倉敷の目的
「っていうかさ、平穏が欲しいとか言っておきながら誘ったら来てくれるじゃん?案外まんざらでもないんじゃないのか?」
「ざけんな。俺だって可能な限り厄介ごとはごめんなんだよ。でもエアリスさんにも世話になってるし、あの人の弟子が出向くってのに手伝わないわけにはいかないだろ」
『なによ、私のせいにするつもり?別に手伝わなくても修業場出禁にするとかないって言ってるじゃないの』
「そういうこと言ってるんじゃねえんだよ。筋の問題だ。あの人に世話になってるんだからいろいろ手伝わないと・・・なんかあれだろ・・・」
倉敷自身言語化が難しいのだろうが、康太と文も何となく彼が言いたいことは理解していた。
それがどういう意味を持つのかも、なぜ倉敷が康太たちを手伝うのかもわかっているつもりだった。
『師匠に筋を通すって言っても、そこまで気にする必要はないと思うけどね・・・あんた自身、かなり実力もついてきたしうちを出ても十分やっていけるでしょうに』
「強くなったからありがとうございましたですぐに出ていくほど恥知らずじゃねえよ。少なくともお前らの門下にはこれからも協力していくつもりだ」
「へぇ、それって俺も含まれてる?」
「・・・可能なら含みたくない。お前の手伝いまで含めたらたぶん俺の未来は血みどろになるだろ」
「そういうなよ、明るくアットホームな職場だって。ちょっと流血沙汰が多いだけだから。ちょっと拷問とか頻繁にやるだけだから」
「ブラックどころじゃねえよ、求人広告載せた時点で通報されかねん勢いだわ。まぁ・・・きっかけはお前だからな。お前と敵対することもねえよ。っていうか絶対敵対したくない」
「えー・・・それは嬉しいけどなんか嬉しくない。たまには訓練も付き合えよ・・・水属性相手はなかなか難しいんだよ」
「絶対嫌だ。水属性だったらライリーベルも使えるだろうが」
『私はあんたほどは使えないわよ。あんた水属性だけならかなり高いレベルなんだから、専門の人じゃないと』
倉敷の水属性の適性は高い。本人の素質に加え努力とエアリスのもとで修業しているからか順調に実力をつけている。
さらに康太たちに振り回されたことにより不本意ながら実戦も何度も経験しているということもあって、かなり実力自体はある。
本人がそこまでの実力を求めていないというのがかなり複雑なところだろうが。
「そういえばさ、お前ってなんで精霊術師やってるんだ?今まで聞いたことなかったけど」
「あ?なんだそれ・・・っていうかお前は聞かれて答えられるのかよ?」
「あれ?言ってなかったっけ?俺は師匠に殺されかけて、殺されたくなければ弟子になれって感じでスカウトされた」
「そういえばそんなこと言ってたような・・・ていうかそれって一般的には脅迫っていうんじゃ・・・やっぱあの人半端ないな」
さも当たり前のように答えた康太は今度はお前の番だと言わんばかりに身を乗り出している。
今まで倉敷と長いこと一緒に行動してきたが、倉敷がなぜ精霊術師になったのか、なぜ精霊術師として活動を続けているのかは聞いたことがなかった。
これもいい機会だと文も耳を傾けている。
「俺の師匠が放浪癖があるのは前に話しただろ?俺にある程度技術を仕込んだらどっかに行ったっての」
「あぁ、前に聞いたな。今どこにいるかもわからないんだっけ」
「そう・・・俺は小学校の頃の遠足で師匠と出会ってさ、その時ちょうど精霊の召喚をやってたらしくて・・・それで召喚した精霊がちょうど迷って通りがかった俺に宿って・・・って感じ」
「おぉ・・・精霊にいきなり気に入られたのか」
「相性がよかっただけだと思うけどな・・・それ以来ずっとこいつとは一緒だ」
そういって倉敷の体の中から淡い光を放つ光の玉が現れる。それが倉敷の体に宿る精霊であるということはすぐに理解できた。
精霊術師になるために精霊と契約したのではなく、精霊と契約できたから精霊術師になったというべきだろうか。
神加ほどではないが、倉敷も精霊との相性がいい体質のようだった。
「じゃあいきなり精霊術師になれとか言われて連れていかれたのか・・・ほとんど人さらい状態だな」
「殺人未遂状態のお前に言われたくねえよ。まぁ実際間違いではないけどな・・・こいつと一緒に頑張っていろいろ覚えて・・・たぶんこれからもそうすると思う」
「精霊との相性がいいっていうのはうらやましいよ・・・でもなんで精霊術師を続けるんだ?別に術をいくつか覚えてればそれ以上精進する必要はないんじゃ」
平穏を求めるのであれば術をいくつかと正しい知識を持っていれば問題なく日常生活を送ることはできる。
だが倉敷はその先を求めている。何かがあるのだ。倉敷の求める、所謂目標が。
「まぁ、本当ならそうなんだけどさ、でもせっかくこういう力を使えるんだ。可能な限り強くなりたいって思うのは別にいいだろ?それに・・・一応目的はあるにはあるんだよ」
「へぇ、どんな?」
「水属性の術の中には精霊のための依り代を作る魔術があるらしいんだ。師匠からの受け売りだから本当にあるかはわからないけど、俺はそれを探してる。たぶんお前のそのスライムのやつみたいな感じだと思うけど」
そういって倉敷はウィルを指さす。何度か康太と行動を共にしたことで、ウィルが半自動で動いていることは察しがついているのだろう。




