距離感とコツ
「そういえば、康太君は以前京都に行った時に移動戦を少し経験していましたね」
「はい、一応は・・・といってもほとんど姉さんが片づけて、俺はトラックの周りのをばらしてただけですけど」
京都に向かった際に、京都の魔術師に襲撃を受けたことは康太も覚えている。あの時トラックから颯爽と出て行った真理の姿に感動したものだ。
いつかあのようになりたいと妄想していたのは内緒である。
「分解の魔術があれば、基本的に機械に対してはほぼ無敵に近いでしょう。康太君は物理解析の魔術も持っていましたよね?それを併用すれば分解できないものはないに等しいと思います」
「はい・・・そうなんですけど・・・移動しながらだと分解が発動しにくい感じがあるんですよね・・・なんていうか・・・思った通りにばらせないというか」
以前京都で移動戦を行った時、康太はその感覚を覚えていた。
バラバラにするつもりだったのにパーツ一つしか分解できなかったりということがあったのだ。
移動しながらで座標が変わり続けているのが原因なのだが、康太はそのあたりを理解しながらもうまく改善できずにいた。
「あぁ、そういえば康太君は定点発動型の魔術があまり得意ではありませんでしたね・・・確か遠隔動作もちょっと苦労してましたね」
「はい・・・距離感というか、まっさらな空間に自分の攻撃とか分解を当てるのが難しいというか・・・分解の場合は何となくあれをばらしたいって思うと勝手に発動するんですけど・・・」
「なるほど、そういうことでしたか。師匠はそういうことを全く教えていませんでしたからね・・・いつも自分でコツを掴めの一点張りで・・・これもいい機会です、少し定点発動型魔術の癖について教えておきましょうか」
真理はそういって棚の上に置いてあったプラモデルを一つ机の上に置く。康太も何度も分解してきたプラモの一つだ。
康太や小百合が作ったプラモはいつでも練習用として棚の中に置いてある。分解されるために置いてあるのが何とも本来の意味を見失っている気がするが、今は置いておくことにする。
「康太君は遠隔動作の魔術は苦労していたのに、初めて覚えた分解の魔術は特に苦労なく発動できていましたよね?この違いは何だと思いますか?」
「・・・えっと・・・発動できる対象が限定されていることだと思います」
「その通り。遠隔動作は自分の動作を任意の場所に発動するのに対し、分解の魔術は特定のものが存在している座標に発動します。つまり発動の処理の方法が微妙に違うのです」
「処理・・・ですか」
「はい。分解の魔術は術者が認識すれば、距離やその力のかかり具合など、ほとんどが自動的に脳が処理します。これはどんな形で分解するのかを術者本人がイメージすることで処理が効率化されます。構造を理解していると消費が減るのはこのためですね」
康太は最初、小百合から分解の魔術を教わった時に自分で作ったプラモを自分で分解させられた。
これは自分で作ることによってそのプラモがどのような構造をしているかを理解させるために必要な工程だった。それは小百合本人からも聞いたことだ。
今は物理解析の魔術があるため、目に見える物体の構造を理解できるが、今にして思えば最初の頃の小百合はだいぶ気を遣って物事を教えていたのだなと思ってしまう。途中から大分適当になってきたのは康太の扱いに慣れてきたからだろうか。
「その時に距離の処理も一緒にやってくれるんですか?」
「最低限の処理はやってくれるでしょう。ただ遠隔動作の魔術は発動による念動力のかけ方の処理はできても距離の処理はすべて自分でやらなければいけません。康太君がつまずいたのはそこが原因だと思います」
「なるほど・・・つまり俺は距離感があんまりないということですか?」
「いえ、距離感がないというよりはコツがつかめていなかったというべきでしょう。本当であれば少々面倒ですがいい方法があるんですよ。例えばそうですね・・・康太君はあそこにあるコップを取ろうとしたらどのようにイメージしますか?」
真理は台所に置いてあるコップを指さす。康太は自分の中で遠隔動作のイメージを組み上げていく。
康太のイメージは発動したい場所に自分の体をイメージすることだった。半透明な自分の体の一部をイメージして発動するそれを使って、康太は台所のコップを持ち上げる。
「その場所に体の一部をイメージする感じですね・・・そのほうがわかりやすくて」
「いい方法ですね。それは誰かから教わって?」
「いえ、自分で考えました。どうしてもその場所にっていうのが思いつかなかったので、頭の中で体の一部をイメージするようにしてます。再現の魔術でも似たようなことはしてましたからね」
康太は再現の魔術を使って体の一部をイメージしてその発動方向などを変えている。その延長線として遠隔動作を使っているのである。
「ですが自分の体をイメージすると発動はしやすいですが、良くも悪くも距離はつかみにくくなってしまいますよね。自分の腕が遠くにあるようなことはありませんから」
「そうなんですよ・・・それで苦労してたんです」
「その場合は動かしたいもの、あるいは対象物の大きさをイメージするといいですよ。人なら二メートルを超えるほどの大きさの方は珍しいですし、コップならある程度のイメージはできます。そうやって自分の手のイメージを物体から算出するんです」
「なるほど・・・そういう方法があったのか」
今まで自分の手のイメージに専念していた康太からすれば目からうろこが出る発想だった。逆に言えばこんなことも師匠である小百合から教わっていなかったのかと文句の一つも言いたくなるが、小百合は基本放任主義だ。自分のやりやすいようにやらせるのが小百合の方針であるために仕方がない部分もあるのだが。




