アリスの趣味
「・・・あれが日本のメイドか・・・ニンジャと同じかそれ以上にがっかりしたぞ」
「まぁそうでしょうね・・・私もあれには驚いたわ・・・男ってなんであんなのがいいの・・・?」
「まぁまぁ、基本素人がやってるんだからあんなもんだって。本物には劣るけど空気を感じ取りたいのが男心ってもんなんだよ」
正直康太もメイド喫茶の良さというものは理解しかねるが一応世の男たち、というかメイド喫茶に足を運び続ける男たちの気持ちがわからないわけではない。
あのような場所で優越感というか疑似的にでも誰かに尽くしてもらいたいという気持ちがあるのだろう。
魔術師としての収入によって懐が温かい今なら話のネタ的な意味で足を運ぶくらいならいいとは思うが毎日のように通い詰めたいとは思わない。
「ていうかあれじゃね?あぁいうところに通って疑似恋愛とか新しい出会いとかを期待してるんじゃないのか?」
「えー・・・?そんなのある?あの子たち基本的にバイト感覚でやってるでしょ?しかもあそこにいたのってそれっぽい人達ばっかりじゃない?そんな風に見れないと思うんだけど・・・」
文のいうそれっぽいの意味を少し測りかねていたが、康太もあの場にいた客層を思い出しなんとなく理解する。
要するにいかにもオタクっぽい見た目の人間が大勢いたのだ。中には康太たちのような物珍しさや話題作り的な意味で入店したらしい者たちも見られたが、あの場ではそれらはだいぶ少数だったのは言うまでもない。
「何より私は給仕能力云々よりもあのメイド服がいただけない。なんだあれは、スカートは短いし妙な生地を使っているし機能的ではないし。メイドをなめているのかといいたい」
「なんか妙に熱く語ってるな・・・メイドになんか思い入れでもあるのか?」
「うむ・・・昔イギリスの貴族の家で世話になっていた時、そこにいたものと仲良くなっての。その時色々と苦労を聞かされたものだ。メイドとはかくあるべきであるという生き方なども教えてもらった。あいつとの思い出があるからこそあのメイドは許せん」
どうやらアリスの昔の友人にメイドがいたらしく、そのメイドとの思い出という意味で彼女にとってメイドはなかなかに重要かつ思い入れ深いものなのだろう。
今時メイドなど実際に存在するのだろうかと言いたくなるが、彼女にとってはメイドという名前を使うのであればもっとしっかりと仕事をしろと言いたいのだ。
その本質はどうあれメイドの名前を使うのであれば中途半端は許したくないのだろう。アリスの意外な一面が見受けられて少し面白かった。
「それはそうと、メイドがいるのであれば執事はおらんのか?せめてメイド喫茶よりはまともなものを用意してほしいものだが」
「あー・・・どうだろ、秋葉原に執事喫茶ってあるのかな?」
「ちょっと待ってね・・・あぁあるっぽいわよ?ちょっと歩くけど」
「ふむ、そこにも足を運んでみるか。どうせならこの街全体のレベルを見てやる」
「無駄に金ばっかりかかるからやめてくれ・・・ていうか秋葉原になにを求めてるんだよ・・・」
アリスの中では秋葉原=メイドの街というイメージが先行してしまっているようだ。秋葉原にあるのはメイド喫茶だけではない。数多くのイメージキャラクターを模した喫茶店が存在するのだ。
属性とでも言えばいいだろうか、それらを象徴するかのような喫茶店が多くあるためにそれらを回るのも悪くはないかとも一瞬考えたがその分無駄に金が飛んでいくことになる。
なにせそう言う店は本当に金がかかるのだ。主に人件費だが。
「だけどそう言う店以外になにがあるのよ?ゲーセンとか電化製品くらいじゃないの?」
「そうだな・・・あとはカラオケとかか・・・でもアリスって今流行ってる曲とか知らないだろ?」
「む・・・確かに・・・だがひとしきり有名になった曲くらいはわかるぞ?主に洋楽になってしまうが」
「お、そうだよ一応外国人だったな。英語ペラペラなやつの歌とか聞いてみたいかもしれない。いっちょカラオケ行くか!」
「それはいいけど・・・ちょっとくらい準備期間あげてもいいんじゃないの?パソコンで調べるとかさ・・・それに東京観光でカラオケってのもどうよ」
確かに日本の東京を観光しに来ているのにカラオケに興じるというのもなんだか残念な感じになってしまう。
せっかく東京にやってきているのだからせめて東京の隅々まで見ておかないともったいないというものである。
「ならば秋葉原では一カ所だけ見てみたいところがあるのだが、良いか?」
「ん、さっき言ってた執事喫茶か?」
「いやそれはまた今度にする。そうではなくて・・・なんというんだ?あぁいった服や商品が売っている場所を見てみたい」
アリスはそう言って道行く人がもっているいかにもアニメ色の強い紙袋に視線を向ける。
そう言うものに興味があったのかと康太は少し驚いたがとりあえずアリスの希望というのであれば連れていくのも吝かではなかった。
「それはいいけど・・・なんだ?コスプレでもしたいのか?」
「うむ、日本の服はなかなかレベルが高いと聞く。特にテレビなどで特集されているようなのが気になっていての」
一応長く生きていると言ってもアリスも女の子という事だろうか、コスプレ系とはいえ服が気になるというのもなかなか可愛いところがあるなと康太と文は少しだけ微笑んでしまっていた。
もっとも康太たちが考えているような服とアリスが考えているような服はだいぶ違うのだが、それはまた別の話である。
「おぉ・・・これはまたいいものだ・・・あとこれも・・・ついでにこれも買っておこう。おっとこれもいいな」
「・・・まだ買うのか・・・?」
「まだまだ買うぞ。金に糸目は付けん」
康太と文はアリスが徹底的に買っていく商品を前に驚愕すると同時に辟易してしまっていた。
服をメインとしてアクセサリーなどもいくつも籠の中に入れていく。それぞれ自分のサイズに合うものであるとはいえそれでもそれなり以上の数の商品が籠の中に入っている。
しかも入れているのは服だけではない。康太が以前作ったことのあるプラモデルなどもその中に含まれていた。
「こんなの買ってどうするんだよ?着るのか?作るのか?」
「うむ、せっかく日本に居を移したのだ。これを機に新しい世界をどんどん開いていくつもりだぞ。あとはアニメのDVDなども買っていくつもりだ」
「そんなのレンタルでよくないか・・・?ものが増えるばっかりだぞ」
「レンタルでもよいのだが・・・せっかくだから買っていくことにする。見たかったらコータも見てよいぞ」
本当に上限しらずの懐をしているだけあって買い物もだいぶ豪快だ。康太たちよりも貯金額は倍どころか十倍近いかもしれないがそれにしたってこれだけの買い物を一気にするというのはなかなか強烈である。
何百年も生きていると趣味というものもだいぶ増えるのだろう。まだまだ見たことのない試したことのない趣味が数多くあるのだろうが、いったいどれだけの趣味があるのか少々気になった。
「アリスって結構多趣味なのか?今まで結構長生きしてるわけだろ?」
「女性に対して長生きとは失礼な・・・まぁ否定できんが・・・そうだの・・・普通の人間に比べれば多趣味だとは思うぞ?」
「たとえばどんなの?」
「そうだの・・・乗馬、釣り、狩り、天体観測、サバイバル、スキューバダイビング、スカイダイビング、読書、映画音楽鑑賞、絵画、登山、ガーデニング・・・あと少しだが楽器ができるな」
ぽんぽんと出てくる趣味の中で楽器ができるというのはなかなか興味深かった。どうやらその言葉に文も興味を抱いたのかアリスの方に意識を傾けている。
「へぇ、ギターとかそう言うのか?」
「ギターはアコースティックだがな。あとヴァイオリン、ピアノ、フルート、チェロ、トランペット、ホルン、ユーフォニウム・・・あと嗜む程度だがドラムも少しだけなら」
「なんか一人でバンド組めそうな勢いだな・・・そんなに楽器覚えてどうするつもりだったんだよ」
「いや・・・覚えてどうというものではなくてだな・・・昔コンサートなどに行ったときに演奏している姿が格好良くてそれにあこがれてやってみたのがきっかけでの・・・」
誰かが演奏しているのを見て影響される当たりなかなかアリスはミーハーというか影響されやすい性質なのかもしれない。少し気恥ずかしそうにしながらもそれだけの技術を修めているあたりやはり年の功というべきだろうか。
「それで今度は日本のアニメ文化に触れてみようとそう言う事か」
「ふむ、コータの部屋にあった漫画は大抵読んだ。なかなか面白いものが多かったぞ。私が日本にいる間に一体どれだけ読めるか楽しみだ」
「漫画を読みたいなら漫喫にでも行く?その方がたくさん読めるわよ?」
「それはまた今度にしよう。私が暇を持て余した時にでも個人的に足を運ぶことにするさ。こういう時はまた別の楽しみ方があるのだよ」
確かに漫画を読みたいなら漫画喫茶で事足りる。だが先ほどのカラオケの時もそうだったがせっかく日本の東京を観光しているというのにわざわざ漫画喫茶に足を運ぶというのも風情がない。
もっとも観光と称してこういうアニメ専門店にやってきている時点で風情も何もあったものではないのだが、そのあたりは致し方ないという事でおいておくことにする。
「アリスって今まで結構生きて来てるけどさ、そう言う風に買ったものってどうしてるの?どっかに保管とかしてるの?」
「いや、私の場合その時々によって対応が変わるな。例えば今回のように誰かの家に居候している場合ならその家のものにあげたりする。もし自分で居を構えているのであればその家ごと処分する」
「処分って・・・なんだかもったいない気もするけど・・・」
「そうは言うがの・・・私のように長く生きている人間からすると私がいたという痕跡が残ること自体がそもそもあまりよろしくないのだ。昔ならまだ多少のごまかしがきいたしある程度雑でもよいのだが最近の情報流通の早さを考えるとなかなか・・・」
確かに昔はまだ情報の流通速度も遅く、情報の残留時間というのもあまり長くなかった。
だが今の日本、いや現在の世界ではひとたびインターネット上に情報が上がってしまえばそれは一生、もしかしたら今後の世界でずっと残ってしまうかもわからない。
仮にアリスなどがどこかの写真に写り、数百年後にアリスがまた別の写真に写った場合、ただの他人の空似で済むかどうかという話だ。
それに気づくものがいるのであればの話になるが、もし万が一数百年後もまだ生きている人間であると察する者がいた場合それはそれで厄介なことになる。
今はまだそこまで警戒する必要はないかもしれないが、誰かに写真を撮られるなどという事は極力避けたほうが良いかもしれない。
魔術の存在のためにも、そして余計な混乱を招かないためにも。
誤字報告五件分受けたので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




