恐るべき精霊術師
「あぁ、そういえばこの間、魔術師の中の女の話題になっただろ?」
「ん?あぁそういえばそんな話になったな」
この間幸彦を交えて康太たちの拠点で話をしていた時の話だ。康太はその時のことを思い出して相槌を打つ。
「あの後実はさ、俺が協会・・・っていうか主にお前らから依頼を受けてるってことを知ったらしくてさ・・・っていうかこの前中国に行ったことも知られてて」
「へぇ・・・あれ?そういうの守秘義務があるんじゃないのか?」
「魔術師に関してはな。俺は精霊術師だからそういうのは該当しないみたいだ」
本来であれば何かしらの依頼を受けた魔術師の情報は秘匿される。とはいえ協会として評価を定める段階でどのようなことをしたのか程度の情報公開はあるだろうが、誰からどのような依頼を受けたのか、どのようなことをしたのかなどは隠されるものだ。
特にそれが本部が関わっている依頼ならなおさらである。
だが倉敷は良くも悪くも精霊術師だ。魔術師のカテゴリーに入らない彼の情報は割と流出し放題な状態になってしまっているようだった。
実力はあるのに相変わらず不憫な扱いだなと康太と文はわずかに涙を浮かべてしまっていた。
「それでさ、中国に行ってきたはいいんだけど、やっぱ噂とかでどんなことやってきたかくらいは知られてるんだよな。噂は広がるっていうか、止められないっていうか」
「あー、その人も知ってたわけだ。一般人の殲滅作戦」
「そうなんだよ。俺は後衛で防御を担当してたっていうことまでは知らなかったらしくてさ、俺がその作戦に参加してるくらいのことしか知らなくてかなり怖がられた」
『ふふふ・・・いつの間にかあんたもビーと同じような扱いを受けるようになったってわけね』
「笑うなよ。かなりショックだったんだぞ?仲良くなったと思ってた魔術師にかなり怯えられたんだからな」
「まぁ普通に魔術師やってれば大量殺人なんて普通はしないからな。しかも精霊術師ならなおさらだろ。そういう意味じゃお前はかなりのレアケースになるわけだな」
「・・・まぁ実際あの作戦に参加してた精霊術師の数は少ないけどさ・・・」
中国の殲滅作戦に参加していた魔術師の数は大勢いたが、精霊術師の数はかなり少なかった。
数に直して十人にも満たなかっただろう。それだけの数しか参加できない程度には狭い門を倉敷は潜り抜けたのだ。
もっとも康太や文の紹介ということもあったのだろうが。
『それで誤解は解いたのかい?』
「そりゃもう。俺は後方で防御担当してたとか、後輩の魔術師のお守りをしてたとかそんなことを話しましたよ。そもそも俺の術じゃ大規模な攻撃はかなり不自然ですから」
「なるほど、そういう風に話をして・・・納得してもらえたのか?」
「どうだろうな・・・なんかこう・・・『私はわかってるから』みたいな感じでお茶を濁された気がする・・・明らかに危険人物を見る目だったよあれ」
『ははは、危険人物か、精霊術師で危険人物となるとなかなかレアだね。少なくとも僕もあんまり見たことないなぁ』
「バズさんでも強い精霊術師って見たことないんですか?」
幸彦ほどの経験の持ち主ならば、倉敷以上に高い戦闘能力を有した精霊術師を知っているかと思ったのだが、実際はそうでもないらしい。
『知っての通り、精霊術師は術式を学ぶのも師匠からの指導くらいしかないからね・・・中には魔術師に取り入って過去から研究されてきた効率的な術式を知ることができる者もいるけれど・・・特定の属性しか扱えないっていうのはかなりのデメリットだよ』
体内に精霊を宿すという条件を満たすために、魔術師以上に厳しい制約を持っているのが精霊術師だ。
特定の精霊を扱うことで特定の属性しか扱えないというデメリット、そして魔術師から見下され術式も満足に調べられないということもあってそこまで高い能力を有している精霊術師というのは少ない。
倉敷のようなタイプは稀なのだ。もっとも彼の場合は成長過程で康太たちに出会ったというのが大きな要因の一つであると思われるが。
『君のように魔術師でさえ参加できないような大規模作戦に参加した精霊術師となれば、他の魔術師たちも放っておかないだろうさ。君と繋がりを作ろうとする者がいても不思議ではないのだけれど・・・』
「俺らが大体一緒にいるからそういうのを誘うような人間もほとんどいないと・・・なるほどやったなトゥトゥ、余計なスカウトを受けずに済んだぞ?」
「・・・俺としてはお前らとの縁を切って平和に暮らしたいんだが・・・」
『あきらめなさいな。あんたが思っている以上に私たちに関わったのは不運だったってだけよ。これからも力になってもらいたいんだから』
倉敷の力は誰よりも康太と文が高く評価している。それこそ最近実績をつけてきたから関係を持とうとする魔術師などとは比べ物にならないだろう。
「っていうか精霊術師とコンタクトを取ろうとする魔術師って何が目的なんですか?護衛役とか?囮とか?」
『いや、属性の術式だろうね。優秀な精霊術師はその属性に特化した術を有している場合があるから、それを目当てにする者もいる。まぁビーたちと一緒にいればその心配はないだろうけどね』
「よかったなトゥトゥ、俺らのおかげでお前の術式は守られたぞ?」
「術式ぐらい教えてやるから俺に平穏をくれ」
『それは無理な相談ね。残念だけれど』
康太と文の言葉に倉敷は思い切り落胆していた。これではこれからもこうやって連れまわされてしまうのだろうかと、今更ながら自分の交友関係の狭さを嘆いてしまっていた。




