13 テスト当日
鳥の囀ずる声が聞こえる、清々しい朝。今日は待ちに待ったテスト当日。嬉しくて胃痛が止まらないですね!(満面の笑み)
あれから本っ当に色々あった。ハリセンで叩かれたり、禁断症状が出そうになったり…。いや、しっかりとテスト対策してきた。赤点は回避できるでしょと京花に言われたぐらい頑張った。ありがとうございます。
とは言っても、不安が無いわけでは無いので、先程からキリキリと胃が痛む。胃薬を飲み込んで、用意をする。
香ばしいバターの香るパンを食べつつ、テレビを見る。芸能人の浮気だの、会社の脱税だの、殺人未遂だの、世の中物騒だと思う。殺人未遂結構近いところだな…。怖。
すっかり抵抗が無くなってしまった制服を着る。ズボンよりスカートの方が楽と思ったら負けなのかもしれない。
「行ってきます」
と大きな声を出し、学校へ向かう。学校へ近づく度、足取りが重くなっていくのを感じる。想像が悪い方へ拍車がかかる。赤点取ったら京花に白い目で見られる、光樹にネタにされる、何より小遣いが減るし……あぁ、バイト出来る高校に行くんだった。
肩を落としながら歩いて行く知世に、後ろから駆け寄る人影が。
「知ー世ーちゃーーん!!!」
「……うわぁぁ!?」
あこが背中に飛びかかってきた。倒れる最中に、後ろにアワアワしている蒼葉と桜を見たとき、俺の記憶は途切れ――無かった。勢い強いよあこ。
「だ、だだ大丈夫知世ちゃん!!??」
「……」
今更ながらに心配するあこに、蒼葉と桜が一言。
「だから止めとけっていったじゃん」
「華奢な知世が、運動バカのあこの飛び付きに耐えられるわけないって」
「だって~」
「いっつつ。重いよあこ」
「わあっごめん」
知世から急いで飛び退く。制服に付いた汚れをパッパッと手で払いながら立ち上がる知世。幸い怪我はどこにもなかった。
「今日はテストだから、テンションが何時もより高くなっちゃって。ごめんね知世ちゃん」
「気にしてないよ。大丈夫。それよりテストは自信ある?」
「ギクッ」
目に見えて、耳に聞こえて分かりやすい反応をしたあこ。これは絶対やってない。去年の俺のようにな!
桜と蒼葉がやれやれというように、肩をすくめる。この反応は馴れてるな…。
「だだだだだ、大丈夫だよ。しっかりベンキョウシタヨ」
「絶対してないでしょ……」
「シテルシテル。そんなことより!早く学校に行こ!」
「はいはい」
少し駆け足気味で学校へ向かう。一人で歩いているより、足取りと心が幾分か軽く感じた。
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テストだということで、クラス中が浮き足立つ。お前勉強したー? 全然してない笑、というよくある会話が聞こえる中、胃痛で身を屈めている人物が一人、教室にいた。
「大丈夫、知世?」
「大丈夫じゃない、京花。腹いてぇ」
「勉強したのよね、まさか、手抜いたの?」
「まさか、滅相もない! 赤点を取ったときのシュミレーションをしてたら胃痛が増してきただけ。これは自爆というべき」
「はぁー。本当に何してるのよ。もうすぐ先生来るわよ。頑張って。」
「へーい」
テストを引き下げ、先生がやってくる。先程まで緩んでいた雰囲気が、引き締められ、もうすぐテストが始まると改めて思わせるものだった。
テストが配られていく。さあ、気を引き締めて赤点回避へ。シャーペンを握る手に力を込めた。
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テスト一日目が終了した。最後の時間が終わったときの歓喜の声は、自然と出てしまうものだ。これで終わりという訳ではないのでまだ、安心は出来ない。『最後まで死に物狂いでやれ』こう京花に言われているから。……破ったら冗談抜きで殺される。
あこは魂が抜け、真っ白に燃え尽きていた。大丈夫だろうか。まだ結構残っているのに。目に光が宿ってないぞ……。
蒼葉や京花は、毎日コツコツとやっているようで、余裕の表情を浮かべていて、来年から本気出す……。
桜はいつも通りの感じで、テストがあっても動じてないのは流石だな。その精神俺に下さいお願いします。
俺は、あこタイプだな。机に突っ伏して疲れを癒してる。これがあと二日続くなんて辛い。ゲームしたい。させてください。
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今日も今日とて帰ったら明日のテスト勉強。これでは終わる前にただの屍になってしまう。ポテチをバリバリと食しながらペンを進めていく。
俺、今日な親に「勉強しすぎじゃない?休んだら?」と言われたんだ。人生で初めて言われた言葉だったよ。嬉しいけど、自主的にやったらもっと嬉しかっただろうなと思った。
時計の長針が四周するまでテスト勉強は続いた。そのときにはもう、紙より白くなり、燃え尽きていた。
俺、このテストが終わったらゲームするんだ……。




