魔術師の末路
「わかった。君の提案を飲もう」
副本部長の口から絞り出されるように出た康太の案に対する承諾の言葉に康太は安堵の息を吐く。
康太ができることは今この程度だ。相手の動きを掴みやすくするためにできる最低限のこと。
この程度のことで良ければ何度でもやるが、逆に言えばそれ以上のことをするのかといわれると少し微妙なところだった。
康太の目的の中に、件の組織の打倒というものを入れていいものか、康太は少し悩んでいた。
問題行動になっているのは間違いないが、康太は今明確な目標を失ったことで少しだけ行動意欲が少なくなっていた。
「それじゃあ俺はこれで・・・副本部長はあの組織を潰すつもりなんですよね?」
「そうだ・・・あれをそのままにしておくことは危険と判断する。君にもぜひ協力してほしいところだが」
その言葉に康太は少し目を細めて頭を掻く。協力してほしいといってくれることに関してはうれしく思う。
だがどうにもやる気が出ないのだ。
自分が行かなくてもよいのではないかと、そう思えてしまう。
幸彦を殺したあの魔術師を倒し、殺すことが叶わなかったことで、康太は少し無気力になっている。
「本部がきちんと機能するのであればもう俺は必要ないのでは?本部には優秀な人材がそろっていますし、わざわざ使いにくい俺を使わなくてもいいのでは?」
「君は確かに使いにくい。いや扱いにくいというべきか。どちらにせよ君の戦闘能力は貴重だ。こちらとしては君を遊ばせておくのは惜しい」
「俺以外にも高い戦闘能力を持つ魔術師はたくさんいますよねって話です。俺がわざわざ戦う必要があるんですか?」
「・・・意外だな。君はこういう時に望んで首を突っ込むタイプと思っていたんだが」
「俺は戦いが好きってわけじゃないですよ?喧嘩を売られたからそれを買ってきただけで。今は少し・・・ゆっくりしたい気分ってやつなんですかね?少し疲れてます」
その疲れが肉体の疲れなのか精神の疲れなのか、康太自身よくわかっていなかった。どこか体がだるい。日を追うごとに疲れが体を侵食しているかのように体が重くなっているのを康太は感じていた。
「調子を崩しているということか・・・だが、君が先ほど言っていた封印指定に対する議論に関しては君自身出席してもらわないと困るぞ?君の人外性を確かなものとするには君自身が必要だ」
「わかっていますよ。そのくらいは大丈夫です。ただ、何というかやる気が出ないだけですよ。少し休めばまた元気も出てくるでしょう」
康太自身これが季節に変わり目による風邪なのか、自分自身の精神の変化によるものなのか、あるいは人ではなくなったことによる反動なのか測りかねている。
だが康太自身はそこまで大したことではないと認識していた。康太の感覚から言うと長期休み明けの月曜日といった感じだった。
全体的に体が重いのも、先日の戦闘のダメージを引きずっているものだと考えていたためそこまで深刻に悩むようなことはしていなかった。
「とはいえ・・・そうか、君の体調がよくないのであれば無理に活動させるのは・・・とはいえ君がいないのは正直に言えばかなり痛いな」
「俺がいなくたって平気ですよ。今までだって俺がいた場所以外でたくさん戦果を挙げてきたでしょう?」
「それはそうだがな・・・まぁいい。これ以上このことを言っても仕方がないだろう。ブライトビー、君が本部に来て、こうして私と対面で話すことができるのはこれが最後かもしれない」
「・・・あぁそうか、封印指定になったらそういうのって難しくなるんですか?」
「おそらくな。そこのアリシア・メリノスは例外として普通なら本部に足を踏み入れた時点で攻撃されても不思議ではない・・・最悪支部に足を運ぶのもやめたほうがいいだろう」
「まぁそんなこと言われても俺は生活を変えるつもりはないですけど」
「・・・だろうな。君はそういうタイプの人間だ。周りの人間が君に対して敵対的な考えを持ちやすくなると思えばいい。君自身が争いを好まないというのであれば、魔術師が多い場所に足を踏み入れるのはやめておくのが賢明だ」
「ならついでに公表しておいてください。俺に手を出した結果、最悪こうなりますよって」
そういって康太は写真にとっておいたあの魔術師の姿を見せる。
そこには手や足が斬り落とされ、目は潰され耳や鼻は削ぎ落とされ、もはや人としての生活もままならないのではないかと思えるような姿をした男が写っていた。
「これは・・・」
「俺の身内に手を出した奴の末路です。こうなりたくなければ、同じ目に遭いたくなければ、俺を敵に回すのはやめた方が賢明ですよと」
意趣返しのつもりか、康太はあえて賢明などという言葉を使った。少なくとも封印指定を何とかしようとするのは魔術師としては正しい行動だ。
むしろ魔術師として人の枠から外れてしまったのだから、ある意味仕方がないといえなくもないが、それでも、これを見ても康太を敵に回すのであれば相応の覚悟を必要とするだろう。
後は魔術師の世界で言うところの自己責任の問題だ。
魔術師として挑み、魔術師として負けた。全て自己責任で完結するその問題の中で、どれだけ自分の存在を担保にできるか。康太を敵に回すというのはそういうことを意味している。
日本支部の魔術師はよく知っているだろう。本部の人間がどの程度知っているのかはわからないが。




