アリスの想像する日本
康太たちがいつも通り奏の経営する会社にやってきていつも通り社長室に向かうと、社長室の前の扉からはいつも通りコーヒーの香りが漂ってきていた。
あの人はまた仕事をしているのかと苦笑交じりにノックして返答があってから中に入るとそこにはやはりいつも通りパソコンに向かって仕事をしている奏の姿がある。
机の上には幾つもの書類が積まれておりかなり追い込みをかけているというのが目に見えてわかる。
「来たか・・・すまんが今忙しくてな・・・今回は訓練は無し・・・という話はもうしたか」
「はい、今日はこいつを会わせに来ただけです。少しだけお時間頂けますか?いくつかお手伝いはしますので」
康太がその言葉を言い終える前に文は部屋の片づけとコーヒーの追加、そして書類に必要な資料をざっと選定していた。
文はここで秘書でもやったほうがいいのではないかと思えるほどに有能だ。数えるほどしかここに来ていないはずなのにほぼこの部屋の内容を把握しているのだから。
「少し待て、もう少しでキリがいいところまで終わる・・・そいつが例の封印指定だったか・・・?」
「はい、封印指定二十八号・・・ってここから先は本人から自己紹介してもらったほうがいいですね」
言葉の通り数秒してから奏はパソコンから目を離し、康太とその隣にいるアリスの方に視線を向ける。
その視線は鋭い。だが決して敵意があるというわけではなかった。今はまだそれを判断するための状態にあると言えばいいだろうか。奏としても康太の周りに封印指定関係が集まっているというのはあまり良い印象はないだろうがそれでも可能な限り客観的にこの状況を把握しようと努めているように思える。
「初めまして封印指定二十・・・いやこれで呼ぶのは適切ではないな・・・名前を教えてくれるか?」
「人に名を聞くならまず自分から。そうではないかの?」
「確かにその通りだ、失礼した。私は『サリエラ・ディコル』そこにいるビーの師匠の兄弟子だ。ビー、お前はこいつに本名は?」
「教えてあります。同盟組んでるし警戒しても無駄だし」
警戒しても無駄。それはアリスに対して警戒する必要がないという信頼からくるものでもあり、同時にアリスがその気になればいくら警戒していてもどうしようもないという圧倒的な実力差というのもある。
奏はその言葉を聞いてどのように受け取ったかは知らないが小さくうなずいてから口を開いた。
「・・・ならば私も本名の方を教えておこう。草野奏だ。ファミリーネームでもファーストネームでも好きに呼んでくれ」
「わかった・・・ではカナデ、はじめまして。封印指定二十八号ことアリシア・メリノスだ。そこのコータとフミと同盟を結ばせてもらっている。これからもよろしく頼むぞ」
「よろしく。聞けば本部から支部へ転属してきたらしいな。こちらにやってきて環境が大きく変わっただろうが、不便はないのか?」
「そこまではない。コータが良くしてくれているからな。もっともコータだけではなくその家族もよくしてくれているがの」
アリスのその言葉に奏は小さく息を吐きながら目元を押さえて文の入れたコーヒーを軽く飲む。
何かを考えているのかそれともただ単に仕事で疲れているのか、どちらかはわからないが僅かな沈黙が流れた後、再度息を吐きながら康太たちの方に目を向けた。
「わかった、これからも康太と文と仲良くしてやってくれ。私からは以上だ。わざわざ足を運ばせてすまなかったな」
「なに、これも観光の一環だ。気にしなくていい。何より話に聞いていた人物を目の前で見ることができたのだ。これもまた収穫の一つだの」
「・・・ほう?どんな話をされていたのか気になるところではあるな」
奏はそう言って笑みを浮かべながら康太と文に順々に視線を移していく。
二人は苦笑しているが誓って妙なことは口走っていない。むしろ奏の評価を上げるようなことを言ったつもりだった。
普段からして色々と世話になっているのだからそんな妙なことを言えるはずがないのである。
「まぁいい・・・とりあえずすまんが今日はここまでにしてくれ・・・今ちょっと立て込んでいてな」
「わかりました。忙しい中すいません・・・何か手伝えることは?」
「いや十分息抜きになった。感謝している・・・また今度来い。その時は一緒に食事でもしよう」
「えぇ、是非。それじゃ失礼します」
「あ、そうだ康太、一つだけ伝言だ」
康太と文がアリスを連れて社長室から出ていこうとしたときに康太は不意に奏に呼び止められた。
一体なんだろうかと首をかしげていると奏はメモを取り出して目を細めている。
「幸彦から伝言だ。さっき伝え忘れたとかで・・・今度協会の仕事を手伝ってほしいそうだ。信頼できる人手が欲しいらしい。まだ日時などははっきりしていないが頭に入れておいてくれ・・・文も可能なら手伝ってやってほしい」
「わかりました、覚えときます」
幸彦が協会の仕事を持ってきたというのは何も不思議ではない。今までも何度か雑用程度で手伝ったことはある。だが信頼できる人手が欲しいという言葉が少し引っかかった。
何かあるのだろうかと思いながら康太たちはそのまま社長室を後にした。
「どうだった?奏さんの第一印象は」
康太たちは奏の会社を後にするとまずはアリスに奏の第一印象を聞いていた。
実際に会ってみて話と違った点があるだろうかと康太と文は少しだけ心配していたのだが、アリスは少し悩んだ後で複雑そうな表情をさせていた。
「良くも悪くも頭の回転が速く洞察力と処理能力が高いタイプと見た。私が康太の家で世話になっていると言ったときのことを覚えているかの?」
「あぁ、なんかちょっと目元を押さえてたみたいだけど」
あの一瞬の動作はパソコンの作業がつかれたから目元を押さえているのだと思っていたがアリスは別の可能性を思いついたらしい。
そしてそれがどういう意味を持つのかも彼女は理解しているようだった。
「恐らくあの時、コータとフミが私を同盟にした経緯とそれによって発生する危険性を把握しただろう。そして私がコータの家で世話になっているという事を聞いてその危険性に対しての対抗策をとっているのだと考えただろうな」
「・・・あぁ、本部の人間が俺の家族をどうのこうのしないようにとかって話か」
「そう言う事だの・・・カナデにはどの程度事情を話しているのだ?」
「前に本部に召集されて封印指定関係でイギリスに行くことになったってことと、その後の話の流れは大体・・・」
康太は自分の味方を増やすという意味でも、新しい意見を聞きたいという意味でも自分の身内に対してはあらかたの事情を説明している。
そうすることによって自分では考え付かないような意見を出してくれることを期待しているのだ。
人間一人で考え付くことには限界がある。だからこそより多くの人間の意見を求めておいて損はない。
しかもそれが自分より優れた魔術師であり、自分よりも年上の人生の先輩であればなおさらのことである。
「本部と支部の関係、そして今回私が本部から支部へと転属したことで本部の状況を大まかながらに察しただろう・・・そのうえで私のとった行動が適切であると判断して私に二人と仲良くするようになどと言った・・・なかなかどうしてやり手の様だの」
「まぁ会社一つ経営してるくらいだからな。実力面ではどうよ?」
「実力も何もただ話しただけではないか。ただ若干警戒はされていたようだが・・・コータが警戒の必要がないと言ってからややその傾向が薄れていたな」
「そんなの分かるの?全く変わらないように思えたけど」
「ほんの少しではあるが空気が柔らかくなった。感情の機微というほどではないが、自分に向けられている警戒の空気くらいはわかる」
康太が周りの人間から殺意や敵意を向けられると察知できるようになっているのと原理的には同じだろう。訓練や実戦によって培われた五感とは違うまた別の感覚。
アリスはただでさえ長いこと魔術師として生活してきたのだ。誰かに警戒されるというのは日常茶飯事だっただろう。
そう考えると少しだけ寂しい人生だ。
「じゃあ俺らがどういう警戒してるとかわかるのか?」
「わかるぞ。コータは魔術師的な警戒は一切していない。一般人として家族と接している時は余計なことを言わないように私に注目しているくらいかの」
「へぇ・・・あんたでも家族に言ってほしくないことってあるんだ」
「あるに決まってるだろ。こちとら思春期真っ盛りな男子高校生だぞ」
康太の家に居候しているアリスの寝床は基本的に一定ではない。客間に布団を敷くこともあれば康太の部屋に布団を持っていくこともある。
いつどこにいても不思議ではないために康太はアリスの存在を非常に気にしているのだ。魔術師としては全くと言っていいほど警戒していないがただの男子高校生としては今どこにアリスがいるのかというのは確認しておかなければいけない重要事項なのである。
「まぁコータも男、そのあたりはちゃんと気を使ってやるから安心するとよいぞ」
「安心できないんだけど・・・お前その気になったら透明化とかできるだろ?」
「できるぞ。もちろん気配を感じさせないことも造作もない・・・もっともコータ相手だとそれも難しいかもしれんがの」
何故自分だと難しいのか、その言葉の意味を康太は理解できなかった。その真意は康太の内部にいるデビットである。デビットはアリスがいるとほんのわずかにではあるがざわめく。康太はそのことにまだ気づいてはいないが、自分の師匠が近くにいるという状況がデビットをざわめかせるのだろう。
授業参観の時に妙にそわそわしてしまうのと同じ原理である。
「ちなみに私は?どんな警戒してる?」
「フミの場合なんだかやけくそ感がある。もうどうにでもなれという感じだの。警戒しすぎて振り切れて一周回って全く警戒していないという感じだろうかの」
「あー・・・でも文らしいかも・・・デビットの時からいろいろと警戒してるもんな・・・もう許容範囲超えたのか」
「なんかすごくわかりやすいけどすごい癪ね・・・原因の二人から言われると妙に腹が立つわ」
文は周りに封印指定に関わるものを二人も抱えているいわばまともな魔術師だ。康太に関わってしまったのが運の尽き、そのせいでいろいろと面倒なことになり始めている。
いくら警戒しても仕方がないからもう康太とアリスに対しては警戒するのを諦めている節さえある。
アリスが言うところのやけくそ的な警戒だ。もうあきらめがついているから無駄に警戒するのはやめようという何とも残念な文らしい警戒だと言えるだろう。
「これからもよろしく頼むぞフミ、お前がこの同盟における重要ポジションなのだから」
「頑張れよ文、面倒があったら頼るからよろしく」
「・・・今さらながらこの同盟凄く脱退したいわ・・・」
今さらそんなことができるはずもなく、しっかりと二人に掴まれて逃げられないようにされてしまった文は大きくため息をついて二人とともに東京を歩き始める。
「ほほう・・・あの東京がここまで変わるとはの・・・いやはや・・・時間の流れというのは恐ろしい」
東京の名所をいくつか紹介した後で康太たちは日本の首都である東京駅にやってきていた。
レンガ造りの独特の駅の外観、そしてそこから臨める東京の街並みを見てアリスは何やら感慨にふけっているようだった。
アリスが日本にいたころ、明治時代のどのくらいかはわからないがその頃まだ正式に東京駅という駅は存在しなかった。
日清戦争と日露戦争が終わった頃にようやく建設が本格化し、東京駅が出来上がったのは西暦千九百十四年、大正三年の時だった。
恐らくアリスは東京駅というものを初めて見ただろう。
いや、アリスが感慨にふけっているのは東京駅ではなくそこから見える風景だ。今まで見てきた風景と自分の記憶にある東京という町の違いに驚き、同時に記憶と同じ場所を探そうとしているのだろう。
まるでタイムスリップのようなものだ。明治に日本を離れてから百年以上全くと言っていいほど足を運んでいなかったのだ。このような反応をするのも仕方のない話かもわからない。
「そんなに違うか?昔の風景と」
「当たり前だ。私の見ていた光景はここまで灰色ではなかった。土と空の色と、何もかももう違っているな」
まだ舗装の技術が進んでいなかったころ、それこそ明治の時代などはコンクリートによる道路の舗装なども万全に施されてはいなかった。
そして今でこそこうして高く伸びるビル群も存在せず、東京でも青空を多く眺めることができただろう。
ここが東京だと紹介されてもアリスからしてみれば全く別の場所、別の国の別の都市を紹介されているようなものだ。
昔の記憶と照らし合わせても一致するところはほとんどと言っていいほどない。そのせいもあってかアリスは少しだけ残念そうだった。
「アリスが見たかったのはこういう事か?それともまだ別に見たいものがあるか?」
「ん・・・私の知っている日本がどこかにあるかはわからんが・・・あるのであれば見てみたい・・・だがまぁ・・・それは今後に期待しよう。今は現在の、今この時の日本を見てみたい・・・ここがどういう国なのか、しっかり見ておく必要がある」
「了解、あとは・・・大体回ったから秋葉原でも行って遊んでいくか」
「あんたね・・・まぁいいけどあそこ遊ぶところなんてあるの?」
「むしろ遊ぶところの方が多い印象だけどな。今の日本を知りたいなら丁度いいんじゃないか?」
明治時代に秋葉原という地名があったのかどうかはさておき、現代の日本を知りたいというのであれば絶対に見ておかなければいけない街の一つが秋葉原だ。
良くも悪くも日本という国がどのようなものであるかを外国人に強烈に印象付けた街であり、文化や技術を多く発信しているところでもある。
当然それだけ衝撃は強い。中には強く拒絶反応を示すものも多くいるだろう。だがアリスは秋葉原という言葉に強く興味を惹かれたようだった。
「おぉ、アキハバラなら聞いたことがあるぞ。確か街全体でメイドを雇っている特殊な場所らしいの。あとたくさん電化製品が売っているとか」
「いやその知識はだいぶ間違ってるけど・・・いや間違ってないのかな・・・?」
「最近はメイドだけじゃなくていろいろいるらしいぞ。俺も詳しくは知らないけど・・・中学の時一度だけ友達とメイド喫茶行ったことがあるんだがだいぶぼったくられた」
康太のそのエピソードはさておき実際にメイド喫茶というのは非常に金がかかる。店にもよるだろうがただのオムライス(メイドにケチャップで文字を書いてもらえる)が二千円から三千円ほどするのも珍しくない。
さらに言えばそこで雇われているメイドと遊ぶのにも金が必要だったり、飲み物も何もかも普通の喫茶店に比べれば圧倒的に割高だ。
その割に味は普通なのが特徴である。料理などを楽しむのではなくサービスを楽しむための場所だと言えるだろう。そう言う意味ではキャバクラなどと似ているかもしれない。
「ふむ・・・やはりメイドに給仕をしてもらうにはそれ相応の代価が必要という事か・・・しかもそのメイドたちは獣の耳をつけている者もいると聞いたぞ」
「あぁ猫耳とかか・・・今それつけてる人いるのか?結構絶滅危惧種だと思うけど・・・」
「という事は昔はいたのか・・・!さすが日本・・・異様なものを取り扱わせたら世界に右に並ぶものはいないという事か・・・」
「あんたのその妙な日本知識一体どこで身に着けたのよ・・・ちなみにほかに日本で知ってることってある?」
そもそも外国人が思い浮かべている現代日本のそれは六割近く間違った知識であると思われる。
四割ほど実際のそれに酷似しているものがあるのがまた辛いところだがとりあえずアリスの持っている間違っている知識を正す必要がありそうだった。
「ふむ・・・私が知人から聞いたのはさっきのメイドの件と、日本にはオンミョウジと呼ばれる輩が裏で政治の実権を握っていること、ニンジャがいる事、そして近親相姦が日常的に行われていること、あとは冬にコタツと呼ばれる人間を堕落させる兵器を用いるということくらいか」
「・・・ごめんその知識ほとんど間違ってるわよ・・・ていうかほぼ間違ってる」
「なんと!?待て!日本の魔術師の多くはオンミョウドーとやらを修得しているのではないのか?昔会ったことのある日本の魔術師はあまり見ない術式を多く使っていたぞ」
「あー・・・京都の方に行けば独自の術式を使う人はいると思うわ。でもそれでも政治を牛耳ったりとかできないから。それにニンジャもいないし」
「なんと・・・!昔はいたのにもういなくなったのかニンジャ・・・!」
昔はいたのかよと康太はそのあたりすごく気になったところだがアリスは自身の間違った知識、というか日本の妙な知識がほとんど間違っているということにひどく落胆しているようだった。
一体その知人というのは一体どういう人物なのか気になるところではあるが今は気にしない方がいいだろう。
「おぉ!これだ、これぞ所謂ジャパニーズアキハバラ。話に聞いていた通りの場所だ」
康太と共にアキハバラにやってきたアリスは目の前に広がる異様な空間に目を輝かせていた。
明治の時代には存在すらしなかったアニメ、そしてゲームや漫画などのエンターテイメントの数々。大きく張り出された広告板に町のいたるところで広告を配っているメイド姿の女性たち。
良くも悪くも日本を印象付ける上でこれほど衝撃の強い街も他にないだろう。
「ていうかあんた日本に住んでたんでしょ?さっきみたいな知識が間違ってるとは思わなかったの?」
「思うはずもなかろう。文化というのは十年二十年経てば大きく変わる。私が住んでいたのは百年以上前の話だぞ?日本の文化が大きく変わるには十分すぎる時間だ。その間にここまで劇的な変化があるというのがその証拠。ニンジャの件は凄くがっかりしたがの」
なんでも昔日本に住んでいたころにニンジャのような輩を見たことがあるのだとか。当時の日本政府の高官の下で通訳などで生計を立てていたこともあるそうなのだが、所謂曲者として侵入してきた賊がまさに見た目忍者のようなものだったのだという。
だからこそ現代にまで忍者という存在がいるという事を信じて疑わなかったのだ。
もっともその希望はもろくも打ち砕かれたわけだが。
陰陽師というのもまた現代にこそ存在していないものの、彼らが使っていた術式は今も脈々と受け継がれている。そう言う意味では現代版の陰陽師が魔術師であると言えなくもない。
そう言う意味ではアリスの知っていた間違った日本知識もあながち間違ってはいないと言えなくもない。
「テレビなどで見ていた時に比べるとやはり現物を見られるというのはなかなか面白い。こうして眺めていると目が回りそうだ」
「こうしてみるとただの観光客ね・・・いろいろ見て回りたいけど・・・どうする康太、今の段階でも結構視線が集まってるけど」
行き交う人々は先程からちらほらとアリスの方に視線を向けている。外人は珍しくもないとはいえアリスの整った顔立ちとその小さな身長がなおさら周囲の目をくぎ付けにするのだ。
そしてそのわきにいる日本人二人、康太は割と平凡な方だが文はかなり整った顔立ちをしているために人の目にもとまるだろう。
この三人の中の二人が人の注目を集めるタイプの人間であるためにここから行動するのもなかなか苦労しそうである。
「どうするか・・・アリスは何か見たいものとかあるか?ここ大概色々あるけど」
「うむ・・・そうだの・・・そもそもここには何があるのか全く分からんのだが・・・」
「あー・・・娯楽関係であればほとんどあると言ってもいいな。漫画、アニメ、ゲーム、音楽、電気機器その他もろもろ・・・」
「あぁそう言えば幸彦さんが携帯作っとけって言ってたわよね?作っちゃう?」
「あ・・・しまった奏さんや師匠にその事いうの忘れてた・・・未成年だけじゃ作れないんじゃないか・・・?」
せっかく先程奏の所に行ったのに重要なことを伝え忘れていたことを思い出し康太は愕然としてしまう。
もっともあれだけ忙しくしていたのでは保証人になってくれるかどうかも怪しいところだった。そう言う意味では忘れていて正解だったのかもわからない。
ただの結果論でしかないがこれからどうするかが問題だ。
「ちょっと待ってね・・・あぁ・・・一応店舗に行けば未成年でも契約くらいはできるっぽいわよ?まぁ親の同意書とか認め印とかが必要になるけど」
文が軽く携帯で携帯の契約における未成年だけの場合のやり方を調べた結果、未成年のみで契約する場合本人の身分証明となる学生証など、そして親の同意書、契約に必要になるだろう認め印などが必要になるそうだ。
どれも今この場にはない。学生証も必要になるとは思っていなかったために今は家にある状態だ。
「そうか・・・くそったれ・・・今現在できないのがつらいな・・・まぁいいや、携帯の契約ならいつでもできるしな。んじゃせっかくだしメイドでも拝みに行くか。現代のメイドがどんなもんだか見てもらおうぜ」
「ほう、私の目は厳しいぞ?」
「だろうな、だからしっかり見てもらうんだよ」
アリスは良くも悪くも長生きだ。しかも協会の設立時に当時の貴族たちの協力を取り付けていた点から実際に働いていたメイドを見たことがある可能性が高い。
そんな彼女が現代日本のメイドの姿を見てどのような感想を抱くか気にはなる。
「秋葉原という街限定とはいえこれだけのメイドがはびこっているのだ。なかなかレベルが高いと予想するが・・・」
「あー・・・あんまり期待しない方がいいかもしれないわよ?あぁいうのは男の人が楽しむだけだから」
「む・・・そうなのかコータよ」
「なんて言ったらいいのかな・・・自分に奉仕してくれるっていうのが男は嬉しいんだよ。尽くしてくれるとすごくうれしい」
康太の素直な感想に文はそう言うものなのかしらとため息を吐く。対してアリスはいつの時代も男は変わらんのと付け足しながら苦笑していた。
「そう言うのを金で買ってるあたり現代の日本が随分ただれてるってのがわかるわよね・・・いや世界全体か」
「そう言うな。いつの時代も奉仕するものとされる者はいた。金銭を払っての疑似的なものとはいえそう言うものを体験したいというのも無理はないだろう」
アリスが言うと説得力が違うなと康太と文は感心していた。実際に世代や時代を超えてきた人間のいう言葉は重みが違う。
日曜日、評価者人数215人突破、ブックマーク件数2300人突破で四回分投稿
お恥ずかしながら自分はメイド喫茶というものに行ったことがないのでほぼ想像です。そのあたりどうかご容赦ください。
これからもお楽しみいただければ幸いです




