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マリオのピクロス (後編)

 壁をよく観察すると、壁画は全部で256。全て正方形であり、さらに壁画が数cmの小さな正方形がマス目のように埋め尽くされている。それぞれ10×10の壁画と15×15の壁画がほとんどで。八個だけ5×5の壁画がある。


「あ、マリオ教授から連絡がきました」

「なんて」

「繋げますね!」


 詩織が床に膝を着いて、鞄からノートPCを取り出して開く。随分と古そうな型番に見える。

 しばらくしてマリオ教授の顔が画面の左上に映され、同時に5×5のマス目場の正方形が真ん中に出てきた。


「それでは『ピクロス』のあそびかたをせつめいします」

「なんだって?」

「しっ! マリオ教授のありがたい教えですよ! 私達のために優しくチュートリアルをしてくれるんです」

「いやチュートリアルて」


 マリオ教授の教え方は単純明快で、描いてある数字は削るマスの数を意味する事、必ず数字マスと数字マスの間には1マス以上の感覚が開く事だった。

 つまり「525」と横列に数字が並んでいたら、その列は全部で12マス削る事がわかる。更に削る際は5マス削ると1マス以上開けて2マス削る、そしてまた1マス以上開けて5マス削る事となる。


「ほんとにこれピクロスじゃん」


 ちなみにピクロスの経験はおじいちゃんが店番してる時に横で眺めていた程度だ。


「つまり古代人はピクロスで歴史を保存していたわけですね。いやはやまさかピクロスにこのような起源があるとは思いませんでした。

 私てっきりピクロスとは任天堂がお絵描きロジックの事をピクチャークロスワードと称したのが始まりだと思ってました」


 実は自分もそう思っていました。まさか古代文明においてピクロスの存在が確認されるとは、これは考古学会を揺るがす大事件かもしれない。

 ひとまず始めてみよう、最初は小さな壁画からやるのがいいだろう。


「5マスしかないから、5とだけ打ってるこの列は全部掘ると」

「ちなみに間違ったところを掘るとカウントが短縮されます」

「急にプレッシャーかけるの止めてくれない!?」

「あとBボタンで×印を付けることができますよ、これにペナルティはありませんので」

「Bボタンてなに!?」


 なにはともあれ、まず確定しているところを掘りすすめていこう。掘る事が確定しているマスだけ掘り、掘らない事が確定してるマスには×印をつけ、そうしていくうちにだんだん壁画が完成していく。


「よし、これで三十個目だ」

 掘っているうちはそれがどんなものかわからないのだが、不思議なことに出来上がった途端にわかってしまい、アハ体験のような快感がある。

 気付けば夢中になって次から次へと掘り進めていた。


「でも一つ疑問があって」

「なんですか?」

「なんか近代的なの多くない?」


 そうなのだ、出来上がる古代の壁画には車や電球、コーヒーメーカーなど近代的な機械が多いのだ。古代にこのような機械があったとは驚きを通り越して疑心が湧いてくる。


「極めつけはこれ、ゲームボーイ」


 今さっき完成させた壁画を指さした。そこには紛れもなくゲームボーイが描かれていたのだ。

 だが詩織はそれらの指摘に動ずる事はなく、ただ不敵に微笑みを浮かべていた。


「どうやら、世界の真実を明かす時がきたようですね」

「世界の、真実?」

「そう、この世に溢れている機械、ゲームボーイ等は全て古代文明の遺産を元に発明されたんです!!」

「な、なんだってぇぇぇぇ!」


 なんて事だ、つまりエジソンも任天堂も、全て古代文明から得た知識をもって発明をしていたと言うのか。

 あまりの衝撃で手が震える、これは絶対に公表できないものだ。下手をすれば人類史をひっくり返す結果となってしまいかねない、落ち着こう、ここは落ち着いてただ無心に壁画と向き合うのだ。

 コッコッと壁画を削り、目の前の数字とにらめっこしているうちに平常心が蘇ってくる。


「完成だ、えーーとこの絵は……マリオ教授??」


 間違いない、マリオ教授だ。壁画の一つがマリオ教授を描いていたのだ。

 これは一体どういう事だ、何故古代文明の壁画の中にマリオ教授がいるのか、まさかマリオ教授は古代人なのでは、だがそれだとマリオ教授は何千年も生きている事に。


「どうやら知ってしまったようですね」

「由良さん?」

「そう、マリオ教授は古代人が残したゴールドスリープで眠っていた生きる遺産だったんです」

「馬鹿な!」

「更にコールドスリープしていたのはマリオ教授だけではありませんよ」

「え?」

「私も、そして……千歳君も」

「う、嘘だ。ありえない」

「試しにそこの壁画を削って見てください。そこにハッキリ描かれている筈ですよ」


 まさか、マリオ教授だけではないのか、おそるおそる指定された壁画を削り始める。マスを一つ削る度に完成が近づいていくが、おそろしくてそれが何なのかわからない。

 もし詩織の言っている事が事実なら、この壁画に描かれているのは僕……。


「完成した」

「はい、アルマジロですね」

「…………」

 

 

 

 不意に目が覚めた。

 視界に入るのはあまりじっくり見ない部室の天井、寝相が悪かったのか首が少し痛む。

 まだ頭が眠っているのかハッキリと考えられない。しばらくそうしていると子気味良い曲が聞こえてきた。


「あれ、由良さん?」


 音のする方へ首を回すと、詩織がSwitch2で何かのゲームを遊んでいるのが見える。何やら難しい顔をして画面を睨みつけていた。詰まっているのだろうか。

 声を掛けたら気付いたようで、しかめっ面から一変してパァと明るい笑顔で笑いかけてきた。


「おはようございます千歳君。もう夕方ですよ」


 時計を見ると二時間くらい寝ていたらしい。


「ほんとだ空が赤いや。なんか変な夢見てたなあ」

「どんな夢ですか?」


 う〜んと伸びをしながら夢の内容を思い出そうとしてみるもハッキリと思い出せない、まあ夢ってそんなものよなと思いながら覚えている要素だけを口に出してみた。


「確か由良さんが出てきたんだよね」

「え! わ、私ですか! 私が千歳君の夢に、へへ」


 何やら嬉しそうだ。しかし未だ寝ぼけ頭ゆえ何が嬉しいのかわからない。


「んで、ええとそうだ古代文明の壁画を発掘してて」

「ほうほう」

「そしたらマリオ教授がコールドスリープしていた古代人で」

「ほう?」

「僕はアルマジロ」

「なるほど夢ですね」


 だからそうだと言っている。


「ところで由良さんはなんで部室に? 今日は休みだよね」

「ええ、帰ろうとしたら部室に明かりが付いてましたので様子を見に来たんです。そしたら千歳君が寝ていらしたので」

「起こしてくれれば良かったのに」

「いえ、せっかくだから寝顔見ながらゲームしようかと」


 せっかくの意味がわからない。


「ふぅん、なんのゲームしてたの?」

「ニンテンドークラシックで配信されてるマリオのピクロスですよ」


 何であんな夢を見たのか理由が判明した。

 

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