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テイルズオブファンタジア (前編)

 太宰治は走れメロスの中でこう書いている。「黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった」と。

 授業を終えた放課後、電脳遊戯部に訪れた千歳は換気のために窓を開け、空を見上げた時にふとさっきの太宰治の文章を思い出した。さっきまで曇っていただけで雨は降っていなかったのだが、丁度部室に入ったタイミングで「ぽつりぽつり雨が降りだし」たのだ。

 程なくして「車軸を流すような大雨」となり、窓からとんでもない勢いで雨が入り込んで来たため慌てて窓を閉めて施錠した。


「うーわ、シャツが濡れちゃった」


 気持ち悪いので脱ぐ、下に着ていたTシャツは少し湿気った程度で済んで良かった。

 脱いだシャツはハンガーにかけてコート掛けに吊るしておく。天気予報を調べたらこの大雨は深夜まで続くらしい。

 ピロリロリーンと音が鳴り、驚いて肩が震えた。マナーモードにし忘れていたようだ。通知はメッセージが届いた事、相手は。


「見条?」


 メッセージ内容は簡潔にして一つ。


「雨が降ったので濡れ透け見るために部活抜け出したんだけど、お前も来る?」


 というものだった。

 素直に最低だと思う。

 そんな時に部室の扉が開き、この電脳遊戯部の主こと由良詩織が現れた。


「ふぅー、いやぁここ入る直前に雨降っちゃってビショビショですよ」


 の割に水が滴っている事もない、首にタオルを巻いているのである程度拭いたのだろう。それでも乾かすまでには至らないので、髪は乱れているし制服のYシャツは濡れて肌に張り付いている、おかげで透けており下に着用している白のインナーシャツが見える。


「ドライヤーてあったけ?」

「給湯室にあったと思います。ちょっとジャージに着替えてきますね」


 折り畳まれた替えのジャージを胸に抱いて詩織が一度隣の給湯室へ入る。生憎衣擦れの音とかも聞こえてこず、ドキドキなシチュエーションは訪れない。

 かわりに聞こえてくるのは外から聞こえる伸びきった銀糸のような雨が地面や壁を打ち付ける音。

 そしてブブブとメッセージが来た事を震えて知らせる音。見条からだ。


「みんなインナー着てて透けブラ見えねぇんだが」


 そらそうだろ。

 


「お待たせしました」


 十五分くらい経ってジャージに着替えた詩織が帰ってきた。千歳が学校指定の紺色のジャージを着たら野暮ったい感じがするが、容姿の整った詩織が着れば不思議とオシャレに見えてくる。


「ん? どうかしましたか?」


 じっと見ていたら不意に目が合い、小首を傾げてそう尋ねる。照れくさいやら気まずいやらでサッと目を逸らして「いや、なんでも」と言葉を濁した。

 と、今度は詩織の方がこちらをじっと見つめているではないか。


「えっと、なに?」

「いえ、あの……薄着の千歳君……エッチですね」


 モジモジと顔を赤くしながら呟く姿はなんだか、怖い。

 たのむから発情しないでくれ。

 

 

「雨といえば悲壮感をだす演出の定番ですよね」


 藪から棒に詩織が力説する。

 確かにアニメや映画、ドラマや漫画やゲームにおいて、悲しい事が起きたりシリアスな場面になると雨が降る事が多い。


「晴れの時に悲しい演出するよりは、曇り空だった方が悲しい雰囲気あるし」

「あと科学的にもスピリチュアル的にも雨は浄化を意味します、悲しいことを洗い流す事を表せるんですよ」

「こういうのの発祥てどこだろ?」

「日本だと万葉集とかでしょうか、雨を題材にした物悲しい和歌がありますし」

「なるほどねぇ」


 原点を学ぶためにも万葉集を読んでみようかな。


「そんなわけで、悲壮感漂う雨が描かれたゲームやりましょうよ、何かありますか?」

「いきなりだな」


 無茶ぶりに応えられるほど柔軟な思考回路してないのだが。

 パッと思い付いたゲームでいいのなら、一応一つある。


「テイルズオブファンタジアとか?」

「ここに取り出したりますはSFC版とPS1版とGBA版とPSP版テイルズオブファンタジアと、GB版とPSP版のなりきりダンジョンでございます」

「全部あるの凄いな」


 部室に置いてある棚には、詩織が集めてきた各ハードのゲームソフトが置いてあり、テイルズオブファンタジアXもまたその一つであった。


「とりあえずPSP版のテイルズオブファンタジアですね」

「いや、なりきりダンジョンXでいいんじゃない?」

「どうしてですか?」

「なりきりダンジョンXにテイルズオブファンタジア本編が同梱されてるもん」

「そうなんですか!?」

「パッケージの裏面に書いてあるし」


 裏面を見る。


「そうだったんだ!」


 意外と知られてないらしい。


 

 コンバーター経由でモニターに繋いでレッツプレイ。

 テイルズオブファンタジアといえばテイルズシリーズの一作目、原点だ。根強いファンも多く、シリーズで一番移植やリメイクされている、最新ハードが出る度に再移植や再リメイクを求める声が後を絶たないという。


「テイルズといえばOPですよね」

「とばせないねぇこれは」

「ちなみに私、テイルズは初めてです」

「おおー、この時代に初テイルズがファンタジアも中々珍しい」

「早速OPで雨が降ってますね! 濡れ透けしてませんね」


 濡れ透けしたら雨の演出が台無しになるよ。


 

 

 

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