剣神ドラゴンクエスト 蘇りし伝説の剣 (前編)
小学生の頃の思い出と言えば何があるだろうか、少なくとも私には、由良詩織にとってはお稽古と勉強が大半を占めている。あとは読書くらいだろうか。
今思い返してみても実に味気ない小学生だったと思う、当時は根が暗くてクラスメイトともまともに挨拶すらできない、目を合わせるのが苦手でいつも下を向いていたし、見られたくなくて前髪も少し伸ばしてた。
読書してたのも話しかけられたくなかったからだし、うん、陰キャだった。
でもそんな私でも忘れられない思い出がある。それは小学五年生の三学期の事だ。
「ふぅ……あ、もうこんな時間」
放課後の図書室、お迎えが来るまで本を読んで過ごすのが日課だった。今読んでたのは川端康成の短編集で、表紙が荒木飛呂彦先生だ。
「今日は遅いなあ」
ふとスマホを見るともうすぐ16時になろうとしている。いつもなら15時半には迎えの車が来るのだが、何かあったのだろうか。
「わっ」
急に通知が来てスマホが震えたのでビックリした。
相手は今しがた考えていた送迎ドライバーからだった、どうやら直前になって体調不良になったらしく、迎えにはいけないと深く謝罪している。
一応代わりの者を用意したとあるが、とりあえずそんな事よりも身体を労わって休むよう伝えてスマホを閉じた。
代わりの者が来たのは十六時ちょうど、呼ばれて校門にでればモデルのように脚の長い、ライダースーツのお姉さんがそこに立っていた。傍らにはアクション映画でしかみないような大きいオートバイがある。
黒髪ロングでモデル体型の美人、出るところに出たら人気が出そう。
そんなお姉さんがこちらを見るや和かに手を振ってくる。
「やあ、詩織ちゃん。待ってたよ」
「あ、あなた確か」
見覚えがあった。むしろ同じ屋根の下に住んでいる。
「玲花だよぉ、今日はお父さんがごめんねぇ」
名前は氷室玲花さん、いつもは使用人達が寝泊まりしている別館にいるから顔を会わせる事が無いのだけど、送迎ドライバーの娘さんでよく話を聞いたりするので顔は知っていた。
「いえ、あの……お父様にはお大事にと」
「いいよいいよ、気にしないで。体調崩したのなんて自己責任なんだし」
親子だからか遠慮が無い。
「そいじゃ帰ろっか、後ろに乗ってもらうけどいいよね」
「え! 後ろってまさか」
「もしかして二ケツした事ない?」
「は、はい」
「大丈夫大丈夫、これグランドツアラーだから快適よ、ほらダンデムシートのとこ背もたれあるし」
よくよくみれば二人乗りを想定しているとわかるつくりで、特に後部は乗っている人を包むような作りになってる。
「でも私、スカートなので」
無意識に制服のスカートを抑える。
「そりゃスカートは危険だから着替えてもらうよ、はいこれ着替え」
ちゃんとそこは良識あって助かった。単純に捲れたら恥ずかしいという意味で言ったのだが、どうやらスカートのバイク走行はかなり危険らしいと後で聞いてわかった。
渡された着替えは玲花が着ているのと同じライダースーツ。教室に戻ってから着替えてみるとサイズがピッタリで驚いた。玲花さんのライダースーツが身体のラインが出てセクシーだったのでそういうのかと思っていたら、生地が厚くて少しゴワついてる感がある。
「おおー、いいねー。せっかくだから詩織ちゃん宝塚目指さない?」
「そ、そういうのはちょっと」
ロクに人と喋れない自分がそんなとこ行ったら死ねる自信ある。
「じゃあ乗ってみて、ちゃんとダンデムステップに両足乗ってるかな?」
「あ、はい。これですね。両足で踏めてます」
「よしよしこれヘルメットね、じゃあ出発しようか。あ、そうそう」
ブルンッと景気のいいエンジン音を聴きながらヘルメットを被る。
「なんですか?」
「ちょっと寄りたいとこあるんだけどいいかな? いやまあ個人的な要件なんだけどねー」
「いいですよ、どうせ今日は習い事とかも無いし」
「サンキュー、話がわかる詩織ちゃん大好きー」
そうして軽快に初めてのバイクは街を滑るように駆け抜けていく。玲花は後ろに座っている私を気づかってかあまり速度を出さず、かつ曲がる時もなるべく傾かないよう配慮してくれた。
おかげで初めてのツーリングは気持ちのいい風を浴びながら、いつもとは違う同じ風景を見る新鮮なものだった。
「着いたよ」
辿り着いたのは小さなゲームショップ、玲花曰く個人経営の穴場スポットなのだそうだ。
ゲーム自体はクラスの子が教室でやっていたのを見た事があるくらいで、それもスマホのゲームを、なのでこういった本格的なゲームするための機械を売るお店は始めてだ。
「そうそう、天下のお嬢様が学校帰りにゲームショップなんて体裁が悪いだろうし。帽子被っておいて」
「は、はい」
差し出されたニット帽に髪を全部収めてから、ショップのガラス扉で自分の姿を確認すると、あら不思議、パッと見は男の子に見える。
中へ入れば、右を見ても左をみてもゲームばかり。確か昔のゲームは専用のゲーム機にソフトというのを挿して遊ぶと聞いたことがあるけど、ここに並んでるのはどれがゲーム機でどれがソフトなのだろうか。
奥に行くとレジカウンターがあり、更にその奥では店主らしきお爺さんが黙々と何かを修理していた。
「ちわーす、氷室でーす。注文してたの取りに来ましたー」
「おー玲花ちゃんじゃないか。ほいよ、ご注文のゲームギアじゃ」
人の良さそうな好々爺だ、修理してる時の横顔は少し怖い印象もあったが、玲花が喋りかけるとすぐに柔かな笑みで髭を揺らしながら応対してくる。
「おほー、これこれ」
「画面を弄ってバックライト付けておいたぞい。まあもう売り物にはならんがな」
「いやいや、売る気ないって! お爺ちゃん好き好きー」
何やらテンションがおかしい。
玲花とは屋敷でもたまにすれ違う時に挨拶する程度であまり詳しく知らないが、こんなキャラだとは思わなかった。
呆れていると、ドタドタと足音を鳴らしながら小さな男の子がレジ横の扉を開けて店に入ってきた。
同い年くらいだろうか。
「爺ちゃん、アレ直った?」
「おーほほ、勿論さっきちょうど直った所じゃ」
そう言ってさっき修理していた物を少年に渡した。それは玩具の剣と紋章のような物が書かれた箱? のような形をしたゲーム機だった。
「やったー! あれ?」
まじまじと見ていたのがバレたのだろうか、不意に少年がこちらに気付いて首を傾げる。
「ねぇ君」
「え!? な、なに?」
不意に話しかけられるとビックリする。それも男の子なら尚更だ。
「今暇? 運動できる? 遊ばない?」
「わ! いや、あの、わわ」
畳み掛けられるとあたふたする、距離が近い!
「大丈夫だよ、今シオシオは暇してるから遊んでくれる?」
「えぇ!?」
勝手に決めないで欲しい、というかなんだシオシオって、そんな呼び方初めてだよ! ちょっと可愛いて思ってしまったのが悔しい。
「シオっていうんだ、僕はチトセ、よろしく」
「うっ、よろしく」
こちらの思惑など露知らずに事態は進む。
「よしじゃあ早速直りたてのこれで遊ぼうよ」
と取り出したのは先程の剣と紋章のゲーム。
「剣神ドラゴンクエスト! だよ」
知らない。




