12 謎の余裕
手にはコントローラー、机の上には炭酸飲料とポテチ。最高のロケーションでゲームをする千夏。大事なことが何も無さそうに見えるが、そんなことは無い。断言する。
千夏の通う高校では二週間後に定期テストがある。普通ならテストに向けて勉強をするところだが、千夏は勉強を諦め、ゲームの世界へ逃げ込んだ。最悪一週間前にやれば間に合う、そう考えて。
『やる気のある教科はバッチリだと思うから、大丈夫だろ』
これが千夏の方針である。この状態は非常によろしくないのを千夏自身、分かっているがどうにもやる気がでない。ただそれだけ。
そんな千夏を見捨てないのが京花である。逃げる千夏を追いかけて無理にでも勉強させる。これは昔、千夏が赤点を取り、休みに立てていた予定が駄目になったとき、もう二度とそうならないようやってくれている。
さて、そろそろ来るだろう。
カチカチ、と時を刻む時計が丁度五時を指した瞬間、家のチャイムが鳴った。
『はーい』
『京花です。入っていいですか』
『OK』
リビングに移動していた千夏は、テーブルに道具を乗せ、自分は床に正座しとく。これには訳があるんだ。察してくれ…。
「千夏――何してるのよ。」
「そ、そのですね、進めてないんです、はい。言い訳をさせてもらうと、目の前のゲームが俺を呼んでいまして。丁度イベントだったんです。それと、今回の範囲は苦手な分野というか、」
「言いたいことはそれだけ?」
「ひっ」
満面の笑みを浮かべる京花の顔はまさに般若のような形相だった。これは怒っていらっしゃる。一時間後に、俺は生きていないかもしれない…絶対死んでる。
「去年、一人でもしっかりやるって言ってたわよね」
「はい、言いました」
「一回でもやった?」
「やっておりません……」
「このドアホーッ!! 去年どれ程私が苦労したと思ってるのよ、千夏はゲームに現実逃避しようとして、赤点をもう一回とるかもしれなかったのよ!?」
「仰る通りです。その節は誠に感謝しております」
京花が叱る度、千夏の頭は徐々に下がっていき最終的に土下座していた。心の中には今までやらなかった罪悪感と京花に対する申し訳無さ、そしてテストまで二週間という、焦り。
千夏に顔を上げさせ、今後のスケジュールをギッチギチに詰めてゆく京花。流石に多いんじゃ、と伝えてみたが無言の微笑みに、何でもないですと答える他無かった。
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次の日
昼の休み時間。学校の屋上の人目のつかぬところで、美味しそうな弁当を食べる二人。
「今回は大丈夫か、ち――せサン」
「大丈夫。京花が手伝ってくれているから。佐倉サンにそう呼ばれると面白いな」
「お前もな」
話をするのは、光樹と千夏。この身体になってから光樹との初めての食事である。なぜ誘ったかは、クラスに馴染めずボッチは辛い。と話してあるが本当は誰かがこいつを彼氏だと噂して欲しいと考えたためである。
いつも下駄箱に入っている手紙を捨てるのは悪いので、一言加えて返しているのだが、いかんせんめんどくさい。柏木さんと一緒だった楽な頃を思い出すと、誰か噂話してくれないかと思ってしまう。誰か頼むっ!!
その邪な考えが読まれたのか、「噂されたくないし、人目のないところで食うぞ」と言われてしまい、今に至る。
「しかし、いいよな知世サンは」
「え? まさかこの勉強に行き詰まっている状況がいいってのか?」
「いやいや、知世のような駄目人間の世話を焼いてくれる幼馴染みがいることだよ。そうそういないぞ、猪爪みたいな奴」
「まあ、そうなんだろうな」
「あー俺もそんな人欲しいなー! 今年こそ彼女ほしー!」
ついに光樹が壊れた。やはりこの歳になってまで彼女いない歴=年齢は辛いものか。まあ俺は違うがな。いや、この体になってからと考えると、俺も光樹と同類なのか……?
「お前にはあ―――いや何でもない」
光樹の追っかけをしている彼女の姿が脳裏にちらついたが、何か嫌な予感がしたので口に出さないでおいた。この件にはノータッチでいこうと考えてる。
「何だよ、気になるじゃねぇか、さっさと話せよ」
「いや本当何でも、っと、チャイム鳴ったぞ。ほら、」
「んだよタイミング悪いな。じゃまたあとでな」
そこで、光樹と別れ教室へ戻った。残念ながら二人のことは誰も見ておらず、千夏が期待する噂は流れなかった。光樹の作戦は成功したようだ。
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所変わり、夕日が差し込む図書室。さらさらと紙にペンが走る音やページをめくる音がだけ聞こえる、静かな場所。そこに勉強する一組がいた。それは千夏と京花であった。
結構前からガリガリと勉強を進めていた千夏がピタッと止まる。机に覆い被さるように身を屈めると、そのまま動かなくなった。そして、数分後、穏やかな寝息が聞こえて―――
パァァァン!!!
「すみません古高先生、騒がしくありませんでしたか?」
「問題ありません。そちらの人は大丈夫ですか?」
「ええ、丈夫ですので。ほら、知世」
「…んん、ぁぁ。ごめんなさい、寝ていました」
どこから用意したのか不明なハリセンでぶっ叩かれた当の本人は、どこかケロッとしていて、痛くなさそうだ。
寝たことに対し、小声でグサグサと心を抉る言葉を投げ掛けてくる京花。仕方がないじゃないか、夕日の当たる窓際の席。睡魔が襲ってこないわけがないと、言い訳をしてもさらに厳しくなるだけなので、心の中に留めておく。
勉強しすぎて頭が痛くなりそうだ。早くゲームしてぇ!!!
テストによるゲーム禁で禁断症状が出そうな千夏であった。




