ワンドオブフォーチュンR (前編)
六月に入って早々に梅雨入りとなった。天気予報では台風が発生したと報道しており、おそらく来週には本土に上陸するだろうと言っている。
今日は土曜日で学校は休み、特に何かやる事があるわけでもなく、むしろやる事がなくて暇しているくらい。本当ならこういう日にアルバイトを入れて社畜経験を積みたいところで、入学して直ぐに色んな所に面接希望の電話をかけて慣れない履歴書を書いて送ったわけだが、どこも「十五歳はちょっと」と言われて断られてしまった。
高校生になったら無条件でバイトできると思っていた僕が愚かだった。
誕生日はまだまだ先だから当面は暇を持て余すのだろう。
「雨止まないなあ」
窓の外を見れば空いっぱいに曇天色のカーテンが掛かっており、そこからせわしなく海からやって来た水がポタポタ落ちてきている。これが来週になればバケツをひっくり返したような雨になるのだろう。
かといって晴れていれば外出するのかと言われればNOであり。
「お、これセールしてんじゃん」
晴れていようが雨であろうが変わらず、千歳はゲームストアのセール欄を眺めてゲームを物色していただろう。
「シュビビンマン気になってんだよな、買おうかな」
お小遣いはまだある。今月だったら五千円までなら出せるかな。
「お、ガンヴォルトとブラッドステインド安っす、最安値更新か?」
生憎既に買ってあるのでスルーだ。
そうやってスクロールを動かしながらセール品を見るが、あまりにも数が多いので一旦戻って特集ページを開く。新作特集、インティ特集、ロボ特集と様々な特集がある中、ある特集ページが目に入る。
「乙女ゲーム特集……か」
不肖この津雲千歳、ゲームが得意だと自惚れてはおらぬが、それでも色んな種類のゲームをやってきたと自負している。
しかしそれでも、恥ずかしながら未だに乙女ゲームはやった事がなかった。
「男が男を攻略して何が楽しいのか」
そう、今まで乙女ゲーに食指が伸びなかったのはそれがある、他にも周りに知られたらホモだと思われるのではないかとか、特に理由は無いが社会的に終わるのではとか、そのような事を考えてしまい。
しかもこのゲーム飽和時代においてわざわざ興味の無いジャンルをやる必要性も意義も無い。ではやらなくてよいではないか。
「いや、今こそやる時だ」
必要性も意義も無いからこそ、手を出す価値はある。感性を育てるのは既存のジャンルだが、発想力を養うのは未知のジャンル。
興味が無いからこそやるべきなのだ。
「まあ暇だからなんだけど」
ポチポチと特集ページを開いて乙女ゲームをズラっと眺めていく。
「うーん、何がいいんだろう。やっぱり有名な薄桜鬼とかかな」
だが薄桜鬼はセールに入ってなかった。
「あ、これいいな。悠久のティアブレイド。ロボデザかっこいい。へぇ、アルカナ・ファミリアはマフィアの話なんだ。明治東亰恋伽も気になってきた」
先程色んな理由をこじ付けて乙女ゲーを避ける旨を語ったが、いざ開いて見ると楽しくなってきた。結局個人の問題だったというわけだ。
「うーーん、とりあえず気になったものを一通りリストに入れたけど、どれにしようかな」
小遣い的に買えるのは一作だけだ。
どれも値段はほぼ同じ。調べて見ると全部PSPやPSvitaの移植やリマスターだった。もしかしたら名作と呼ばれてる乙女ゲーはこの辺の時代に集約されてるのかもしれないな。
そうなると、むしろ正統進化を果たした今の乙女ゲーを先にやるべきなのかもしれない。
少し調べて最近発売された乙女ゲームを調べてみたが。
「たけぇ」
セールしてても五千円切るか切らないかのレベルでとてもじゃないが手を出し辛い、やはり最初はリマスター系から攻めるか。
「さて何にするか、こういう時はやっぱりパッケージみて選ぶのがいいよな」
というわけでズラーとパッケージを眺めていくのだが。
「どれも同じに見える」
ギャルゲーのヒロインが同じに見えると言う人がいるのと同様の現象が起きている。
「慣れたら見分けつくか……じゃあ最初は、これにしようかな」
選んだのはワンドオブフォーチュンR。
選んだ理由はパッケージの女の子が可愛いから。
別に乙女ゲーを女の子で選んでもいいよね!!
購入、そしてダウンロード。
ワンドオブフォーチュンは二〇〇九年にPS2で発売され、翌年にファンディスクの未来へのプロローグが発売されている。
このワンドオブフォーチュンRはその二作を一本にまとめ、また主人公のボイスやデフォルト呼び、顔グラを追加したバージョンのものだ。
「ええっと、あらすじは魔法学校に転校してきた主人公は無属性だと判明して、でも属性無いのは危険だから、属性を得るために勉強すると、できなかったら魔法剥奪なわけと。
なるほどね、厨二だ!! どうしようワクワクしてきた」
不肖この津雲千歳、厨二病設定大好きで候。
「よし、まず乙女ゲーやる前に自分も乙女にならないとな。僕は乙女僕は乙女僕は乙女……」
目を閉じ、ただひたすらに自己暗示をかけて己を乙女へ。
完璧だ、わかるわかるぞ、今の自分は完璧な乙女だ。鏡を見ればそこには黒髪清楚な美乳美少女が映っているに違いない。
ここに引っ越した時に、母が無理矢理部屋に置いた姿見で黒髪清楚美乳美少女の姿を見てみれば、そこにはヨレヨレのシャツを着た寝癖すら直していない辛気臭い陰キャ男子の姿がそこにあった。
「…………鏡を見るのはやめよう」
真理である。
起動して早速ゲーム開始である。
「しまった、OP飛ばしちゃった。まあいいか、どうせプロローグ終わったら流れるだろうし」
こういったアドベンチャーゲームは大抵プロローグ終わりにOPが流れるもので、実際このゲームもその類であった。ものによってはプロローグ終わりに流れるOPとタイトル画面前に流れるOPが違うものがあるので、やはり後で確認はしとくべきだろうか。
「パッケージの女の子が主人公だったのね、名前はルルか」
ピンクの髪のウェーブがかったセミロングの控えめな胸の美少女、全然黒髪清楚美乳美少女からはかけ離れている。
「最初の流れはあらすじ通り、ていうかもしかしてルルの声って堀江由衣? つまりこれから自認堀江由衣でやるべきなの? よし、僕は堀江由衣僕は堀江由衣僕は堀江由衣」
今度は自己暗示で堀江由衣の声を得ようとする。何度も復唱した結果、ついに津雲千歳は堀江由衣の声帯と同期する事に成功したのである。
完璧だ、今の自分の声はまさしく堀江由衣、せっかくだから録音してみよう。
「ふたりの魔法! キュアマジカル!」
やだ! ちょっと今の完璧に堀江由衣じゃありませんこと!?
自分の才能が恐ろしいわ! さてさて録音はと。
録音アプリで録った自分の声を再生してみる、そこから流れてきたのは、声変わりして低音しかでてこない辛気臭い男が精一杯裏声だした結果、気色の悪いおぞましい不快音波と化した陰キャ男子の声であった。
「…………録音して聞くのはやめよう」
真理である。




