思春期からの検体採取
「おうおう、見せつけてくれるではないか」
二人の耳に聞きなれた声が聞こえた瞬間、文は勢いよく康太から離れ、声の聞こえた方向に顔を向ける。
「覗き見とは趣味が悪いんじゃないの?」
「馬鹿を言え、堂々と玄関から入って堂々と見させてもらったぞ。わざわざ覗く必要などないだろう」
声の主はアリスだった。康太と文の会話をいつ頃から聞いていたのだろうか、アリスは飄々とした様子で部屋の中に入るとソファに腰かける。
「ふふふ、まるで生涯を誓ったかのような言葉だったの。いや、かのようなではなくそのものだったか?」
「うっさいわね。文句あるの?」
「いいや、文句などあるものか。お前たちの子供を今から見るのが楽しみだ」
康太と文の子供。その言葉に康太と文は微妙な顔をする。ただ単にそういった行為をするというのが恥ずかしいというだけではない。康太の体が変わってしまった以上、そういった行為をしても子供ができるかもわからなくなってしまったのだ。
もっとも子供ができるできないにかかわらず、文は康太と体という意味でも結ばれたいと思っているのだが。
「そんな二人に朗報だ。コータよ、以前とりかかっていたものが完成したぞ」
「ん?あぁ一時期なんかやってたっけ。何やってたんだ?」
「いやまぁ、まさか必要になるとは思っていなかったんだがな・・・フミ、これの結果によってはお前とコータとの子が生まれるかどうかがわかる」
「本当に!?」
文の予想以上の食いつきにアリスは驚くが、それと同時に笑みを浮かべる。文からすればずっと気になっていたことであるために大きな反応をしてしまうのは半ば仕方のないことだろう。
ニヤニヤしているアリスを放っておきながら康太はとりあえず話を先に進めようとしていた。
「で、いったい何やってたんだ?」
「ふむ、以前康太の体から出た血が電撃と同化しなかった現象を覚えているか?」
「あぁ、半分神様になっていろいろ実験してた時か」
「あれを見ていてふと思いついてな。本来こんな形にするつもりはなかったのだが・・・まぁいい。ここにお前の精液を取り出せ」
そういってアリスは紙コップを取り出し康太の目の前につきつけた。
突きつけられた紙コップと、アリスが放ったワードに康太と文は顔をしかめてしまっていた。
「あのアリスさんや、俺ら一応思春期の高校生なんだよね?もうちょっとオブラートに包むとか・・・言葉を濁すとかさ」
「そんなことをしてどうなるというのだ。話はさっさと進めたほうが良いだろう。ということでほれ、とっとと出してこい」
出してこいなどと手軽に言われても、こんな状況下で簡単に出せるとも思えなかった。
自分で好き好んで出すならともかく、誰かに言われてとにかく出せというのはかなりプレッシャーになる。
「あのアリス、どうして康太の・・・その・・・あれが必要なのよ」
さすがの文も精液というワードをはっきり言えるほど達観はしていないのだろうか、少し顔を赤くしながら視線を逸らせて、いやむしろ康太の股間部分に視線を向けていた。
「ふむ、以前私が作ろうとしていた術式は索敵や解析の一種なのだがな、もともとこれを作ろうとした切っ掛けはミカの中にいる精霊を見ようと考えたことなのだ。解析で干渉せずとも見ることによって理解できればなと思ったのだよ」
以前からアリスは神加の体内にいったいどれくらいの精霊がいるのかを気にしていた。だが神加の体内を調べればその分体内にいる精霊たちを刺激しかねない。
微妙なバランスで成り立っているかもしれない神加にそのような負荷をかけるのは危険と判断したアリスは逆転の発想をしたのだ。
神加を調べるのではなく、神加を見ることによって調べられないかと。
「要するに、切開して体内を見るのではなく、レントゲンやMRIなどのように見るだけで中の様子を確認できないかと思ったわけだ」
「あれだって見てるだけってわけじゃないけど・・・何となくわかったわ。で?それと康太の・・・あれといったいどういう関係があるのよ」
「ふむ、そこで先ほどの康太の血の問題になる。康太の体は今そうしている間は人と神の中間だ。だが康太の体から出た物体は、ただの物体としての性質しか持たん。つまり神としての性質が抜け落ちた形になる。正確には人間としての康太から零れ落ちたものというべきなのかもしれんがな」
康太の老廃物などは電撃を与えても電撃と同化することはなかった。それはアリスはすでに実験済みだったという。
いつの間にそんなことしてたんだと康太は呆れるが、本題はそちらではないようだった。
「男というのは女に種を植え付ける。だが康太の体から出たものがただの物体としての性質しか持たないのであれば・・・普通の男の精液としての機能しかないのではないかと考えたわけだ」
「・・・うん、わかったわ。それで?」
「そこで私は魔術を改良して、その物体がいったいどのようなものであるのかを確認できるようにしたのだ。極小のものでも問題なくな。なので物理的な解析の魔術をさらに詳細にしたものといえばわかりやすいか?」
「つまり、それで康太の・・・あれを調べると」
「そうだ。公的な機関に出して調べることもできるだろうが、万が一おかしなものだったら大変なことになるからの。私が調べる」
ということで早く出せとアリスは康太に紙コップを突き出す。調べてくれるのはありがたいのだがこれほどまでに嬉しくない調査は初めてだった。




