人の噂も
「へぇ・・・ここがお前たちの拠点か・・・なんか普通の家って感じがするな」
「そりゃ普通の家だからな。魔術師の拠点らしいものって言ったら装備程度しか置いてないし・・・まぁゆっくりしていってくれ。幸彦さんもどうぞ上がってください。何もない家ですが」
「それじゃあお邪魔します。それにしてもいい家をもらったね。姉さんもちょっとは気を遣ったということかな?」
「奏さんには感謝しかありませんよ。今お茶ご用意しますね」
康太と文は幸彦と倉敷を自分たちの拠点に招いていた。これから受ける依頼における各役割と、それぞれの移動手段について確認しておきたかったのである。
一階にあるガレージに康太と文のバイク、そして倉敷の原付を置いてある。幸彦が当日もってくるトラックにどのバイクを載せるのか考えるという意味もあり、当日の武装をどれにするかという相談のためにここにやってきたのである。
「それにしても、なかなか生活感が出てきたじゃないか。引っ越してあんまり時間も経ってないんだろう?」
「実際は引っ越したわけじゃないですけどね・・・新しく家具を買ったってだけです。それにここにずっと住むわけでもないので、食材関係は最低限のものしかありませんよ」
「でもいいよな、お前いわば高校生の身分で家持だろ?うらやましいわ」
「ほぼ借家みたいなものよ。この家を持ってるのは奏さん・・・こいつの師匠の兄弟子なんだから。私たちはその人に助けてもらってるだけ」
「それでも自由にできる拠点があるっていうのはでかいぜ・・・俺なんか拠点なんて一つもないぞ?エアリスさんのところに仮拠点みたいなものは置かせてもらってるけどさ・・・」
精霊術師の倉敷からすれば、こうやって拠点があるのはひどくうらやましく思えるらしい。もっとも精霊術師でなくともうらやむ状況かもないが。
「はい、粗茶ですが」
「ありがとう。なかなかどうしていい家じゃないか。僕の拠点とは大違いだよ」
「そういえば幸彦さんの拠点って見たことありませんけど、どこなんですか?」
「ん?僕の拠点は大したことはないよ、ちょっとした倉庫を借りているだけさ。必要なものがないせいで小さくても済んでしまうからね」
もともと幸彦はそこまで武器の類を必要としない。体一つあればいいような魔術の発動方式をとっているため、大きな倉庫などは必要としないのだ。
協会の手伝いをするというあたりでも基本的には自分の体だけが必要で、ほかの物は必要ない。康太のように武器を必要としないために装備というものがそもそも要らないので広い敷地も収納空間も必要ないのだ。
「ぶっちゃけ自分の家でもいいんじゃないかって思うくらいだよ。でも私生活と魔術師との生活ははっきりしておいたほうがいいからね」
「へぇ・・・ちなみに幸彦さんってどんな家に住んでるんですか?」
「僕はマンションだよ。あまり大きくないしきれいでもないし・・・そもそも一人暮らしだから何とも言えないんだけどね」
「一人暮らしですか・・・ご結婚とかは・・・?」
「これがさっぱり。いい人に巡り合えなくてさ・・・僕としては婚活しなきゃとは思ってるんだけど・・・やっぱり忙しくて・・・」
幸彦としては結婚したいという欲はあるのだろう。だが忙しさのせいで婚活もできず、またいい人にも巡り合えていないらしい。
最近親からそういう話ばっかり持ってこられていい加減鬱陶しくなってきたんだよねとつぶやく幸彦に、康太と文は目を丸くしていた。
「幸彦さんのご家族って一般人なんですか?」
「いや?二人とも魔術師だよ。師匠の知り合いでね。そういう筋で僕は師匠のところに弟子入りしたのさ・・・とはいえ、魔術師同士の結婚って結構難しくてさ・・・会う機会がほとんどないし・・・」
「協会に女性の魔術師でよさそうな人いないんですか?良く協会で活動されてますし・・・そういう人くらいいるような・・・」
「なかなかね・・・女性の魔術師はそれなりにいるけど、身近にいるかって言われると微妙なんだよね・・・康太君だって身近な女性の魔術師って言ったら身内くらいしかいないでしょ?そういうことだよ」
そういえばと康太は自分の周りの魔術師を思い浮かべる。
今更ながら知り合いの魔術師はほとんど男なのだ。小百合や真理、奏や智代、文や春奈を含め身内といってもいい存在ならば女性は多くいるが、協会の中で女性の魔術師というと受付を担当している魔術師くらいしか見たことがない。
武器の手配をしてくれている魔術師、協会で人事を担当している魔術師、死体を管理している魔術師、いろいろと出会ってきたが女性の魔術師というのは康太の周りにはほとんどいないのだ。
「荒事を中心にしているとどうしても女性との付き合いが薄くなってしまっていけないね・・・僕の場合は荒事よりも調整の方が多いけど、それでも現場職だから女性は少ないんだよね」
「女性の魔術師は主にどういう場所で活動しているんですか?」
「僕の私見だけど、研究職に就いている人が多いかな。だから僕らとはほとんど会わないんだよね・・・基本自分の拠点で研究か、協会の専用の部屋で実験してるから」
「なるほど・・・そりゃ会わないわけだ・・・」
康太も幸彦も基本的には現場に出て行って仕事をするタイプの魔術師で、どこかの部屋に引きこもるというのは調べごとのときくらいだ。
そのため女性の魔術師と出会うことはほとんどないのである。康太が文に出会えたのは非常に幸運だったのかもわからない。
「そんなに出会いにくいですかね?俺結構女性の魔術師知ってますよ?」
文に出された茶を飲みながら倉敷はさも当然のように言ってのける。その言葉の意味を一瞬考えてしまった康太は文と目を合わせた後驚愕の表情を作っていた。
「え?は!?なんでお前が?」
「なんでって・・・エアリスさんの手伝いで実験の手伝いとか資料の作成とかしてるからだよ・・・精霊術師ってことで最初はあんまりかかわらなかったけど、術式調べてたりしてるうちに仲良くなってさ」
「うわぁ・・・お前いつの間にそんなパイプ作ってたんだよ・・・!文は知ってたか?」
「まぁ、師匠の手伝いで結構協会に行くしね・・・こいつ水属性の術はすごい上手いじゃない?だから結構役に立つのよ」
実験などの手伝いで協会に足を運ぶことが多いエアリスの手伝いで、倉敷や文は割と頻繁に協会の中でも行動しているようだった。
とはいえそこまで活動的な内容ではなく、雑務がメインであり、最近は文が忙しい時には倉敷がつきっきりで手伝っているような状況が続いているのだとか。
どちらにせよ、倉敷が自分たち以外の魔術師とつながりを持っているのは康太にとってかなり驚きの事実だった。
「ていうか前から気になってたんだけどさ、文以外の女性魔術師ってどんな感じなんだ?俺普通の女性魔術師ってほとんど関わったことがないからわからないんだよ」
「どんな感じって・・・普通だぞ?普通の魔術師」
「いやだからその普通がわからないんだって。そもそも俺の周り普通の魔術師が基本いないんだからさ。特に女の魔術師は姉さん以外みんな普通じゃないし」
「ちょっと待ちなさい、それだと私も普通じゃないみたいになってない?」
「え?文は普通じゃないだろ?」
「何それ喧嘩売ってんの?私は普通よ。普通の魔術師よ」
「いや鐘子・・・ぶっちゃけお前も普通じゃないぞ?協会の中では思いっきり武闘派魔術師として見られてるし、普通ではないぞ?いろんな人から話聞く限り」
「・・・え・・・?そうなの・・・?」
康太が武闘派で普通の魔術師ではないという認識なのは文としても同意だったのだが、いつの間にか自分も普通ではない武闘派魔術師だとみられているという事実に文は驚愕の表情を作っていた。
「やったな文、扱いは俺と同様だ!」
「あんたと同様になったらおしまいよ。あんた封印指定とほぼ同等の扱い受けてるでしょうが。でも良くも悪くも類友扱いされてる可能性はあるわね・・・」
「それに関しては俺も思った・・・お前らと一緒に行動してるからか精霊術師の中でもかなり武闘派ってイメージがついちゃってるんだけどどういうことよ。とんだ風評被害だよ」
「いいじゃんか、なめられるよりは」
「ふざけんな。お前らと行動してるってわかった瞬間に相手の態度が一気に変わるんだぞ。お前らの存在の強さにビビるわ」
康太たちの名前を出しただけでそこまで態度が急変するというのは康太と文としても少し予想外だった。
やはり康太と文の術師名は協会の中でもかなり広がっているのだろう。
この一年で悪名を轟かせたという意味では今までの活動は決して無駄ではなかったということである。
それが良いことなのかどうかはさておいて。
「ちょっと待って倉敷、私って協会内ではどういう扱いなの?康太がひどい評判なのはいいとして私はまだまともなんじゃないの?」
「おい、俺のはいいのかよ」
「いや、お前のも結構ひどいはひどいぞ?こいつと一緒に行動してるってこともあって武闘派なのは確定的。で、たまにこいつ以上に厄介みたいな意見も聞く。こいつを飼いならしてる的な、こいつを裏で操ってるのはお前だ的な」
「何その黒幕感。やったな文、なんかいつの間にか格が上がってるぞ」
「いや、格下がってるでしょ、悪役じゃないの・・・いつそんなことを私が・・・」
そんなことを考えて文は何回かその話に沿うような行動をしていたことを思い出す。
万が一の時は自分が康太を止めなければいけないという考えに加え、康太ではなく自分が会話していた時に康太に少々命令口調で指示していたことを思い出し、文はあれが原因かと額に手を当ててため息をついていた。
「いや・・・確かにそれっぽくふるまったけどさ・・・でもそれだけよ?それだけで・・・?」
「噂なんてそんなもんだろ。まぁいいんじゃねえの?良くも悪くも手を出しにくいコンビになってるわけだしさ。下手にちょっかい出されるよりずっとましだろ」
「それは・・・そうだけど・・・なんか腑に落ちないわ・・・」
やたらと攻撃されるよりは恐れられていたほうが楽ではあるのだが、自分の知らないところで自分の悪評が広まっているというのは文としてはあまり容認したくないことでもあった。
というか康太と同列に扱われているというのが不満なのである。
「支部の中でも有数の危険人物と同列って・・・私の活動内容をちょっと平和なものに変えたほうがいいのかしら・・・?」
「こいつと一緒にいる限り無理だろ。こいついつも面倒に巻き込まれるんだから」
「おいおいそんな褒めんなよ」
「褒めてねえよ」
倉敷の鋭い突っ込みに文は苦笑いするほかなかった。去年の自分はこんな風になるとは夢にも思っていなかっただろうなと、かつての自分に今のこの状況を教えてやりたいと考えながら、文は大きくため息をつく。
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




