テイルズオブファンタジア (後編)
RPGのお約束といえば?
という問いになんと答えるのが正しいのだろう、そもそも答えは一つではないのだから何を言っても正解となりえる。
お約束の一つといえばやはり、村焼きではないだろうか。
「開幕故郷が焼けましたわ!!」
「RPGといえば村焼き、ブレスオブファイアしかり、ドラクエしかり、故郷を滅ぼしてこそRPGよ」
「そんなルールひどいですわ!! アミィちゃんこんなに幼いのに!」
ファンタジアの村焼きは他RPGの村焼きと比べても容赦がない部類だと思う、村にいた人は老若男女皆殺しにされ、パーティメンバーのチェスターの妹はまだ十五歳だ。
妹の死体を前にして崩れ落ちるシーンは印象深い。
「捕まりましたわ!! 騙されましたわ!! クレスさんお労しすぎませんか!?」
場面はクレスが叔父に騙されて村を焼いた騎士団に売り渡されたところだ。確かに序盤のクレスは辛いシーンが続いている。だがこの一連の痛みが後のカタルシスに繋がるのだ。
画面は進み、クレスは脱獄して同じく囚われていたミントを助け出したところに来ている。
「ミントさんは見た目通りヒーラーですね。パーティから外す事はあまり無さそうです」
「実際ミントを外す事はほとんど無いと思うよ」
何せパーティメンバーで唯一のヒーラーなのだから。
ファンタジアと名乗っているからファンタジー要素が強いのかと思われがちだが、いや確かにファンタジー七割くらいなのだけれども、実際にはSF要素が随所に敷き詰められており、魔法だけではない科学の世界が展開される。
その最たるものが。
「タイムスリップしました、タイムスリップしましたよ千歳さん!」
興奮した詩織がゆさゆさと肩を揺らす。赤べこよろしくな首のまま落ち着くのを待っていたら、何やら首が痛い。
「歴史改変が本作のメインストーリーだからね。映画で例えるならバック・トゥ・ザ・フューチャーかな」
そういえば発売時期を考えたら、バック・トゥ・ザ・フューチャーが一世を風靡していた時代と重なるのか。
「この過去でダオスを倒してしまうわけですね」
「まあ、そうだね」
ファンタジア知らなくてもダオスは知ってる人もいるだろう。ファンタジアのラスボスであり、金髪ロン毛のイケメンでイケボ。結末の悲哀も込でファンも多い。
過去に跳ぶきっかけになったのもダオスであり、クレス達とは何度も戦う事になる因縁の敵である。
さてこの過去編では残りのパーティメンバーであるクラースとアーチェを加入させたり、召喚獣を集めたり、はたまたダオスを倒すための情報集めをする。
中々に濃ゆいところとなっている。
むしろ本作の見せ場のほとんどはこの過去編に詰まっているといっても過言ではない。
「思えば平成前期にこうやってタイムスリップするRPGて珍しくないですか?」
「そうでもないよ、同じSFCでもクロノトリガーにスターオーシャン、グランヒストリアなんかもあるしね」
「おお、私が浅はかでした」
「もしかしてこういう時間移動するタイプ好きなの?」
まってましたと言わんばかりに詩織の目が輝きだす。ほんとに好きらしい。
「大好きです! さっき千歳さんがだしたバック・トゥ・ザ・フューチャーはもう何回も見返しましたし、シュタインズ・ゲートはリメイクも移植も全部やりました! ウェルズのタイムマシンも好きですし、ドラえもんはもう聖書です!」
いきいきと、いつも活発で元気な彼女だが、いつも以上に声に熱が入ってタイムトラベルが好きなんだなとひしひしと伝わってくる。
そういうのが好きなんだとは全く知らなかったわけだけど、ファンタジアを勧めたのは大当たりだったのかもしれない。
おかげで外のどんより雨空と対照的に、ずっとランランと瞳に太陽を宿した明るさでゲームを進めている。
でもまあ、そろそろ。
「最終下校時刻だから帰ろうか」
「えぇー、あと六時間ー」
「子供みたいな事を言うんじゃありません!」
五時間もやったら日付けが変わってしまう。
「はーい」
と渋々後片付けをする詩織を横目に窓の外を見る、雨はまだ止みそうにないな。
コート掛けに掛けたシャツはもう乾いていたので袖を通す。
「ふふん、実は置き傘をしているんですよ。どうです? 千歳さん、相合傘とかなんとかしちゃったりしませんか!」
「甘いね詩織さん、これを見たまえ」
「そ、それは!」
入口近くに置いてあるカゴの中、そこからある物を取り出す。
「置きレインコートだ!」
「なんと! レインコートなんですね!」
「自転車通学だからさ」
「なるほど!」
自転車の傘さし運転は事故の元なのでやめましょう。
その日の夜、お風呂上がりに千歳は本棚の奥から一冊の本を取り出した。
「あったあった」
タイトルは「テイルズオブファンダム」、ファンタジアとなりきりダンジョンの続編を描いた小説だ。
過去でダオスと戦い、更には未来に現れたダオスを倒したクレス達が、物語序盤で滅ぼされた村を救うために過去改変を行う話となっている。
「実際過去改変じゃなくマルチバースになるという話なのがキモなのよね」
つまり村を救っても村が救われた時系列ができるだけで、クレスの時代には影響しないというものだ。
だからこそ彼等は自分達の慰みのために村が救われた時系列を生み出そうとするのだ。
「意外と状態いいな」
パラパラと捲ると時間経過による独特の匂いが鼻腔をくすぐった。
この本の特に面白いところは、ゲーム中では序盤が序盤すぎたために、手も足も出ない黒騎士達を相手に、エターナルソードやらメチャ強弓で無双するところである。
強くてニューゲームどころではないのだ。
さらに本編後のクレスは時間移動も次元移動も自由自在なので最早存在がチートレベル。
そりゃ仲間のアーチェから「ズル」だと言われても仕方ない。
数時間後、ファンダムの本を棚に戻してベッドにバサッと倒れこむ。
「久しぶりに読んだけど面白いな、特に最後とか」
本を読んだからだろうか、段々眠気が襲ってきた。まだ歯も磨いていないから眠るわけにはいかない。起きたくない欲求をベッドに置き去りにして部屋を後にする。
更に数日後、授業が終わり昼休みに入って早々に詩織が教室に駆け込んできた。
「千歳さん!」
「どうしたの? そんなに慌てて」
詩織は無言でPSPを取り出してとある画面を出す。それは過去編においてユニコーンと出会うシーンであり。
「アーチェさんは処女じゃなかった!」
「う、うん、そうだね。もう少し声を落としてもらって」
発言が発言だけに嫌な注目を集めてますよ由良詩織さん。
「いったい! 誰とセッ……せっ……せ」
セックスと言いたいのだろうが、恥ずかしさが上回って赤面して言葉が詰まってしまっている。やはりこの手の話題は耐性が無いのだろう。
助け舟を出した方がいいか、このまま見守っている方が面白そうだ。
「せっ、せっ」
「せっ?」
意を決した詩織はついに真っ赤に染った顔で。
「接吻をしたんですか!?」
「そっちかぁ……」
いや、健全な高校生としては正しいのかもしれないのだが。でもやっぱり誰かこの子に性教育してあげて。




