先々代
修学旅行まであと少しという頃、康太は支部長のもとを訪れていた。
理由は、今回の修学旅行の件である。
「ということで、旅行中は魔術師としての行動を休止しようと考えてます。沖縄にいるので、連絡はつくとは思いますが」
「そうか、うん、了解したよ。せっかくの旅行だ、楽しんでくるといい」
「えぇ、お土産いりますか?」
「気にしなくていいよ。荷物になるだろうし、それに結構いろんな人からもらってるからね、これ以上お土産が増えるのは・・・」
支部長は一応日本支部の長だ。立場上いろんな人からお土産と称していろいろともらっているのだろう。
康太がこれ以上それらを増やすわけにはいかないなと、とりあえず土産は買わないことにした。
「でも旅行か・・・しばらく行ってないなぁ・・・ていうか旅行に行くって考えがなくなりつつあるかな・・・」
「まぁ、支部長なら門を使ってどこでも行き放題ですからね・・・近所のコンビニから地球の裏側まで」
「ははは、門を設置してある教会があるところに限定されるけどね。そういう意味では自然豊かなところに行くのは旅行になるかな」
協会の門が設置されている場所は基本的に教会であるために、移動先はどうしても町中になってしまう。
そのため自然豊かな場所、森や山などに移動することはできないため、そこから先は自分の移動手段を見つけなければならない。
本当の意味での旅行を味わいたかったら門を絶対に使わないという誓いを自ら施すか、あるいは教会のないような田舎、ないし自然豊かな、人の手が入っていない場所に向かうしかないのである。
「旅行っていうか遭難になりそうですね。てかそれ旅行っていうんですか?」
「いうさ。というかあれだよ、オーロラを見に行ったり、ナイアガラの滝を見に行ったり、自然豊かな場所っていうのは苦労して見に行くものだからね?協会の門があってもそのあたりは同じさ」
「まぁ確かにそうかもしれませんけど・・・支部長ってそういうの見に行くのが好きなんですか?」
「いいや?僕は寺とか街並みを見るのが好きかな。だから門で事足りちゃうんだよね」
コンビニ感覚で海外旅行に行けるのだから、魔術師というのは一般人と随分と常識のかけ離れた存在であるというのが理解できる。
そんなことを考えたときに、康太はふと小百合の言葉を思い出していた。
「あの、支部長、師匠から言われたことなんですけど・・・」
康太は支部長に相談していた。相談する相手として正しいかどうかはともかく、小百合がいったい何を言わんとしているのか、何か思うところがあるのか知りたかったのである。
「なるほど・・・クラリスがそんなことを・・・んー・・・僕もそこまで彼女のことを知っているわけではないからなぁ・・・特に私生活については」
「今の私生活だったらパソコンいじってるだけなんですけどね。たぶん師匠がいろいろ思うところがあったのは学生時代だと思うんですよ」
「あー・・・一番面倒くさかった時期だね。クラリスとエアリスが一緒に行動していたころの話だ」
まだ小百合と春奈がコンビで行動していたころの話。そういえば康太はそのあたりの話を詳しく聞いていなかったなと思い出していた。
かつて一緒に行動し、魔術師として猛威を振るい、同時に活躍していたという話は聞いたことはある。だがそれ以上のことは知らない。
「エアリスさんと一緒に行動してたのに面倒くさかったんですか?」
「当時は僕も支部長ではなかったから、まだよかったけど、その時の支部長はかわいそうだったと思うよ。先々代の支部長なんだけども、その人はストレスで胃に穴ができちゃって入院さ・・・」
「・・・いったい何やらかしてたんですか」
「いやいや・・・ちょっとね・・・いろいろ機密情報を持ってきちゃったり、諸外国との関係を悪化させてたりしただけだよ・・・後始末を手伝ったけど・・・あれは本当に大変だったなぁ・・」
昔から小百合はフルスロットルだったのだなと、康太はあきれてしまう。春奈がいながらもそのような行動に出ていたということは、春奈がいたからこそ無茶な行動をしていたというべきだろうか。
それだけ彼女の実力を信用していたということでもある。今の二人の関係からは信じられないような状況だ。
「先々代が辞めた理由ってその胃に穴があいたからですか?」
「それもある・・・それだけじゃないんだけどね・・・まぁその後にもいろいろあって・・・だいぶいろんなところにがたが出始めてたってことで交代したんだよ。そして先代の支部長は・・・まぁ・・・その、知っての通り」
「師匠につぶされたんですよね」
「そう・・・そしてその後釜が僕ってわけさ・・・ははは・・・僕もいつ彼女につぶされるのか気が気じゃないよ」
先代と先々代の支部長にかなりの打撃を与えているのが小百合なのだという事実に、康太は戦慄してしまう。ストレスで支部長の胃に穴が開くのも時間の問題だろうかと真剣に心配しながら、なんとかフォローをしなければという気になってくる。
この人がいなくなったら日本支部で舵を取る人がいなくなる。それは絶対に避けなければいけないことだった。




