スーパーロボット大戦UX (後編)
古今東西ありとあらゆるところから集められたロボット作品を、一つところに詰め込んで成立させる世界観。毎度濃厚なストーリーやクロスオーバーをして顧客を楽しませてくる。
冷静に考えると正気の沙汰を疑う労力を毎回かけているのは脱帽しかない。
「これがスパロボなんだ。聞いたことはあるよ」
「今やってるUXの参戦作品はこれだけど知ってるのある?」
スマホでwikiを開いてスーパーロボット大戦UXの参戦作品一覧を見せる。
それなりに大きい声で話しているのだが、課題を終わらせて気の緩んだクラスメイト達が騒ぎ始めたので目立たないでいた。
「どれどれー」
寺崎は自分の席から椅子を寄せて座り、千歳の手元のスマホを見るため身体ごと近付いてきた。彼女の細い肩が自分の肩に当たってドキッとしてしまうのも、仄かに香水……ホワイトリリーだったか、の香りが漂ってくるのも大変心臓に悪い、きっと見条はこういうのにも慣れているんだろうなと思って隣を見れば。
「すやー」
寝てた。
おい起きろ助けろ、と心の中で叫んでも見条の心は夢の中だ。
「えーと、まずSEED DESTINYでしょ、ダブルオーはわかる、あとマクロスFと、鉄のラインバレルはお兄ちゃんが漫画持ってたな、読んだことないけど。それくらいかな」
それら以外の参戦作品だと、デモンベイン、ファフナー、リーンの翼、忍者戦士飛影、バーチャロン、ダンバイン、マジンカイザーSKL、HEROMAN、ダンクーガノヴァ、SDガンダム三国伝となる。
まあそもそもスパロボ参戦作品を全部観た事ある人自体が稀なので寺崎はむしろ観ている方ではある。
「さっきSEED以降のガンダムはみたて言ったけど、ごめん嘘だわ。このSDガンダムは観てなかったわ、鉄血とか水星とかAGEは見たけど」
「ははは、SEED以降のTVシリーズほぼほぼ観てるだけでも相当だと思うよ」
なんて事ないフリをして少し距離をとる。話したこともないギャルから話しかけられて内心穏やかでいられる筈がない、逸る胸のトキメキを押し殺しながら友達に接するかのように振る舞わなければ、勘違いしてると思われかねない、それだけは避けなければ。
と決意していたのに。
「なんで離れるの?」
と寺崎の方から更に距離を詰められる。亜麻色の長い髪をかき分けて覗かせるその瞳は、どこか非難するかのように揺らいでいた。
「いや、あの……」
しどろもどろになりながらも脳内で必死に言い訳を考えるも出てくる答えは常に「諦めろ」の三文字、自身のコミュ力の無さと童貞力を呪いながら、一度深く息を吐いて正直に答える事にした。結局これが一番恥が少ないのだ。
「えっと……お、女の子とこんな、近い距離で離すの、あんまないから……ドキドキして」
後半は大分尻すぼみして自分でも聞き取りづらいと感じる。ただ間違いなく今の千歳は顔を真っ赤にしてしまっている事だろう。窓から入り込む少し肌寒い春の風が、暑く赤い顔を冷やしてくれる事を願うばかりだ。
「えぇ、なに? 可愛いんだけど、ウケる」
当の寺崎はケラケラと屈託なく笑っている。
あまりにも屈辱、笑いたければ笑えと座り直してイヤホンを挿し直してスパロボに戻ることにした。そんな拗ねた態度が余計に彼女の何かをくすぐったのか、直ぐに片方のイヤホンを外して自分の耳に付け直した。
「ごめんごめん拗ねないでよ、ん? これDESTINYの曲じゃん」
「LIFE GOES ON」
「そうそれ、へぇ、こんな感じにアレンジして使われるんだ」
版権作品の曲をアレンジして使うのは最早当然と言えばそうなのだが、確かに知らない人からしたらこういうのも新鮮なのかもしれない。
「ちょっとやってみる?」
と3DSを差出した。
「いいの?」と聞かれたので「いいよ」と返した。
玩具を手にした子供のようにキラキラした表情で3DSを持つ。
「そいえばゲームはするの?」
「全然、友達に誘われてスマホゲーをちょっとやったくらい」
という事はゲーム自体初心者と見ていいので、十字キーやスティック、ボタン操作から教えていたら六時間目が終わってしまった。
「あら、ここまでだね」
「うわまじか、チョー残念……あのさ、HR終わったら続きいい?」
「へ? あ、うん」
「やった」
人懐こい笑みをまた見せてくる。そういうの良くないと思う、きっとそれでいたいけな純情な男子は初恋を弄ばれて来たに違いない。
自分も気をつけなければ、心の四十八(仮)を起動して平静さを取り戻そう。
HRは簡単な連絡事項だけで終わり、生徒達はどんどん部活やら帰宅やらで教室を出ていき、残っているのは千歳と寺崎を除けば、お喋りしたい女子グループと片隅でマルチプレイゲームをしている男子諸君、そして六時間目からずっと爆睡している見条であった。
先程見条の取り巻きの女子達がやってきて起こそうとしたが、全く起きる気配は無く、諦めて帰ってしまった。
「おい見条、お前起きてるだろ」
「バレたか」
顔だけコチラに向けてそれだけ言い放った。
「うーわ、アンタって悪い男だ、てか津雲はよくわかったね」
寺崎は見条に対して冷ややかだ。
「何となく」
「流石は竹馬の友、ツーカーの仲だよなあ」
「知り合って二週間の人間に言うセリフじゃないし、竹馬にしては遅すぎる」
「にしても君らっていつの間に仲良くなったんだ?」
君らとは千歳と寺崎の事だろう。
「あーうーん、今さっき?」
「ほらウチらって竹馬の友でツーカーの仲だから」
「ツッコまないからね」
「つまりウチらは竹馬でツーカーてのを認めるんよね」
そう解釈したか。
「千歳君と仲良くなるて事はゲーム絡みだろう、何のゲームで弾んだんだい?」
「スパロボUX」
「ほほー、いいよなあスパロボ」
「へぇ、見条もスパロボやってたんだ」
「あぁまあな、OGとかあの辺をな……スパロボといえば戦闘アニメーションいいよな」
「あ、ウチも、さっきチラっと見えた戦闘シーン凄くかっこいいて思った。アレって全部のロボットにあるの?」
「あるよ」
「おおー」
「特にカットイン入るのいいよな」
「うんうんわかる」
戦闘シーンでパイロットのカットインが入るのは定番だが、寺崎がさっき見てたであろう戦闘シーンでは無かったと思うので改めてフォースインパルスの戦闘シーンを見せる、今度はシン・アスカのカットインが見えるように。
「おおー、いいねぇ。なんかほんとにアニメを切り抜いてるみたい」
「ばっか千歳、スパロボのカットインといえばアレだろ……貸しな、UXならデモンベインがいるはず」
そこまで言って全部察してしまった。アレを見せるつもりだ。
「おま、ちょっと」
「これを見な!」
止めようとするが遅し、見条はその手にある3DSの画面にデモンベインの戦闘シーンを映す。より具体的にはデモンベインのレムリアインパクトの戦闘シーンを。
「へぇ、これがデモンベイン、BGMかっこいいね……うわ、パンツ丸見えじゃん、デモンベインてエッチなロボットなの?」
それについてはどう否定していいかわからない!!!
元はエロゲでー、でも原作にパンモロはなくてーとか説明してもデモンベインがエッチなロボットな事には変わりがない、でも熱くていい作品で……知恵の神オモイカネよ、我に良き知恵を……くれなかった。
「スパロボでパンモロしてるのてこれだけなんだよな、だがやはりスケベなのはいい事だ。特にスパロボは乳揺れが素晴らしい」
と語り始める見条を放置してさっきの続きをやる事にする。
「カーソルをユニットに合わせて、そうそう、それでAボタン押して」
「はいはいわかってきた、こうだね」
操作に慣れてきたのか、ユニットを動かしては攻撃をしかけて戦闘シーンを楽しんでる。ゲーム自体やらないって言ってたから本当に新鮮なんだろう。
「ねぇ、スパロボて色んな作品詰め込んでるけどさ、ストーリーてどうなってるの?」
「ちゃんとあるよ、むしろストーリーこそが醍醐味なまであるよね」
「そうなの?」
「そりゃだって本来なら交わらない作品が一緒にいるんだから、それによって起こるドラマは誰にも予想できないよ」
「へぇ、例えばどんなのあるの?」
「原作だと死亡したキャラが生存したりが一番わかりやすいかも」
「まじか、すご……お、ファフナーもかっこいいね」
「ファフナーも見た事無いんだっけ?」
「うん、やっぱこういうの全部見てからプレイした方がいいんだよね」
「そんな事はない!」
力強く、手を前に出して否定する。それだけは絶対にない。
「そういう遊びもいいけど、スパロボはちゃんと独自のストーリーにまとめてあるから作品を知らなくても楽しめる作りになってる!
むしろ知らないからこそ、知らない作品のキャラやロボットはスパロボ世界のオリジナルキャラとして楽しめるんだよ!
そしてそれは初心者のうちでしか味わえない! プレイする度にその感覚は薄くなってしまうのだよワトソン君!」
「寺崎ミオだよ。てか熱く語るじゃん」
しまったつい熱が入ってしまって、こういう長文早口は良くないとわかってはいてもついつい油断するとやってしまう。
先程とは違った意味で顔を赤くしてしまい、シオシオと椅子に小さく座り直した。
「いいじゃんそういうの、ウチは好きだよ」
またそうやって男子を勘違いさせる笑顔を見せる。
「やってて面白そうだからウチもやろうかな」
「いいと思うよ、今スパロボってセールとかしてたかな、V以降の作品なら最新機種で遊べるんだけど」
「あぁいや、これ、せっかくだからこのUXてのやりたい」
「え? いいけど、3DSはある?」
「お兄ちゃんの借りる、確か持ってたから、あとソフトはどこで買えばいい?」
「じゃあそれなら、はい」
カバンからパッケージを取り出し、そこに3DSから抜き取ったUXのソフトを入れて手渡す。
寺崎は一瞬驚いたような表情をした後、嬉しそうにそれを受け取った。
「ありがとう! 終わったらちゃんと返すから」
「ごゆっくりー、セーブデータは適当に上書きしていいからねー」
待ちきれないのか、寺崎は荷物をまとめて教室を跡にする、きっとこの後お兄ちゃんとやらから3DSを借りて遊ぶのだろう。
いつの間にか教室には誰もいなくなっており、いるのは見条と自分の二人だけだった。
「千歳君はさ、寺崎さんと初めて会話したんだよな?」
「まあそうね」
「今スパロボって全体的に値上がりしてて結構いい値段するけどさ、返ってくると思う?」
「そういう事するようには見えないけど、まあ別に、ぶっちゃけ人に何か貸す時って返ってこない想定で渡すし、それにその時は自分の家で買い直すし」
「ゲームショップだっけか、今日行っていい?」
「いいよ、てか部活は?」
「遅刻」
「はよ行け」




