かつての姿と
「ということでお話を伺いに来ました」
「唐突にやってきたと思えば・・・行動が早いところはあいつに似ているというべきか・・・妙なところばかり似るな・・・」
「褒められてるのか貶されてるのか微妙ですね」
「・・・あまり褒めているつもりはないよ。あいつに似るということがどういうことなのかは君もよく知るところだろう」
康太が次にやってきたのは文の師匠である春奈のところだった。
おそらく康太が知る中で、奏や幸彦の次に小百合との付き合いが長い人間だ。修業時代からずっと一緒に行動してきたと思われる彼女に話を聞きたかったのである。
彼女ならば小百合の言葉の真意を理解できていると思い、なおかつ彼女自身も何か思うところがあるのではないかと思ったからこその行動だった。
「・・・なるほど・・・一般人との違い・・・か」
「はい。俺自身そこまで一般人との違いがあるとは思えなくて・・・魔術師としての技術はそりゃありますけど、魔術がなければそこまで違いなんてないですし・・・」
「つまり、君が今魔術の知識全ての記憶を失ったら一般人と同じなんじゃないかと、そういうことか?」
「はい。ぶっちゃけ俺はそう思ってます」
魔術に関する記憶すべてを失えばどうなるか。魔力の練り方を忘れ、術式の構成の仕方を忘れ、積み上げてきた戦闘技術のすべてを忘れ、康太は一般人と変わらない生活に戻ることになるだろう。
そんなことが本当にできればの話だが。
「・・・なるほどな・・・あいつの言いたいことが少しわかった気がするよ・・・康太君、君が考えているほど、君の体に染みついたものは軽くないんだ。記憶をなくした程度では・・・君が君でなくなる程度では、君の体が覚えた技術は失われてくれない」
「・・・それはさすがに言い過ぎでは・・・?さすがに記憶をなくしたら難しいと思いますけど・・・?」
「・・・口で言ってもわからないか・・・よろしい、もとより君たちは実体験に基づいて行動するタイプだったな」
春奈はデスクワークを一度切り上げてゆっくりと立ち上がる。その瞬間、そこにいるのが春奈ではなく、魔術師エアリス・ロゥであると康太は即座に判断していた。
「どうした?随分と警戒しているな」
「そりゃ・・・しますよ・・・そんな風にされたら」
先ほどまでの話すだけの態度とは全く異なる。威圧感が違う、目が違う、声音が違う、何より肌に突き刺さるような殺気が康太に警戒を呼び掛けていた。
小百合のような、鋭い刃物のようなそれとは違う。深く深く、じわじわと削り穿たれるかのような重い殺気だった。
康太がわずかに冷や汗すらかき始めている中、春奈は小さくため息をついて再び椅子に座り込む。
その瞬間、先ほどまでの緊迫した雰囲気は一気に霧散していた。
「・・・わかっただろう?君はもう魔術なしでも魔術師なのだよ」
「・・・どういうことですか?今のどこでそんなことを?」
頬を伝う冷や汗をぬぐいながら康太は不可解だと言わんばかりに眉を顰める。ただ立ち上がり、殺気をぶつけられた。はっきり言ってそれだけだったのだが、春奈にとってはそれでも十分すぎたらしい。
魔術がなくとも魔術師である。なんとも矛盾した言葉だ。いや、どこかおかしい言葉というべきだろうか。
その言葉の真意がわからずに康太は疑問符を飛ばしてしまう。
「普通の人間は殺気なんぞ感じ取ることはできない。君はそれを確実に感じ取った。しかも私がそうしたとたんに・・・察知能力の高さはさすがというべきか・・・いや、それすらも訓練で得たものであることを考えると、よくぞそこまで研ぎ澄ましたというべきか・・・」
春奈としては、康太がここまで察知能力が高くなっていることは喜ばしくもあり、同時に複雑でもあるようだった。
春奈が康太と初めて出会った時の印象は『一般人に毛が生えた程度の魔術師』という印象だった。
良くも悪くも小百合の訓練を受け始めたころだったために、まだあの頃の康太には一般人と見間違うような点がいくつもあった。
だが今はもう違う。今の康太はすでに、同世代の一般人と同じところを探すほうが難しかった。
「君がどれほどの努力をしているのか、あのバカに付き合わされているのはよく知っている・・・だからこそ、あいつは君に、君が気にしている言葉を言ったのだろう」
「・・・俺が一般人とどれほど離れたのか・・・ですか」
康太と一般人の間にどれほどの距離があるのか、康太は認識できていない。
日常的に一般人と関わり、友人がいて、毎日を過ごしている康太にとってその距離は捉えにくい。
目の前にあるものが、近くにありすぎるものがどれほどのものなのか認識しにくいように、身近だからこそ見えなくなっているものもある。
「そう、あいつはそれを知っている。そうするしかなかったから、そうすることでしか先に進めなかったのだから仕方のない話、そう分かっていても、理解していても納得できるようなものではなかった・・・それはたぶん君にとっても同じだろう」
「・・・俺にとっても・・・そうするしかなかったから・・・」
康太は強くなる以外に選択肢がなかった。選択肢が与えられなかった。そういう意味では小百合と似ている。
彼女が強くなるためにはあのような方法しかなく、彼女が前に進むにはあのような方法しかなく、だからこそ理解はできても納得ができない。
春奈の言葉を反芻しながら、康太はどういうことなのか考えだしていた。




