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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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ずっと、ずっと

「なるほど、そういう話だったのね」


後日、康太が副本部長とした話を自分たちの拠点で聞いた文は納得しながら小さくうなずいていた。


康太が本部に呼び出されたという事実に文は地味に動揺していた。


どうしてそのようなことになるのかを理解していたが、どうしても康太が封印指定になるという事実は魔術師である文にとっては大きな問題なのだ。


アリスという封印指定でありながら普通に、というか怠惰に過ごしている存在を知っているからこそ、それほど衝撃ではないものの、やはり不安になってしまうのだ。


魔術協会にとって封印指定とはつまり滅ぼす対象だ。この世から存在そのものを消してしまうような行動をとることが多いために、康太が殺されてしまうのではないかという心配もしていた。


無事に帰ってきて内心強く安堵した。表には出していないものの、文はこうして康太と話ができていることが嬉しかった。


「じゃあ、あんたが封印指定にならないように副本部長を抱き込みながら例の組織への牽制を行うと」


「まぁぶっちゃけどう頑張ろうと俺が封印指定になるのはほぼ確実なんだろうけどな。あれは無理だ、副本部長の言い分からして間違いなく俺は封印指定になる」


これは康太の勘だった。副本部長と話して、そしてその雰囲気を感じ取って康太はそれを理解していた。


間違いなく封印指定に、アリスと同列に扱われてしまうということ。そして本部にはこれから行きにくくなるであろうということ。


最悪支部長までもが敵に回るという可能性を秘めている。それは康太の魔術師としての人生を断つような行動だ。


もっとも副本部長に言ったように、康太は自分の魔術師としての生活を改めるつもりは全くなかったが。


「とりあえずあとは本部の方が体勢を整えて俺の糾弾を行うまで待機って感じじゃないか?それ以外にできることもないし」


康太たちが得た情報の中には敵の拠点のものも含まれる。各支部や本部にその情報を流せば即座に攻略作戦が始まるのだろうが、康太たちは意図的にその情報を制限していた。


支部長の統制のもと、本部にいるスパイをしっかりと確保できない状態では情報を流すのをやめたほうがいいという判断だ。


もちろん信用できる他の国の支部長や前回の作戦に参加した多くはその情報を知っている。


スパイの存在が広く認知されているからこそ、意図的に情報を狭めている。スパイもスパイで疑いをもたれているのは把握しているだろう。


どのレベルまで疑われているのかを確認する術がない以上、現状維持を続けるしかないという状況だ。

下手に動けば尻尾を掴まれる。


長く魔術協会の中に潜伏していたからこそそういった考えを強く抱いている。そして康太の作戦は、相手が動くに値する情報を意図的に漏洩し、それらの目的を一気に達成させる可能性を秘めたものでもある。


「確かに連中にとっての成功体があんただっていうのはわかるけど、そこまでする意味あるの?わざわざ囮になるなんて。囮っていうか撒き餌っていったほうがいいかしら?」


「釣りですらないからな。少し怪しい動きをすればそれで十分。あとは本部の人間がうまく確保するだろ。網にかかってくれればそれでいい」


今回康太がやろうとしているのは今まで何度かやってきた釣りではなく、餌を撒いて相手をおびき寄せるというものだ。


しかも確実に餌に食いつかなくてもいい。餌がまかれたという事実に対して露骨な反応を示したものを徹底的に捕縛すればいいのだ。


仮に捕縛されてから無実だとわかれば組織を殲滅した後に解放すればいいだけ。多少人間関係が歪になるかもしれないが、必要な犠牲と割り切ってもらうしかない。


「康太としては勝算はどれくらいだと思ってるの?」


「んー・・・たぶん半分くらいのスパイは見つけられるんじゃないかと思ってるけど・・・実際のところどうだろうな、今までずっと隠れてた連中だからなぁ・・・」


「それもそうだけど、副本部長が封印指定にならないようにしてくれるって話よ。ならないようには・・・」


「さっきも言ったけど無理だって。こんな体になって、しかもそれがほぼ確実に本部にばれたんだ。我ながら失敗だったな。もっとひそかに暴れればよかった」


康太自身、神化状態は意識してやっていたわけではない。強い怒りに導かれて康太の本当の姿とでもいうべきものを露出してしまった。


そしてそれを多くのものに見られたのが問題だった。噂が本部にまで届いたからこそ本部も動いた。


ただでさえ康太は封印指定関係でマークされていた。ここに来て康太が妙に輝いて人の姿とはかけ離れたという事実があれば本部が動かないという選択肢はなかった。


「文、これから俺はだいぶ面倒なことになるぞ?だから」


「一緒にいるわよ」


俺からは離れたほうがいいかもしれないぞという言葉を言わせないかのように、文は康太の顔を掴んで強引に自分の方を向かせるとそういい放った。


「私はあんたと一緒にいる。ずっと、これからもずっと。私が死ぬまで、ずっと」


「・・・相変わらず文さん男らしいっす。惚れ直しそうだぜ」


「存分に惚れ直しなさい。言っておくけど私はあんたを離すつもりはないから」


そういいながら文は不敵な笑みを浮かべる。


恋する乙女は強いんだなと康太は苦笑してしまっていた。



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