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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十五話「釣りをするのも大博打」

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いざ釣り餌になりに

康太たちは作戦決行に向けて準備を整えていた。


移動手段に関しての準備は万端。あとは個人の戦闘における準備くらいのものだった。


康太は自分が考えるうえでも移動しながらでも通用する装備を作っていき、文は防御をメインに立ち回るつもりのようだった。


倉敷は装備などの事前準備は必要ないためにとにかく練度を上げるべく日々訓練を続けている。


各々が準備を終え、決行日当日、康太たちは支部に足を運んでいた。


「やぁ、来てくれたね・・・では例のものだ」


支部長は仮面の下で笑みを浮かべながら康太たちに厳重に施錠されたアタッシュケースを渡してくる。


外見上は以前のものと同じだ。重さもほとんど同じように思える。索敵の結果中にビデオテープが入っているのは間違いなかった。


「ふぁ・・・さすがにこの時間だと眠いな・・・」


「仮眠しても限度があるものね・・・もうものすごい早起きと同じよ・・・」


深夜三時などと言っていても実際はほぼ朝のようなものだ。それぞれ仮眠をとっているとはいえ限界がある。


「バズさんは大丈夫ですか?きちんと睡眠はとれましたか?」


「大丈夫だよ。運転手だからばっちり睡眠はとってきた。こういう依頼も少なくないから慣れたものだよ」


早朝での行動だというのに幸彦は全く眠気を感じさせない。康太を始め、文も倉敷もこれほど早く行動を開始するのは珍しいためにまだ体が完全に起きていなかった。


どうしても動きがいつも以上に鈍いように思えてしまう。反応速度もおそらく二割ほど減退していることだろう。


「まぁ学生にこれほど早い行動を強いるのは難しいかもしれないね・・・まぁでもビーに関しては・・・」


幸彦が眠そうな三人にめがけて強い殺気をぶつけると、康太は即座に警戒態勢に、文は康太に触発されるように数瞬遅れて臨戦態勢へと移行し、倉敷は幸彦の様子の変化に気付いて十数秒遅れてから姿勢を正していた。


「へぇ・・・ビーだけかと思ってたけど、ベルもなかなかいい反応をするじゃないか。一緒に行動しているだけあって経験値は多いみたいだね」


「・・・ありがとうございます・・・さすがにビーには劣りますけど」


「十分十分。トゥトゥは少しまだ反応に遅れがあるけれど、それでも変化に気付けるだけましだよ」


幸彦は特に姿勢を変えているわけでも、魔力を高めたわけでもない。ただ殺気をぶつけただけだ。


普通の人間ならほとんど感じ取れないであろうそれを三人は察知の時間の差はあれど確実に感じ取っていた。


良くも悪くも実戦経験が豊富な三人だ、特に康太に関しては幸彦の殺気から小百合のそれに似たものを感じ取っていた。


そのためか、康太は三人の中で一番警戒の度合いが強く、なおかつ幸彦との距離を取ってしまっていた。

無意識からくる行動なのだろうが、小百合に似た殺気を受けるとどうしても距離を取ってしまう。


自らの得意な距離が接近戦であると理解していても、普段の訓練の癖というべきか、小百合と対峙しているときのことを思い出してしまうのである。


「まぁ・・・目は覚めましたね・・・いやな起こし方でしたけど」


「はっはっは、それはすまなかったね。次からはもう少しウィットに富んだ起こし方をするようにするよ」


幸彦は笑っているが、彼が放った殺気を肌で感じた三人は幸彦の戦闘能力の高さを肌で感じていた。


特に幸彦が戦ったところを見ていない文と倉敷はそれを大まかながらに判断できるほどに重く大きな殺気だった。


「あーあ・・・この調子じゃ師匠にどやされるな・・・殺気にビビるなとか・・・」


「あんたの師匠なら言うでしょうね・・・っていうかトゥトゥはよくわかったわね?殺気なんて受け慣れてないでしょうに」


「そりゃわかるっての・・・こいつが戦ってるときにあたりかまわず振りまいてるのと似た感じがしたんだから・・・」


康太と一緒に行動することが多かった倉敷は康太の殺気を肌で感じ取っていた。康太の殺気の中に含まれる僅かな小百合の気配、そして幸彦の中に含まれる小百合の気配を感じ取っているのだ。


同じ血脈で似た殺気を放つというだけあって身近にいた存在にとっては感じ取りやすいのだろう。


「さぁさぁ、お話しはそこまでだ・・・そろそろ開始時間だね・・・準備の方は万端かな?」


「えぇ、問題ありませんよ。一番の戦力は運転手ですけど」


「何を言ってるんだい。今回の一番の戦力はビーだよ。僕はあくまで引率さ」


「・・・こんな豪華な引率が来てくれるなんてね・・・これは情けないところは見せられないわよ?」


「わかってるって。トゥトゥ、お前も頼むぞ」


「オーライ。まぁ危なくないように立ち回るよ」


いつもの調子でため息をつく倉敷を見て康太は苦笑してしまう。そして支部長から受け取ったアタッシュケースを文に渡す。


「それじゃ行きましょう」


囮になる、釣り餌になる。言葉にすればそれだけだが実際にやるとなると命懸けだ。


康太たちは今からいつ狙われてもおかしくない戦いに身を投じるのである。


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