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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十五話「釣りをするのも大博打」

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決行日時

「幸彦さんはなんかいい案ありませんか?移動中での攻撃について」


「んー・・・そうだねぇ・・・やっぱり自分の体を中心に攻撃をしなきゃいけないから、設置型の攻撃はうまくいかないよね。そうなると物質的な攻撃よりも現象系の攻撃のほうが有利ではある」


「はい・・・でも私の攻撃の場合電撃ですから・・・導かないと無差別攻撃に・・・弾丸型だと威力低いし」


「僕は雷属性は専門じゃないから何とも言えないけど・・・射程が限られてもいいのであれば方法がないわけでもないけどね」


そういって幸彦はガレージに置いてあった工具のいくつかを手に取ってその工具のいくつかに電撃を纏わせていく。


「お、幸彦さん雷属性の魔術も使えるんですね」


「専門じゃないからかなり射程距離は落ちるよ。接近戦用に覚えたってだけの話さ・・・こうやって・・・ほら」


幸彦が電撃を纏わせた工具は幸彦のもつ工具を中心に飛翔している。それは文も使える磁力の魔術だった。


「たぶんこれくらいならできるでしょう?問題はその先さ。ここからさらに操っていければかなり射程は伸びる」


「先?飛ばすんですか?」


「いやいや飛ばさない。僕もあんまりやらないからできるかどうか怪しいけど・・・」


そういって幸彦は集中し、工具を操っていく。幸彦の手のもっているドライバーの一メートルほど先にモンキーレンチが、そしてモンキーレンチのさらに一メートルほど先にラジオペンチが、そしてその少しだけ先にラチェットレンチが浮いている。


ラチェットレンチは徐々に遠くへ行こうとしているが、途中で幸彦の制御から離れてしまったのか地面に落ちてしまう。


「あぁ・・・やっぱりダメか・・・僕じゃこれが限界だね」


「今のは磁力で浮かせてたんですか?」


「みたいなものだね。磁石にクリップをたくさんくっつけてるみたいなものさ。僕だと射程三メートル未満が限界だけど、雷属性を得意としてる人ならそれこそ百メートルくらいまで伸ばせると思うよ?その分制御が大変だけどね」


そういって幸彦は工具に宿らせていた磁力を解除して大きくため息をつく。普段使わない魔術を使って疲れたのか、わずかに汗をにじませていた。


文は落ちた工具に磁力を纏わせ、さっそく練習を始めていた。


自分の体を中心に飛翔する工具たち。これは文が防御手段として使う使用法だ。問題はここから先。

文は工具の一つを手に取ってその先に工具を固定しようとする。


移動自体は簡単にできる。そしてその先にもう一つ、さらに先にもう一つと工具を固定していく。


「うわぁ・・・あっさりこなしていくなぁ・・・僕あれができるようになるまで結構かかったんだよ?なんかすごく複雑な気分だよ・・・」


「あはは・・・文は雷属性が得意ですからね・・・磁力とかはよく使ってますし、慣れてるのかもしれませんよ?」


「うぅん・・・やっぱり適性がある人がやると違うなぁ・・・」


幸彦はどうやら雷属性の適性はあまりないようだ。電撃を一応使えるには使えるが、それは近接戦闘で有利になるからという理由でしかない。


本職というべき文の操り方とは根本的に違うのかもわからない。


何せもうすでに工具を先に延ばしていき、ガレージの幅を使い切りすでに折り返しているのだから。


「才能が違うってことかなぁ・・・この光景は軽く心が折れるよ」


「まぁまぁ、文はもともとエリート気質ですから・・・でも幸彦さんが磁力の魔術を使うっていうのはちょっと意外でしたね」


「うん、地味に便利なんだよね。相手を引き寄せたり、近くで攻撃してるときに同時に攻撃したり、できることが多いんだよ」


「確かに・・・あいつも前に砂鉄を操って攻撃したりしてましたしね」


「そんな微細なコントロールは僕には無理だよ・・・砂鉄を操るって相当面倒だよ?あの工具レベルで僕は精いっぱいだね」


どうやら文がやっていた行動はかなり高レベルの魔術行使であったらしい。もともと文は才能に恵まれ努力も惜しまないタイプではあるが、同じ属性の魔術を使う人間からすれば明らかにおかしいレベルでの魔術行使を行っているらしい。


「これいいわね・・・鞭みたいに使えるし、何より楽だし・・・変幻自在・・・残弾を気にしなくていいのはいいわ・・・幸彦さん、ありがとうございます。これで攻撃手段が増えました」


「あ、あはは。楽・・・か・・・そっか、そりゃよかったよ」


「はい、ありがとうございます」


悪意はないのはわかっているのだが、幸彦からすると心が折れそうになってしまっているのは言うまでもない。


向き不向きがあるとはいえ、自分が苦労して覚え、今でも扱いきれない魔術を教えてすぐに実践できるというのはなかなかに心に負担をかけているのだろう。


もともと文が磁力の魔術を得意としているという前提を知っていても、やはり年下の魔術師にこうも簡単に習得されるというのはつらいらしい。


「鐘子も結構危ない性格してるよな・・・最近こいつ攻撃のことばっか考えてるし」


「それは言わぬが花という奴だよ。こうやっていつの間にか武闘派の道に足を踏み入れているのさ・・・ふふふふふ」


「・・・なんかお前が悪の親玉みたいに見えてきたわ・・・」


いつの間にか武闘派の考えを持ち始めている文と、それを良しとしている康太を見て倉敷は眉をひそめてしまっていた。













康太たちは後日、支部長のもとに集められていた。


本部が連動して行う依頼ということもあってあらかじめある程度打ち合わせが必須であるのは理解している。


今回康太たちが担当するのは日本国内での移動とはいえ、戦闘が予想される以上、支部長としてもいろいろと気がかりなことがあるのだろう。


「さて・・・今回のことに関してなんだけど・・・本部からの通達があったよ。作戦決行は三日後、日本時間の深夜っていうか早朝三時、この時間から移動を開始してもらうことになる」


「三日後ですか・・・今回は本部での合同の打ち合わせは必要ないんですか?」


「今回はやらないようだね・・・というかやることができないといったほうが正確かな。情報を意図的に流そうとしてることもあって、大々的に動くのが難しいみたいだね」


どの情報をどの方面に流すのか、そしてどれだけの情報を与えるのかを本部の方で統括しているため、余計な情報を他者に与えるような真似は控えたいらしい。


本部で大々的に会議を行えば、当然誰かしらの耳には入るだろう。盗聴されないとも限らないため、今回はあえて支部長を介した書面のみでの情報伝達に限るらしい。


徹底しているというべきか、前回同じようなことをしても尻尾を掴めなかったから今回はそれなりに本気なのか、情報統制という意味では随分と慎重になっているようだった。


「あくまで各支部、あるいは特定の支部だけに指示してるって形にしたいわけですね・・・前回おびき出すためにやってるって言っても・・・今回は何のために呪いのビデオを移送するってことになってるんですか?」


「ん・・・名目上はビデオの解析をするためってことになってるよ。ビデオを物理的・・・いや、科学的に分析して・・・って話。機材がある場所が限られてるからその場所へってことだね」


「なるほど・・・解析か・・・科学的に解析してそれを再現できるようにするとかそういう話ですよね?」


「まぁそういうこと。もっとも科学的に解析してそれを魔術に応用できるかどうかは定かじゃないし、単純な物理的解析だから動かす必要があるかって言われると微妙だけどね」


あくまで今回の目的は移送中に敵をおびき出すことだ。そういう設定であるというだけであって康太たちが気にすることではない。


二度目ということで相手が引っ掛かってくれるかはわからないが、相手が本気で呪いのビデオを欲しがっているというのならこの機を逃す手はないだろう。


「本部に直接呪いのビデオを奪いに行かないってことは、相手の得ている情報は支部レベルってことですかね?」


「そこが判断しかねるところさ・・・どの程度の情報を得ているのかはわからないからそれを把握するのも今回の目的の一つ・・・ただ最初、本部がビデオを回収しに行ったときにも襲撃を受けているから・・・」


「相手がどの程度の情報収集能力を持っているかが不透明ってことですね・・・本部はどういう考えでいるんですか?本部の人間が怪しいのか、それとも支部の人間が怪しいのか」


「どちらも視野に入れているようだったね。協会内部にいるってことを前提にしているからそのあたりをはっきりさせる思惑もあるらしい。前回のことで結構いろんな支部から人間が集まっているのを確認しているから・・・」


「本部もその気になったと・・・本部の人間だけで片づけてくれれば楽なんですけど・・・」


「そこはほら、現地をよく知っている人間に頼むのが自然だろう?他国なんて行ったことがない人間からすれば異世界みたいなものなんだから」


「俺らも行ったことがない場所結構あるんですけどね・・・しかも地道に移動となるとわからないところもたくさんありますよ?」


「大丈夫大丈夫、大抵の車にはカーナビ付いてるから。行ったことがない場所でも案内はしてくれるよ。今はスマホもあるから迷う心配はまずない」


幸彦としては運転に関して別に気にすることはないのだろう。今までの経験からか、それとももとより行ったことのない場所に行くのは嫌いではないのか、どちらにせよなかなか堂々としている。


この辺りはさすがというべきだろうか。


「ところで、結局俺らは本物を渡されるんですか?」


「そこは不明だね。僕にもその情報は降りてきていない。たぶんだけど本物は渡ることはないんじゃないかと思うけどね・・・前回みたいにビデオそのものの性質調査はやらないわけだしさ」


前回のようにビデオの性能や特徴を調べる必要がないため、手元に本物を置いておく必要性もない。


そしてビデオのやり取りをするうえで不審に思われないように康太たちが持ち続けていたが、今回は本部の方からビデオを渡されるのだ。


その渡されるビデオは本部が選べるため、本物を渡さなくとも何とかなってしまうのである。

問題はそれを相手が信じるかどうかというところだが。


「というか支部長、今回移動中に戦闘が起きた場合、監視カメラとかに映る可能性もありますよね?」


「そうだね。特に高速を使うルートも入っているからそのあたりは注意が必要になるだろうね」


「・・・一応アリスに声をかけておくべきかなぁ・・・ベルも光の魔術は使えるけど・・・監視カメラを欺くことってできるか?」


「あらかじめ監視カメラの場所がわかっていればね。しかも止まってたらまだいいけど動きっぱなしじゃ辛いわよ?」


文も光属性の魔術は使えるには使えるが、アリスほどの練度で隠匿ができるわけではない。


本格的に移動しながらの戦闘を考えるならアリスの協力が必要になるかもわからなかった。


「でも実際どうなんだい?アリシア・メリノスはこういうことにも協力してくれるのかい?」


「微妙なところですね・・・最近ちょっといろいろと連れまわしちゃってますし・・・何よりあいつ気分屋ですし」


「・・・んー・・・隠匿に関しては完璧にしてほしいところだけど・・・相手が魔術がばれても構わないって考えて行動してたら厄介だしなぁ・・・」


「私の魔術なら、暗くすることはできますよ?ビーは周りが暗くても普通に戦えますからそれでも良ければ・・・」


「平常時ならそれでもいいけどさ、移動しながらだろ?さすがに事故る可能性があるからなぁ・・・」


通常の戦闘ならば康太は真っ暗だろうと行動可能だ。索敵を使ったり気配を読んだりしてそれなりに行動できる。


だがバイクに乗って移動しながらとなると話が変わってくる。さすがに移動しながら戦うとなると周りの状態に気を回せるかは微妙である。


「高速道路とか一般道の監視カメラって大体どのあたりにあるんですかね?」


「んー・・・定点的としか言いようがないね。ただそこまで気にすることもないと思うよ?あまりに速く走りすぎると目をつけられるけど、それ以外なら大抵は大丈夫だよ。危険運転とかすると危ないけど。それとドライブレコーダーなんかも注意だね」


「ドラレコですか・・・そっか、普通の一般車にもカメラはついてるのか」


「そうそう。だから一般車が来たらそのあたりにも注意は必要だね。時間が時間だから少ないとは思うけどいないわけじゃないから」


最近は一般車両にもドライブレコーダーという運転者の視点で映像を撮影できるカメラを搭載しているものが多い。


事故の際の証拠として取り上げられることも多いため、搭載しておくと何かと便利になっているのだ。


以前京都に行った時は田舎道を通っていたためにそういったことを気にする必要はなかったのだが、今回はかなり都会の部分を通るルートになっている。


これで一般人のドライブレコーダーに戦闘シーンなどが映った日には確実にそれがネットに流れることになるだろう。


移動しながらの戦いもなかなか制約が多いのだなと康太は辟易してしまっていた。いっそのこと受け渡し先で待ち構えていてくれたほうが楽なのではないかと思えてしまう。


「一度乗り物を捨てて戦うってことも視野に入れたほうがいいかもね。そのほうが戦いやすいだろう?」


「そうですね・・・戦力的な意味でもバズさんが戦えるようになるのは大きいですし、何より攻撃もフォローも楽になります」


「そのあたりは任せるよ・・・とにかくこちらはビデオを奪われないようにしてくれれば問題ない。本部からも念を押されたよ。ビデオを奪われないようにって」


「それが偽物でもですか」


「偽物を使っていることがばれたら、それはつまりおびき寄せるために使っていた、あるいは奪おうとしている人間を警戒しているということがばれるということだからね。本部からすればそれは好ましくないんだろう」


どちらにせよ奪われないように立ち回らなければいけないのだなと康太は小さくため息をつく。


何かを守りながらの戦いはあまり好きではないのだが、こればかりは致し方がない。


本部の考えも理解できるために康太たちで勝手に判断して勝手な行動をするわけにもいかないのだ。


あくまで今回は襲ってくる相手の捕縛がメインの目的である。そのための装備も準備してきている。

あとは相手がどのタイミングでやってくるかということだ。


もっとも康太たちのところには来ない可能性もあるのだが、そこは今考えても仕方がないところである。


「ちなみに支部長、他の支部の人間も一斉に動き出すんですよね?」


「そうだよ」


「時差的に、俺らは夜っていうかほぼ朝ですけどほかの支部の場合昼間とかにもなるわけですよね?それって大丈夫なんですか?」


康太たちの行動開始は深夜三時でも、他の国ではその分時差が発生している。そのため活動時間が昼間ということもあり得るのだ。


日本の深夜三時というと、大体イギリスの方では夜の十八時から十九時頃である。アメリカなどではさらに遅く、完全に昼間の活動ということになる。


日本の方を朝方にしたのはおそらくイギリスの時間をベースに作戦を練ったからだと思われる。


まだ日が昇ってない時間からの活動はかなりつらいところではあるが、相手からすればそんなことは知ったことではないのだ。


「そのあたりは本部の決定だからね・・・ずらせばその分情報が出てしまう可能性があるから一斉にやりたかったんだよ・・・こればかりは仕方がないね」


時間をずらせばその分相手に情報を与えることになってしまう。ある程度は我慢して行動してもらうほかない。


逆に言えば昼間に行動する地区に関しては襲撃の可能性が低くなるということでもある。


日本からイギリスまでの諸外国がメインでの作戦と言えなくもなかった。


「一部の支部からは嫌だって声も上がってるみたいでね、まぁ昼間の支部に関しては本当に不憫としか言いようがないよ」


「まだ俺らは明け方だったから良しとしますか・・・いや明け方でもきついですけど」


早朝ともなればすでに活動を始めている者も多くいる。そんな中で運搬しなければいけないのだ、当然魔術の情報漏洩の危険は付きまとう。


普通の夜に活動できる本部の人間がうらやましくて仕方がなかった。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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