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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十四話「旅行で斬り捨てるもの」

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人の考えの違い

「まぁ・・・今回の旅行はちょうどいい機会なのではないか?君が自分の立ち位置を正しく理解するためにも」


「一応理解しているつもりなんですけど・・・まだ足りませんか?」


「足りないな。君が魔術師として存在している以上、君はもっともっと一般人ではないものであることを意識するべきだ」


立ち位置。それがどこなのか康太は迷っている。康太は自分が一般人に近いタイプの魔術師であると考えていた。


まだ魔術師になってから一年半程度しか経過していないのだ。そんな状態ですぐに魔術師になりきれるほど康太は物分かりが良くない。


「魔術師になったからには、君は知っておくべきだ。魔術師という存在がどれだけ危険で、君という存在がどれだけ危ういのか」


危険か、危ういか。どちらも同じようなことを言っているはずなのに、どうしても康太にはその言葉が同じ意味合いが込められているとは思えなかった。


「師匠も・・・春奈さんも同じような想いをしたんですか?」


「・・・私は昔から私なりの処世術を持っていたからな。そこまでではなかったな・・・だがあいつは良くも悪くも愚直だからな・・・そういう場面に直面した時、わかりやすくへこんでいたのを覚えているよ」


小百合がへこんでいるという言葉に、康太はその状況を頭の中で思い浮かべることさえできなかった。


小百合が落ち込むという状況そのものがイメージできなかったのである。何せ康太の知る小百合はいつだって自由奔放で、やりたいことをやりたいようにやるような性格で、周りに迷惑ばかりをかけているような存在だ。


そんな小百合が落ち込むなど、天地がひっくり返ってもあり得ないのではないかと真剣に思っていた。


「師匠が落ち込むと・・・どうなるんですか?」


「・・・八つ当たりがひどくなる。当時の魔術師戦は怖かったぞ。いつやらかすんじゃないかとひやひやしていた」


一緒に行動していた春奈からすれば笑えなかっただろう。どのような行動に出るかもわからないような迷惑の塊が、いつ爆発するのかもわからないような状況になっていたのだから。


「八つ当たりって・・・どのレベルで?」


「・・・とりあえず当時依頼を受けていた時、妨害してきた魔術師を徹底的に叩き潰していた程度か・・・少なくとも八つ当たりだから被害そのものは軽微だったんだがな。一人を対象にして怒るのではなく、どうしようもない怒りを発散させようとしているようだった」


小百合が落ち込むとその怒りを周りにぶちまけていくのだなと、小百合を落ち込ませないようにする必要があると心に誓っていた。


というか人間としても魔術師としても未熟であったと思われる昔ならいざ知らず、ほぼ人として、そして魔術師として完成している小百合を落ち込ませるような状況など康太には思い浮かばなかった。


「ちなみにそれっていつ頃の話なんですか?お二人がまだ修業中の話ですよね?」


「懐かしい、あれは私が高校の頃の話だ。まだ仕事の面倒くささも知らず、のびのびと生きていたころの話だ・・・」


今の仕事が大変なのか、机の上に置いてある書類の山を見て春奈は深々とため息をついている。


奏ほどではないが、春奈もまたワーカーホリックになりかけなような感がある。仕事をしていないと落ち着かないというか、仕事の時以外何をしたらいいのかわからなくなってきているというか。


なぜ康太の周りにはこうも両極端な人物しかいないのだろうかとため息をつきながら小百合と春奈の高校時代を思い浮かべる。


昔の写真などが一切ないために想像するのが難しいが、今の二人をほんの少し幼くしたらいいのだろうと考え始める。


「考えてみれば当然の話だ・・・あいつは良くも悪くも普通とはいいがたい・・・それを実感しただけ、理解しただけだ」


「・・・普通じゃないっていうのは・・・魔術師としてですか?」


「それももちろんあるがな・・・まぁあまり私がいうことでもない。あと詳しいことは本人から聞くといい」


「えー・・・師匠は絶対教えてくれませんよ」


「教えてくれないことを知ろうとしているのだから、多少は食い下がりなさい。必要なら賭けでもすればいい。あいつは変なところで律儀だからな」


春奈の提案に康太はどうしたものかと悩んでいた。小百合に何かがあって、康太がこれから感じるであろう絶望か、苛立ちか、それとも悲しみか。それらのうちのどれかを少しでも軽減させようとしてくれているのは何となくわかる。


だがその内容があまりにも雑すぎてわからないのだ。相変わらず説明とかは苦手なんだなと小百合のことを思い出しながらため息をつく。


「春奈さん的には・・・文はどうなんですか?あいつも俺と同じですか?」


「・・・いや、あの子は良くも悪くも普通ではないが、君や小百合のようにどこかが破綻しているということでもない」


「破綻って・・・間違いなく貶してますよね」


「そうだな・・・だが、事実でもある。受け止めたくないのは理解しているけれどね」


いずれは理解しなければいけないのだよと春奈は薄く笑みを浮かべながら机の上の書類に向かって行く。


「何話してるわけ?こっちに来るのは久しぶりだっていうのに」


そんな康太と春奈の会話が気になったのか、文が魔導書を持った状態でこちらにやってくる。


ここは春奈の修業場なのだから文がいてもなにも不思議はないのだが、こうしてさも当然のように現れると違和感を覚えてしまうのは小百合の店に馴染みすぎたからだろうか。


「ちょっと進路相談をな。俺が将来どんな大人になるのかをまじめに考えてた」


「どんな大人・・・って嘘でしょそれ。そんなことであんたが真面目に悩んで、しかもそれを師匠に相談するとは思えないわ」


さすがに文には嘘は通用しないかと、康太は内心舌打ちをする。伊達に長く康太と一緒に行動していないということだろう。簡単な嘘は即座に見抜かれてしまうあたりさすがというべきだろうか。


「で?何の話?私には話せないようなこと?」


「そうなんだ、実は文の寝相についての相談でな・・・眠ってるのに抱き着こうとしてくるのはどうしたものかと」


「はいそれも嘘・・・嘘よね?」


若干迷ったところを見ると、さすがに自分の寝相までは把握しきれていないのだろう。目を泳がせながら寝ているときの自分の行動を思い出そうとしているようだが、寝ているのだから覚えているはずもない。


「まぁ実際のところは、康太君が一般人とどれくらい違いが生まれているかということだ。今度修学旅行があるだろう?それで確認しておけと言われたらしくてね」


「一般人と?そんなの違いがあるなんて当たり前じゃないの?私たちは魔術師なんだから仕方ないじゃない」


「そうなんだけどそうじゃないんだよ・・・実はさ・・・」


魔術を使えるから魔術師なのか、では魔術が使えなければ魔術師ではないのか。少なくとも康太は魔術が使えなくとも魔術師であるといわれてしまった。


仮に魔力をすべて抜いたところで、康太は魔術師なのだと。


そんなことを文に話すと、彼女は持っていた魔導書を机の上に置くと口元に手を当てて悩み始める。


「ふぅん・・・そんなことを・・・でも結構的を射てるんじゃない?実際あんたは・・・私もそうだけど、魔術だけじゃなくて他の技術も学んでるわけでしょ?格闘技とかいろいろ」


「まぁ・・・そりゃな」


「あんたが言ってるのは、ボクサーとして戦えなくなったからって一般人に戻るかとかそういう話なんじゃないの?ボクサーは引退してもボクサーでしょ?人を殴ったら犯罪扱いされるじゃない?」


「いや、誰が殴っても人を殴ったら犯罪だろ」


「あれ?あ、間違えた。ボクサーの拳は凶器とかっていうでしょ?それと同じ」


文のたとえは相変わらずわかりやすいのかわかりにくいのか微妙である。だが彼女が何を言いたいのかは何となく理解できていた。


魔術師が魔術を使えなくとも、その危険性を理解することはでき、その危険に対処することができる。

良くも悪くも、魔術という存在に関わったために培われた感性というものは簡単に抜けるものではないらしい。


「魔術が使えなくても魔術師である、魔術を使うから魔術師なんじゃなくて、魔術を知り、操る資格を持ったものが魔術師なのよ」


「・・・わかりやすいんだけど・・・なんだかな・・・俺が聞きたいことはそういうことじゃなくて・・・なんていえばいいのか・・・」


「あんたが一般人とかけ離れていくっていうのだったら今更よ?とっくの昔にあんたは普通とはかけ離れちゃってるんだから」


「そうなの?」


「そうよ。そうね・・・倉敷!ちょっと来て!」


「あぁ!?今練習中なんだけど!」


「いいから!結構大事な話!」


遠くで術の練習をしていた倉敷を強制的に呼び出す文。普段から手伝いや魔導書の読み込みなどで倉敷はこの修業場に頻繁に足を運んでいる。もはやこの場所にいるのが当たり前になりつつある。


春奈に正式に弟子入りしたほうがいいのではないかと思えるほどだ。春奈も倉敷にちょくちょく指導している。おそらくまんざらでもないのだろう。


「なんだよ、今いいところだったのに」


「悪いわね。あんたって一般人とどう違うの?」


「は?なんだそりゃ?どういうこと?」


いきなりの質問に倉敷は目を白黒させている。一般人とどう違うのか。精霊術師である倉敷と一般人はいろいろと違うだろう。


術式を操ることができる、精霊を宿している。そういったところではもちろん違う。だが何もかも違うということはない。


「今度修学旅行に行くじゃない?その時に魔力を全部抜いて生活した時、私たちと一般人ってどう違うと思う?」


「どうって・・・そりゃ違うだろ。のほほんと生きてる連中と俺らが一緒だったら俺らの努力は何だったんだって話になる」


「ね?こういうもんなのよ」


一般人と魔術師は違って当たり前。今までこなしてきた努力が違うのだから、むしろ違わなければおかしい。


文と倉敷の言葉に康太は、そして春奈も少し驚いてた。



土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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