ファイナルファンタジーⅡ (前編)
「玲香さん玲香さん! 見てくださいこれ!」
氷室玲香が雇い主の娘の部屋で寛いでいたところ、突如バンッ! という激しい音を伴ってドアが開かれた。音が大きかったので思わず「わあっ」と声を上げて驚いてしまう。
入ってきたのは部屋の主、氷室玲香の雇い主の娘である由良詩織であった。詩織はスマホの画面をこちらに向けて必死に見ろと訴えかけていた。
「おかえりー詩織ちゃん、どうしたのよそんなに慌てて」
遊んでいたネオジオポケットをテーブルに置いてから詩織の元へと寄る。
彼女が手にしていたスマホの画面を見れば、それはLINEの友だち一覧、あるのは両親と玲香と友達が数人と公式アカウントがいくつか、結構多いな。
「お友達が多いねえ」
ちなみに玲香のお友達は詩織以外にいない。
「いえ! 見てほしいのはそこではなく、ここ! この人!」
「どれどれー」
詩織が指し示したお友達、そこには「津雲 千歳」の文字があった。クラスの女子だろうか、早速クラスメイトの友達が出来てお姉さんは嬉しい。
ん? いやでもこの名前どこかで見覚えがあるような。
「クラスの女の子の名前? 新しい友達できたんだね」
「いえいえ、この方は男の子ですよ」
「え! 千歳って男の子の名前にも使うんだ」
この子が目の前にいなくて本当に良かった、もしコンプレックスを抱えていたら申し訳なさがすぎる。
「てか、え? 男の子? 詩織ちゃんいつの間にそんな、え? どこまでイったの?」
「何か誤解してませんか? まだ連絡先を交換するまでしかしてませんよ」
「なんだ、てっきり詩織ちゃんが淫乱な道へ進んだのかと思っちゃった」
「Hなゲームのやりすぎですよ、それより千歳君ですよ千歳君! ほら五年前に玲香さんが初めて連れてきてくれたゲームショップで、一緒に剣神ドラゴンクエストを遊んだ千歳君!」
「あぁ! あの時の!」
腑に落ちた。いきつけのゲームショップの店長さんのお孫さんだ。確かあの日からしばらくして引越したと聞いたけど、いつの間にか戻ってきていたのか。
ちょっとまって、五年前に遊んだ男の子と同じ学校で再会するって、ラブコメか!
「たまたま同じ学校に入学するなんて、何が起こるかわからないわね」
「いえ、入る学校は店長さんを通じて知ってましたから、私が千歳君の入る学校に合わせて入学するつもりでした。
場合によっては私も引っ越そうかと思ってましたけど、住んでるところから近いのは運が良かったです」
「えっ、こわ」
ほぼストーカーだよそれ、いやほぼじゃなく完璧にストーカーだ。お金のあるストーカーて怖いな。もし他府県とかだったら引越してたのかしら。
「好きもそこまで行くと狂気的になるのね」
「いやいや好きとかそういうんじゃないですから」
なわけあるか。
「そして連絡先も手に入れたと、何かメッセージは送ったの?」
「いえ、まだ、なんて送ろうかと悩んでまして」
モジモジと頬を染めながら、上目遣いに呟いた。直前のホラー発言が無ければ胸がキュンと来てきたであろう発言と仕草、加えて詩織自身可憐な見た目であるがゆえ、普通にしていれば色んな男から言い寄られるだろう。普通にしていれば。
「とりあえず共通の話題を振るとか、あとまあ挨拶とかでも」
「おはようからおやすみまでを毎日やればいいですか?」
「毎日は流石に鬱陶しいわ! 恋人とかならいいけど」
「ではそれは恋人になってからで」
なるつもりなんだ。
「じゃあ共通の話題でも振ってみたらいいんじゃない?」
「共通、ゲームですね」
「ほお、いいじゃない。お姉さんもゲーム好きだから少しはアドバイスできるかもよ?」
「ほんとですか!? じゃあまずはブシドーブレードを」
「それはやめとかない?」
相手が例えブシドーブレード好きだとしても、いきなり女の子からブシドーブレードの話題振られたら困惑すると思う、まあ流石に出会い頭にブシドーブレード突きつけるなんて非常識は流石にありえないだろう。
「じゃあ何がいいと思います?」
「そうねぇ、その千歳君が好きなゲームとか」
「ゲーム……そうだ、借りてきたバインダーに」
参考書や学術書が並ぶ本棚の一角、その片隅に纏めてあるバインダーの一つを手に取って戻ってくる。
「そのファイルって確かいつも詩織ちゃんがゲームショップ行く度借りてくるよね」
「はい! 店長さんから」
一昨年くらいからだっけか、コンビニで売ってるバインダーにルーズリーフが挟まれているのを借りてくるようになったのは。中身はゲームの攻略法だったと思う。
「そういえばちゃんと見た事なかったのよね、それって確か攻略本みたいなやつでしょ?」
「ええそうですよ、千歳君がゲームをしながら書いた手書きの攻略ノートなんです、所々に千歳君の感想が書いてあって面白いんですよ、これで千歳君の好きな物も大体わかりました」
「あぁ……」
これ絶対人に見られたくないやつよね。日記のような、あの店長さん孫の赤裸々な日記を他人に晒してしまってるけど後で怒られるんじゃないかしら。
しかしまめな攻略ノートか、同じゲーマーとしてその姿勢は共感できるし自分も少し興味がある。いずれ本人に出会う事があったら読んでもいいか聞いてみようかしら。
「よしこのゲームにしよう」
「どれ?」
「これです! ファイナルファンタジーⅡ」
「へぇ、名作だしてきたね」
一九八八年十二月に発売されたスクエアの名作、確かにファイナルファンタジーⅡは度々リマスターされて最新機種でも遊べるからとっつきやすいレトロゲーだ。
加えて千歳君がプレイ済なら攻略を口実にしてメッセージを送れるからいい手だろう。
「では早速、スターウォーズを見ましょう!」
「なんで!?」
「いえ、どうやらこのファイナルファンタジーⅡはスターウォーズを元ネタにしているらしいんですよ、なのでまずはエピソードIV〜VIを観てから臨もうかと」
しかも三作全て観るのか。
「安心してください、明日はお稽古とかはありませんので夜更かしたくさんできますよ!」
「あ、アタシも付き合う予定なんだね」
その後、文字通り夜通しで三部作全て視聴した。凄く面白かった、今度円盤買おう。




