移動のアドバイス
「というわけでバイクで戦闘することになりそうなんですけど、なんかコツとかないですかね姉さん」
「また難しいことを簡単に聞きますね・・・うーん・・・何と言えばいいのか・・・」
バイクで戦闘を行う可能性が高いということで、以前バイクで華麗に戦闘を行っていた真理に何か助言をもらえないかと、康太はさっそく真理にアドバイスをもらいにやってきていた。
ちょうど就職活動の合間なのか、所謂履歴書を書いている真理を見かけてちょうどよく声をかけたのである。
「バイクの操作自体は、自分でやる必要はありません。魔術や・・・康太君の場合はウィルに代わってもらうのも手です。両手をフリーにできればかなり有利にはなりますが、最低限の体重移動はできないとですね・・・康太君はそのあたりは問題ないかと思いますが」
「そうですね、バイクは基本的に運転しやすいです」
空中で移動することの多い康太は自分の重心がいったいどこにあるのか、またどのように動けば体がどのように動くのか、康太は嫌というほど理解していた。
空中で動くことに比べればバイクの運転など難しくはない。
「詳細はさておいて、バイクで戦闘する可能性があるということは当然相手もある程度の移動手段を有しているということですね?」
「たぶん・・・それが魔術的なものなのか機械的なものなのかはわかりませんけど」
相手は移動手段を有していると考えたほうがいい。ただそれが車やバイクなのか、魔術による高速移動なのかはわからない。
だがこちらが移動し続ける限り必ず相手も移動し続けることになる。受け渡しの場所で待ち伏せしてくれるのであればこちらも受け渡しの相手を含め戦力を増やした状態で立ち向かえるためありがたいのだが、そううまくはいかないだろうと考えていた。
「十分です。そういった相手を倒す場合、必ずしも魔術によって相手を倒す必要はありません。ちょっとバランスを崩してどこかにぶつけてしまえばいいだけの話です」
「事故らせるってことですか」
「有り体に言えばそういうことです。急加速、急減速、バイクの場合であればハンドルを少し引いてしまうだけでその体は簡単に宙に投げ出されます。そうすれば相手は追跡が困難になります。戦闘不能にしなくても相手を倒す手段はあるということですね」
小百合ならばバイクごと斬ってしまえばいいだろうというあってないようなアドバイスをしてきただろう。
こういう安全かつ確実な提案をできるあたりさすがは真理だと思うべきだろうか。
「ですが気をつけてください、今私が言った方法はそのまま康太君自身にも返ってくるのです。まぁ、いきなり転倒させられても康太君なら反応できるとは思いますが・・・万が一ということもありますから。それに移動戦で足を失うのはかなり痛手ですよ?」
真理の言うように康太ならばいきなり空中に投げ出されたとしても即座に立て直すことは可能だ。
受け身を取るまでもなく、空中で立て直し、即座に反撃だってできるだろう。
問題は移動手段を失った後の話である。
「一定時間であれば高速移動する手段がないわけでもないんですけど・・・そうすると魔力を一気に消費するんですよね」
「相手がどれほど出てくるかもわからない状態で移動手段のみに魔力を消費し続けるのは得策とは言えませんね・・・とはいえ、移動しながらの戦闘は可能な限り避けたいのですよ。相手としてもこちらとしても」
「では、陣地に到着するときに狙い撃ちされる可能性が高いと?」
「私ならそうします。特に荷物を下ろすときですね。迎撃態勢もとれておらず、もう少しで仕事が終わるという油断、どちらも狙うにはちょうどいいです」
真理は戦闘経験が豊富であるが、その戦闘能力の高さはあまり知られていない。戦いにおける効率を優先するタイプであるために無駄な戦闘を極力省く目的で、こういった奇襲や対策というものを練ることが多かったのだろう。
ポンポンと自分とは違う考えが浮かんでくることに康太は尊敬の念を強めていた。
「じゃあ移動中に襲うメリットってほとんどないんですか?」
「いいえ、移動中に襲うメリットももちろんあるんですよ?移動中はどうしても索敵が疎かになってしまうんです。電車の中などで索敵を使ってみるとわかりますが、一緒に移動している電車の索敵はしっかりできても、高速で通り過ぎる周りの地形は情報として入りにくいのです」
「なるほど・・・奇襲自体はしやすいと」
「そういうことです。特にすれ違いながら攻撃というのが一番わかりやすいでしょうか。索敵範囲外から一気に近づいての攻撃、一撃必殺を狙うのであればこれが手っ取り早いですね」
魔術師の索敵にも限界がある。索敵を得意としている文でさえ数百メートルが限界なのだ。車などで移動していた時、数百メートルという距離は数秒もあれば通り過ぎてしまう。しかも相手が逆方向に進んでいればさらに時間はかからないだろう。
その一瞬で相手を判別し攻撃する、それだけの攻撃精度があれば移動中の奇襲はほぼ確実に成功するといっていい。
「なるほど・・・相手がこちらの何かを奪いたいと思っていた場合は、それは成り立ちますか?」
「・・・私ならやりません。奇襲によって事故が起き、その物品が破損する可能性が大きいです。私ならまず護衛役の排除、方法は・・・物品にもよりますが奇襲なりなんなりですね。その後移動手段を事故を起こさないように破壊したうえで、物品の奪取」
「その後逃走・・・ですか」
「安全策を取ればの話です。相手が考えなしに攻撃してくる可能性もあるので気を抜いてはいけませんよ?」
移動しながらの戦闘というのはどうしても考えることが多くなる。物を守りながらであればなおさらの話だ。




