マリオのピクロス (前編)
「ねーむ」
タブレットに映る問題集を睨みつけながら千歳は呟いた。
ゴールデンウィーク明けの登校日、一週間近い休みを経れば学んだ事柄なぞ忘却の地平へ置き去りにもしよう。何が言いたいかとすればつまり、本日唐突に発表された一学期中間テストの日程とテスト範囲である。
日程はちょうど七日後、そしてテスト範囲は聞かされても「なんか見覚えあるなあ」ぐらいの認識、やばい。
勉強しなくてはならない、だが家ではゲームがあって誘惑が多すぎる。図書室は本を読むところという意識が強くて勉強とはなれない。そうだ部室に行こう!
部室には確かにゲームが置いてあるが、それらは全て部長の由良詩織の私物だ。
流石に人の私物を勝手に触る訳にはいきません。更に今日は部活は無いとの事。
好都合と思い放課後になってすぐ部室に来たのが三十分前。
「まずい、気持ちよすぎる」
窓から差し込む暖かな春の日差し、頬を撫でる程よく冷えた風とのコンビネーションが勤勉な学生のまぶたを重くさせる。
わかりやすく言うとめちゃくちゃ眠い。
抗おうとしても睡魔は容赦なく思考力を奪い、一種のトランスに近い状態へと誘っていく、最早抵抗する力などありはしない。人間の三大欲求の一つに敗北を宣言し、千歳はゆっくりソファへその身を横たえた。
「……くん……て」
む、微かに誰かが呼ぶ声が聞こえてくる。
「千歳くん! 起きてください!」
今度はハッキリ聞こえた。どこかで聞き覚えがあるような、ああそうだ、この声は。
「うぅん、ふわぁ……おはよう由良さん」
「おはようございます千歳君。といっても朝ではありませんけどね」
眠気まなこをゴシゴシとして、シパシパと瞬きしてようやく。自分が薄暗い部屋の中にいた事がわかる。
目の前にはカーキ色の探険服に身を包んだ赤茶色の髪が特徴的な女の子、我らが部長こと由良詩織がいた。
あれ? 探検服?
「どうかしましたか?」
降って湧いた違和感に戸惑っていたのを、具合が悪いと判断したのか詩織はくりっとした瞳で覗き込んでくる。その際前屈みになるので少し広がった胸元が……サッと目を逸らして事なきを得た。
「いやその、なんで探検服なのかなって」
「え? やだなあ、何言ってるんですか。千歳君も同じ服じゃないですか?」
「は?」
そんな馬鹿なと自分の格好を確認すれば、そんな馬鹿な事が起きており探検服を着ているではないか。
「私達電脳遊戯探検隊は!この古代遺跡にマリオ教授と共に訪れて探索をしていたではありませんか」
「そ、そうなの? そうだった気がしてきた」
今更ながら石畳の床に石造りの壁、何千年も放置されたにしては原型をしっかり留めた遺跡にいる事を実感した。ほんのり冷たい風を感じるのはどこか近くに出入口があるからだろうか。
「そして我々はなんと見つけたのです!」
「な、なにを」
「この大量の壁画群を!」
バッと手を振るとそこには大量の壁画と思しき壁の数々、しかしそれらは何も描かれておらず、ただそれぞれの壁画の上と左側面に数字が並んでいるだけだ。
この数字はなんの意味があるのだろうか、それに何故何も描かれていないのか。
「マリオ教授の調べによれば、壁画は封印されており、この数字をヒントにして壁を削らないといけないそうです」
「なるほど壁を…………いやダメでしょ!?」
「マリオ教授が良いといったのでOKなんです」
ほな、ええかぁ。
「ちなみに壁画の削りを開始すると自動的にカウントダウンが始まります。カウントは三十分です」
「三十分過ぎるとどうなるの?」
「爆発します」
なにが?




