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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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夏の水着イベ《パンチライン》

(──み、水着撮影だぁ!? た、確か柏木さんの話じゃ、それはないって……)


 遠巻きに観光客が賑わう砂浜で、何の因果か、先鋭せんえいスタッフ陣に囲まれ、声優インタビューと称したグラビア撮影の真っ只中である僕こと橙華とうかは、とにかく水着だけは勘弁(物理的な意味での上半身やら、それ以上にマズい下半身やらetc.)と、必死で柏木マネージャーを探す。……が、どこにも見当たらない。というか撮影開始から姿を消している。くそっ、あの腹黒メガネ……、売るだけ売って逃げやがったな。


「では、こちらで準備をお願いしま〜す!」


 絶望する僕のもとに、メイクをほどこしてくれたスタイリストのお姉さんがやってきた。


(おい、もう着替えるのかよ……。そ、そうだ! 東雲っ)


 隣でふんぞり返る東雲を見やる。きっとあいつなら「ふん、水着撮影なんてお断りよ、愚民どもが私のパーフェクトボディを拝めるなんて百年早いわ」とか言って、断固拒否するはず。それに便乗する形で僕も──、


「ふ、ふん、水着撮影なんてお断りよ、愚民どもが私の超絶パーフェクトボディを拝めるなんて百億年早いわ」


 岩陰の簡易更衣室を前に、案の定、東雲パイセンが牙を剥く。こちらの思惑通り、台詞もほぼ一致(※部分的誇張あり)。女性スタイリストさんは困り顔だ。


 行けっ、東雲! このまま現場を「水着NG」の空気にしてくれ……!


「──ん、でもそうね。衣装の水着はどういった趣向かしら?」


 って、あれ。なんだか雲行きが怪しい。


「え、ええ。東雲さんのスレンダースタイルが映える、ビキニタイプの水着をご用意しています」

「……そう? なら一度拝見してあげてもいいわ」

「はいっ、すぐにお持ちしますね!」

 

 スタイリストのお姉さんが駆け出していくと、東雲は微かに口角を上げた。一見何かを企んでいそうだが、あれは案外まんざらじゃないって時のドヤ顔だ。


(ダメだ、全く使えねえ……!)


「──それじゃ、時間も押してるので、橙華ちゃんも早くこっちで着替えてくださいね〜」


 無情な宣告。僕は誠に遺憾ながら、衣装チェンジ……。





「…………もっと近くに寄りなさい。じゃないと●▲■、いえ、撮影にならないわ」

「……え? ええっと……、じゃ、じゃあ、前を失礼して……」


 再び波打ち際。


 例に漏れず、東雲は肌の露出が露わな黒ビキニを纏っていた。正直、直視できない。それなのに密着しろだなんて、どんな拷問だ。


 ピタッ。


 腕に触れる人肌の熱。


(──う、ヤバっ……東雲の奴、ウエスト細すぎだろ。普段あんなにピザや焼肉、ケーキに酎ハイと暴飲暴食してるくせに、なんで太らないんだ? あ、しれっとこっちにお尻を見せつけ──ん、でもまあ、おP部分が全然エロくないから、別に大丈夫──)


「ひゃあっ!」


 東雲に思い切り海水をぶっかけられた。冷たい……。





「──以上で撮影終了で〜す、お疲れ様でした!」


 ワンカットあたり数十分、トータル三時間あまり。午前中から始まった南知多半島ロケも、ようやく全行程が終了した。


 スタッフさんから受け取った大判のバスタオルで、逃げるように上半身を覆い隠す。とにかく一秒でも早く着替えたい。


(──ふう、どうにか……どうにか乗り切った……)


 懸念していた水着についても、結果から言えば、なんとかなった……はずだ。たぶん。


 衣装として用意されていたのは「フレアビキニ」。胸元にボリュームのあるフリルがあしらわれたデザインで、膨らみのなさを物理的にカバーしてくれる。さらに下半身も外側がミニスカート状になっているため、中身が(♂)である僕でも、重力の法則に逆らうことなくどうにか着用できた。


 ……水着の内側? それはもう、察してほしいとしか言えない。


 そもそも、僕の体型は元から細身だ。肩幅も狭く、骨格も華奢。──自分で言っていて悲しくなるが、およそ男らしさというものがない。唯一らしい喉仏のどぼとけはチョーカーで隠し、地毛のマッシュショートはプロの手で可憐なウィッグ調にセットされ、濃いめのメイクで顔立ちも加工されている。


 あとは現代の写真加工技術さえあれば、世間の目をあざむける……と信じたい。


「──橙華さん、れ高を確認してもらっていいですか?」

「えっ……、あ、はい」


 若手スタッフさんに声をかけられ「だったら東雲さんも……」と周囲を見渡す。


 すると、浜辺には夏の清涼飲料水CMさながらのポージングを決め続ける黒ビキニ姿があった。小さい子供が走り回るなか、そこだけ異様な空気を放つシュールな光景。うん、他人のふりをしておこう。


「……え、ええっと、東雲さんは忙しそうなので、とりあえず私だけで確認しますね」


 僕は不本意ながらも差し出されたタブレットを受け取った。本当は見たくない、見たくないけど、それでも怖いもの見たさで、画面に並んだサムネイルの一つを適当にタップする。


 ……と。


「ぐふっ!?」


 そこにあったのは、波打ち際でこちらに背を向け、無防備に突き出された僕(橙華)の「お尻」のドアップだった。


 健康的な桃色水着に包まれた(♂)の曲線美。


 そのあまりにも「美少女」な一枚に、僕はその場で精神的なノックダウンを喫した。

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