」
と言ってチトセはテレビの前に立って具合を測っている。
テレビの上にはさっきの紋章のついた箱が乗っており、よくよく見たら乗せやすいように液晶テレビの裏に台座みたいなのがついている。
「角度的には大丈夫そうかな、どうどうよ、これ本当はブラウン管テレビに乗せて遊ぶんだけど、液晶じゃ薄すぎるから爺ちゃんが専用の台座を作ってくれたんだよ」
「へぇ」
シンプル凄い。器用だとは思ったけど孫のためにここまでしてくれるのもまた微笑ましい。
「ところでブラウン管テレビってなんですか?」
「昔のテレビだよ、直接見た事無いけど箱みたいな形してるやつ」
「ああーあれか、教科書で見たことあります」
むしろ教科書でしか見る事なさそう。
「という事ではい」
と剣を渡された。この剣を振ると、紋章箱……という名のデバイスが動きを読み取ってくれるそうだ。
「え、まさかやるの私?」
「そだよー、お客様を……えっと、せ、せったい! できる僕って出来る小学生だよねぇ」
接待だろうか、確かに難しい漢字だし小学校では習わないだろう。ちなみに詩織は読書によってこの手の漢字は鍛えられている。
「私ゲームとかやった事ないんですけど」
「ほほー、ならこれが初デビューだね。ていうかさっきからですとかますとか、私とか、大人ぶりたいのはわかるけどもっと気楽に話していいんだよ」
接待とかなんか言ってたこの子には言われたくない。
「うーーん、でもこの話し方に慣れちゃってますし、いや慣れてるし」
「まあいいや、ほい始まったよ」
いつの間にか画面ではゲームが始まっている、タイトル画面では「ぼうけんする」と「たいせんする」があり、他にはゲームは知らなくてもドラゴンクエストならではの壮大なメインテーマが流れている。
「えっと、縦に振るのかな」
下の方に「タテに振ってスタート」とあるのでそうだろう。
おっかなびっくりで両手で持った剣を縦に振る。リモコンくらいの重さかと思ったらそれよりもう少し剣が重く感じる。
縦に振るとYES、横に振るとNOらしい。
次の画面でモードが選べて、ストーリーやミニゲーム、剣の調整や強さが確認できる。チトセの指示に従って剣の調整で振る時の具合を合わせてからストーリーを開始する。
「物語はドラゴンクエスト1をベースにしてて、単純に囚われたローラ姫を助けて竜王を倒す話だよ」
「ほうほう、シンプルでわかりやすいですね、わかりやすいね」
「慣れないなら口調はそのままでいいよ」
お言葉に甘えて。
練習場で斬り方や必殺技の出し方を覚えてからいざ冒険へ。
モンスターを退けながら平野を抜けて辿り着くはロトの洞窟、ここまでは順調に進む事ができ、剣パワーも20を超えている。
チトセの解説によれば、連続で攻撃を当てると剣パワーと呼ばれるゲージが上昇して攻撃力が上がるらしい。更に修理のおかげで感度が良くなったらしく、割と遊びやすくなってるとか。お爺さん凄い。
「わ! 可愛いのが出てきました」
「ももんじゃだね、可愛いよねぇ」
最初のボス兼、防御のやり方を教えてくれる。ここでバリアの仕方を覚えてももんじゃを倒し先へ。
このももんじゃはモモたんと言うらしく、可愛い。しかも仲間になる。俄然モチベーションというものが上がる。
モモたんを連れてまた平野を進み、今度は呪文の使い方を覚え、ボスを倒して最初のステージをクリアする。
「おおー、ちょっとかっこいいて評価されました」
「いいね!」
「じゃあ次チトセ君」
「いやいや、シオがこのままやりな」
「え? でも自分ばかり」
「実はこれやりすぎて腕が筋肉痛でめちゃくちゃ辛い」
ちょっとかっこわるい。
「えっと……こう? あ、ダメか」
ゲージが溜まると画面に現れる五つの玉を、タイミングよく斬ったり斬らなかったりバリアでなでたりすれば必殺技が放てるのだが、あまり上手く出せずに毎回空振ってしまう。
「うーん、振り方が悪いのかな」
今は練習場で必殺技の練習をしているところだ。
「じゃあ次は僕も一緒にやろう!」
「へあ!」
唐突にチトセが剣を握る手に右手を添えてきて、尚且つ彼自身は後ろで密着してきた。同年代の異性にこんなに密着された事などある筈もなく、ただただ顔を赤くして狼狽えるだけであった。
しかもそんな詩織の都合など後ろにいるからか全く気付く様子はなく、あろう事か「いい匂いするね、シャンプー何使ってるの?」と尋ねる始末。
恥ずかしさと緊張となにやら甘い感情が全てない混ぜになって頭と心臓がおかしくなってしまいそうだ。
「わ、わわわ」
「肘で振るようにして、先端を画面に向けるようにすれば……ほら! ビッグバン!」
画面では最強の必殺技らしいビッグバンが発動しているが、残念ながらそれどころではない! 握られた手にずっと視線は固定されているし、意識は後ろの男の子に持っていかれている、神経はずっとチトセの吐息やら体温やらを感じとるわでどうにかなりそうだ。
これが、男の子とあまり会話した事が無いゆえの弊害……これからはもう少し会話を心掛けた方がいいのかも。
「び、びびビッグバン!!」
「おおー」
チトセが離れてからもう一度やってみると今度はちゃんと成功した。いや、成功しなければまたさっきと同じ事が起きてしまうかもしれないから失敗は許されない……いや少しくらいは……いやいや。
「ここボスラッシュだから大変だよ」
「頑張ります……て、モモたん!?」
ステージ開始早々モモたんが攫われてしまった、そしてそのモモたんは……。
「モモたぁぁぁぁん!!」
ボスラッシュを抜け待ち受けていたのは、なんと竜王によって洗脳され闇堕ちしたモモたん!
泣く泣くモモたんを倒せば洗脳が解けるのだが、それで再び仲間になる事はなく、ギガッシュのヒントを残して他界してしまう。
「モモたん、そんな、モモたん!!」
「わかる。僕もここは辛かった。腕の筋肉も」
台無しだ。
「さあ、いよいよ最後だよ!」
「あ、このセリフ知ってる。世界の半分あげるっての」
「実際世界の半分いる?」
「いらないかな」
「だよね」
という事で世界の半分を拒絶して竜王戦である。最後のボスだけあって攻撃が苛烈であっという間に体力を持っていかれてしまう。
三回やり直して何とか行動パターンを掴んで竜王を撃破する。
「「やったー!」」
いえーいとハイタッチ。
時間を忘れるくらい遊んでしまったのはいつ以来だろう、もしかしたら初めてかもしれない。時計の針はもうそろそろ十九時になろうとしている。
門限もとっくに過ぎてるから帰ったら怒られるだろうなあ。
「いやあ初めてみたよ剣神のエンディング」
「え、そうなの?」
「いつもモモたんの前後で腕つっちゃって、やっぱ運動もちゃんとした方がいいかなあ。シオはずっと剣振ってたけど全然大丈夫そうだよね、なんかスポーツとかしてるの?」
「えっーと、合気道と剣道を少し」
少し照れくさくてボソッと小声で呟く。
「うわ! かっけえ!」
「シオシオー、そろそろ帰ろっか」
玲花に呼ばれて門限過ぎてたことを思い出した。
「そうだ帰らなきゃ、今日はありがとう、すっごく楽しかった!」
「それは良かった! じゃねー」
「門限過ぎてるんだから途中で呼んでも良かったのに」
屋敷に着いてから、ふと尋ねてみる。こんな時間になれば送迎を担当した玲花だって叱られるだろうに、どうしてあの時止めようとしなかったのだろう。
「だって、あんなに楽しそうにしてたら邪魔できそうになくてねー」
「そ、そんなに楽しそうだった?」
「それはもう、途中から敬語も抜けてたし」
言われて見れば。それくらい心を許したと言う事だろうか、そう思うとチトセに会いたくなってしまった。また会えるだろうか、遊べるだろうか。
次はいつ遊びに行こうか。
しかし、チトセは一週間後に引っ越したらしく、結局あの日以降会う事は無かった。
「初めて会った場所って、ウチじゃん」
津雲千歳は家の前で愕然としていた。
それというのもついさっきやたらと絡んできて、かつ一方的にこちらを知っているらしい由良詩織と言う女の子から、ゲームで勝った時の報酬として、初めて出会った場所がこのお店だと教えてもらったからだ。
「ここで初めて会った女の子なんていたかなあ」
思い返して見ても思い当たる節は無い。確かにお客さんの中に女の子はいたが、まともに会話なんてした事ない。
もしあるとすれば、剣神ドラゴンクエストを遊んだあの子くらいか。名前は何だったかな。
「いやでもあの子はないかあ。そいや今どこで何してんだろ……元気にしてるかなぁ、あの男の子」




