↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十四話「旅行で斬り捨てるもの」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1051/1515

楽しみは南へ

六月に入り、徐々に気温が上がってきている中、康太たちの通う三鳥高校の二年生は全体的に浮ついていた。


その理由は、康太たちの学年の修学旅行が間近に迫っているからである。


今年の修学旅行は六月の半ば、行先は沖縄。期間は五泊六日という長旅である。六月の半ばでしかも沖縄ということで、泳ぐことも十分可能だろうという同級生たちの考えはいつの間にか伝播し、どのような水着をもっていくのか、どのような行動をとるかでみな話し合っていた。


もちろんその中に康太の姿もある。魔術師としていろんなところに行ってきた康太だったが、実は沖縄は行ったことがないのだ。


「あれだろ?ハブとマングースの戦いが見れるってやつ、ちょっと見てみたくね?」


「いや、あれってうそでしょ?確か片方が夜行性で生活環境合わないような・・・」


「どうせだったら泳ごうぜ、せっかくいい時期に沖縄に行けるんだからさ。観光もいいけどやっぱ沖縄の海だろ」


康太は同級生の青山と島村とそのような話をしていた。いくら魔術師としていろんなところに行っているとはいえそれはあくまで任務の話だ。実際に観光などで羽を伸ばせるわけではないだけに今回の旅行は地味に楽しみだったのだ。


「でもさ、沖縄で五泊って言っても、自由時間ってどれくらいだ?」


「えっと・・・今のところ二日間の予定みたいだね。初日は朝から移動して、昼頃に沖縄着、向こうでお昼ご飯を食べてから観光、そのあと夕方ごろにチェックイン。二日目は首里城とかもろもろのメインの観光地を回って・・・三日目と四日目に自由行動だ」


「六日目は帰る日として五日目は?」


「五日目も観光みたいだね。基本的に全員で移動するわけじゃないみたい。クラスごとに分かれてローテーションしていくっていう感じみたいだね」


一か所に人が集まりすぎると問題だからか、クラスをある程度に分けて観光する場所を入れ替えていく方式をとっているようだった。


そのほうが管理が大変に思えるのだが、学校側には学校側の思惑があるのだろう。それをとやかく言うつもりはなかった。


「せっかくの沖縄なんだからいろいろ調べてから行きたいな・・・主に自然が豊かなところだから楽しみだね」


「海パンは欠かせないな。ちなみに八篠って泳げるのか?」


「普通に泳げるぞ。最近まったく泳いでないけどな。っていうか泳ぐ必要がない」


「まぁ日常的に泳ぐってことはないだろうね。沖縄ではダイビングとかもできるらしいし、そういうのもいいんじゃないかな」


海の中に潜る。口で言うのは簡単だが全く想像ができないのも確かだった。


泳いでいるときに潜ったことくらいはある康太でも、ずっと水の中にいるとなると少しイメージするのが難しかった。


「ダイビングか・・・いいね、潜りはやってみたい」


「班編成はどうしようか・・・四十人クラスで・・・大体五人一班?」


「男子だけで集めるか・・・あるいは女子を混ぜるか・・・なかなかに悩みどころだな・・・八篠君、君の意見を聞きたい」


「男子でも女子でも楽しめればいいだろ。適当に・・・あぁ、あいつらいいんじゃないか?結構仲いいし」


「待て待て八篠君、ここはやはり女子だろう・・・島村みたいに彼女持ちは置いておいて、俺ら彼女なしコンビは彼女を作る絶好の機会なんだから」


実は自分には文という彼女がいますとは口が裂けても言えないような状況に、康太は内心冷や汗をかいていた。


どうしたものかと思いながら島村の方を向いて若干目を細めて助けを求める。


だが自分だけいつの間にか彼女を作っていたという負い目があるからか、島村は苦笑いしただけで困ったように笑っていた。


目を細めたのは別に責めたわけではなく、単純に助けてほしかったからなのだが、島村には伝わらなかったようである。


「女子はいいけど・・・お前このクラスで一緒の班になってもいいような仲のいい女子いるのか?っていうかすでにたいてい男子と女子それぞれでもう組んじゃってるぞ?」


四十人クラスということもあって、しっかり割り切れる数というのは案外少ない。二人や四人では少なすぎ、八人だと多すぎる。なんだかんだ言って五人くらいが一番ちょうどいい塩梅だといえるだろう。


とはいえ男子と女子の比率を考えるとそれも難しいところではある。康太のクラスは男女比がほぼ一緒であるためにそこまで気にすることはないのだが、女子は女子で、男子は男子でグループを作ってしまうためにそこから二人だけ引き抜くというのはかなり難しいのである。


「まぁまぁ、そのあたりはもうちょっと考えておこうよ。それより部屋割りは?二人部屋だろ?」


「そっちは番号順だから・・・三人ともばらばらだな。『あ』と『し』と『や』だからな。そのあたりは仕方なしだ」


三人とも出席番号自体はバラバラであるために部屋自体が一緒になることはないが、良くも悪くも修学旅行なのだ。友人の部屋に遊びに行くなどというのは当たり前のように発生するだろう。


おそらくは集合場所のような形になる部屋もあるはずだ。個室であるために点呼などがあるかはさておいて、教師たちも手が出しにくい空間ができるのは確かである。


羽を伸ばすにはちょうどいいかもなと康太は小さくため息をついていた。


最近少し張りつめていただけに、息抜きのいい機会だと思ったのである。
















「そうね、確かに息抜きにはいいかもしれないわね。最近結構緊迫したムードが続いてたし・・・たまには魔術から離れるっていうのもいいかもしれないわよ?」


康太と文は自分たちの拠点で今度の修学旅行の話をしていた。魔術師として必要な道具などの手入れをしながらそんなことを話しているあたり、康太がかなり魔術に染まってきたということを暗示していた。


「沖縄だぞ沖縄。いろいろとテンション上がるわ・・・ちなみに文は沖縄に行ったことあるのか?」


「小学校の時に一度だけあるわ。もうほとんど覚えてないっていうのが正直なところだけどね」


「俺は沖縄っていったことないけどさ、どんなところなんだ?やっぱ南国?」


「んー・・・暑かったって記憶はあるわ。飛行機から降りた瞬間むわっとするのよ。あの時は夏だからそう思ったのかもしれないけどね」


文の記憶の中に残っている沖縄のイメージ、それは海がほとんどだった。


澄んだ水、そして自分が宙に浮いているのではないかと錯覚するほどに底がはっきりと見える海。


泳いで潜って、まだ魔術師として未熟すぎたあの頃、魔術を少しずつ扱えるようになってきていたあの頃、そんな昔の記憶と今の自分を比べて文は小さく笑う。


あの頃は空を飛ぶことが特別なことのように思えていた。だが今は何とも思えない。それが成長なのか、ただ単に子供らしさを失っただけなのか、文には分らなかった。


「六月でもやっぱ暑いのかな?海開きとかはもうやってるっぽいけど」


「まぁそのあたりは沖縄だからね。こっちに比べれば暑いわよ。昔はとにかく暑くて・・・そこまで建物の中も空調が効いてなかった気がするのよね・・・」


「やっぱ向こうの人は暑さに慣れてるからか・・・そういえば気になったんだけどさ、向こうには特殊な魔術とかはあるのか?」


「また唐突ね・・・一応聞いたことはないけど・・・なんで?」


唐突に魔術の話題になったことで文は目を丸くするが、康太的には急な方向転換でもなかったようで、沖縄のことを思いながら同時に西にある京都のことを思い出していた。


「京都なんかは一つの魔術体系を持ってるだろ?沖縄みたいに日本に組み込まれるのが遅かったような場所ってどうなってるんだろうなって・・・」


「なるほどね・・・確かに沖縄はいろんな意味で微妙な立ち位置の場所だけど・・・」


沖縄という地方が日本に組み込まれたのはそこまで昔の話ではない。かつては外国として、あるいは独立した立場で日本と外交を持っていた土地でもある。


長い歴史を持つ魔術の中で、京都のように魔術協会とは隔絶された体系を持っていても不思議ではない。


日本のような狭い国土の中で陸続きの京都という場所でも特殊な魔術が存在するのだ。沖縄のような場所で見たことのない魔術があっても康太は驚かなかった。


「昔私が行った時には魔術的なことは何もなかったように思うけど・・・まぁ父さんや母さんがそれを隠してたのかもしれないけどね・・・」


「両親が魔術師だとなかなか複雑だな・・・いっそのこと旅行前に行ってみるか?たぶんだけど協会の門を使えば行けるだろ?」


「旅行の意味がなくなるからやめなさい。行ったことのない場所に行くから楽しいんじゃないのよ。頻繁にいろんなところに行ってる私たちが言っても説得力ないかもしれないけどさ」


魔術師になってから、協会の門をほぼ自由に扱えるようになってから、どこか遠くの場所に行くことに抵抗をなくしていた。そしてその抵抗がなくなると同時に遠くへ行く楽しさのようなものも消えつつあった。


そういえば最近交通機関を使って遠出とかしなくなったなと康太は思い出す。自分がいかに協会の門に毒されてきているか、ようやく自覚していた。


「せっかく行くんだから下見とかはしておいてもいいと思うんだよ。まぁ普通にネットで調べてもいいんだろうけどさ・・・」


「気軽に行けるっていうのも考え物よね・・・ちょっと門の使用を控えたほうがいいのかしら・・・」


「でも俺は基本あれだぞ、依頼の時と奏さんのところに行く以外ではほとんど使ってないぞ?」


「日常的に使ってるからこそ違和感に気付かなくなるのよ・・・私たちはただでさえイギリスとか中国とか、普通に遠くに行ってるからね・・・そのあたりがほかの人間とは違ってくるんじゃないかしら?」


「そういうもんかな・・・まぁ確かに飛行機とか全く使わないけど」


どこか遠くに行くとしてもその場所に都市があり、教会があり、そこに協会の門がつながっているのであれば康太たちは何の苦労もなくその場にたどり着くことができる。


時間もそこまでかからず、扉を一つ開けるだけでその場所につくことができるのだ。距離感の喪失というとまた意味が変わってくるかもしれないが、実際にどれくらい離れていて、それがどれくらいの時間がかかるものなのか、本来の人間が持っているイメージと認識が大きく異なってしまっているのは事実である。


沖縄にコンビニ感覚で行けてしまうような距離感はさすがに問題がある。特に康太たちのような高校生が持つにはあまりにも突飛な感覚だ。


さすがに魔術師といえど矯正したほうがいい考え方というものはある。今回の場合はまさにそれだ。


「ていうか飛行機に乗るってすごい久しぶりかもしれない・・・何年ぶりだ?ていうか今更ながらあの乗り物が何で飛ぶのか不思議でしょうがない」


「理屈がわかったところで気にしないでしょあんた」


「普段空飛んでるとなんで鉄の塊が空を飛べるのか不思議でしょうがないよな・・・魔術師の弊害だわ」


単に物理学を頭の中に入れていないせいではないだろうかと文は額に手を当ててため息をつく。

良くも悪くも魔術に染まってきたなと、康太の成長を喜んでいいものか悩んでしまっていた。

















「ほう、康太君の学校で修学旅行ですか」


「えぇ、沖縄に。海外じゃないってぼやいてる奴らもいましたけど」


「最近は修学旅行で海外に行くのが割と普通になってきていますからね、その気持ちはわかります。でも日本でもよいところはたくさんありますからね」


康太はいつものように小百合の店に修業にやってくると同時に、兄弟子の真理に今回の修学旅行の話をしていた。


真理もかつては修学旅行を楽しんだことがある。高校生の思い出の一つを脳裏に浮かべながら小さくうなずく。


「沖縄は俺行ったことなくて、魔術的に特殊なのか気になってるんですよね」


「ふむ・・・沖縄ですか・・・私もそこまで詳しいわけではないのですが、確か特殊な魔術自体は存在していると思いましたよ?」


「ほほう・・・それはなかなかに興味深い話ですね・・・具体的には?」


「えっと・・・私もそれがどういう魔術なのかはわかりません。ですが動物を操るタイプの魔術であるというのはわかっています」


「動物を・・・それはどうして発覚したんですか?」


動物を操る魔術と言われても少しイメージできなかったが、人間の体であれば操る方法はいくらでもある。


その動物バージョンとでも考えておけば特別珍しい魔術ともいえないだろう。


「明らかに周りにいた動物たちが私を妨害するかのような動きをしたんです。私は動物は基本的に好きでしたから・・・相手をするのは少し辛かったですよ」


「へぇ・・・なかなかに面倒くさい感じですね・・・」


動物愛護団体を敵に回しそうな魔術であるということは理解できた。問題はどの程度操れるのかということである。


それこそ行動一つ一つを完璧に操れるとなれば、かなり面倒でしかない。


動物というのはたいてい人間よりも基本性能が上だ。人間は普通の中型犬にだって負けることだってある。


魔術師は鍛えていることもあってたいていの動物ならば魔術で対応できるが、それでも人間であることに変わりはない。


基本性能で優る動物を魔術で操るとなるとその面倒くささは言葉で説明するまでもないだろう。


「ちなみに、姉さんはその時どうしたんですか?」


「犬猫、その他諸々が私に絡みついてきましたが・・・まぁ・・・仕方がないと思うだけの話です。動物を傷つけないように戦うのはなかなかに気を遣いましたが、それでも問題はありませんでした」


問題はない。真理は簡単に言っているが自分に絡みついてこようとする動物を躱しながら相手に攻撃を与えるのは決して容易なことではない。


康太のような大雑把な攻撃ではなく、精密で、洗練された技術を持っているからこそできることなのだと康太は理解していた。


「その人に詳しいことを聞ければよかったのでしょうが・・・残念ながら私はその機会がありませんでした。良くも悪くも・・・もう聞くことはできません」


それがどういう意味なのか、康太は理解できていた。小百合の弟子である康太が、そして真理が放つ言葉のその意味を。


「でもその魔術師が使ってるだけなのかもしれないじゃないですか」


「そうでもありませんよ。他の魔術師も使っているそぶりがあったんです。沖縄の魔術師は動物を媒体として発動する魔術を多く知っているんです。魔術協会に所属している方もいらっしゃいますから、聞いてみるといいかもしれませんよ?」


「・・・操れるってことは、もっふもっふし放題ってことですか?」


「・・・その発想はありませんでした・・・なるほど・・・なるほど・・・!」


どうやら真理としては戦いに使う以外に、魔術の使い道を見出したのだろう。


その表情は明るい、というか新しいおもちゃを手に入れた子供のようである。


動物を操る。あまり強い魔術とは思えないが地味に使えそうな魔術である。それがどれだけ恐ろしいのかは実際に味わった者でないと体感することはできないだろう。


「ともあれ、沖縄の魔術は動物を操ると・・・蛇とかも操れる感じですか」


「哺乳類爬虫類鳥類、その時はそのくらいでしたね・・・一部は焼き尽くしましたが、やっぱりやりにくかったですよ」


「姉さん爬虫類とか嫌いですか?」


「そこまで嫌いではないですけど、さすがに体にまとわりつかれると少し嫌ですよ・・・私だって乙女なんですから」


「ははは、確かにそうかもしれませんね。にしてもそうか・・・いやいや、修学旅行なんだからそんなこと気にすることもないか」


別に依頼に行くわけでもなし、魔術のことを考えるだけの必要はないのだということを思い出し、康太は首を横に振る。


「ダメですね・・・やっぱ魔術ばっかり考えちゃいますね・・・たまには一般人に戻れればいいんですけど・・・」


「難しい話ですね・・・すでに知ってしまったことを忘れるというのは難しい話です・・・特に、深入りしてしまった話は」


深入り、康太はすでに魔術にこれ以上ないほどに深入りしてしまっている。その身には正常かもわからない魔術が宿り、日夜戦闘に明け暮れるという一般人とは程遠い生活を送っている。


今更元に戻ろうというのはなかなか難しい話だろう。


「何を話しているかと思えば・・・お前も修学旅行に行く時期か」


「あぁ師匠、神加の訓練は・・・」


「そこそこに終わらせてきたところだ・・・ようやく魔術をもう一つ覚えられそうだ」


地上へ上がっていた小百合を見た瞬間、康太と真理は不安そうな表情を小百合に向ける。何せ小百合が直接神加の訓練をすると言い出したのだ。


普段神加の訓練は真理が担当している。シールはがしにシャボン玉割りといった体を動かす訓練は小百合が行うより真理が行ったほうが効率がいい。


だがこうして時折小百合が修業をつけているのである。今日はどうやら新しい魔術を教えていたらしい。


「今回は何を教えたんですか?今は確か障壁、遠隔動作、あとなんでしたっけ?」


「今回は蓄積の魔術を教えた。まだ体が出来上がっていない状態ではあのほうがいいだろう。真理、暴走しないように見て来い」


「わかりました。康太君、話はまた今度」


「はい、神加を頼みます」


真理が神加の様子を見に行くと同時に小百合は腰を下ろして大きくため息をつきながらわずかに目つきを鋭くする。


「神加はどうですか?強くなれそうですか?」


「・・・あれは才能に恵まれたタイプだな、教えれば教えるほど吸収する。努力さえ怠らなければ強くなるだろう」


小百合が素直に才能を褒めるということは、神加は間違いなく天才型の魔術師なのだろう。訓練の方法と密度さえ間違えなければ、おそらく小百合さえも超える逸材になるのだ。


だというのに小百合の表情は浮かない。楽しいものを見つけたというよりはむしろつまらないものを見せられ続けているといった様子だった。


「才能に恵まれてるならいいじゃないですか。なんでそんなに不機嫌なんですか」


「・・・最初から強くなるとわかっている奴を強くしてもつまらん。お前みたいに強くなれるかどころか、まともになれるかも怪しいような素質のやつを強くする方がよほどやりがいがある」


「ちょっと待ってください、俺そんなにひどいタイプだったんですか?」


康太が素質に恵まれていないのはわかりきっていたことだが、まさかまともになれるかも怪しかったとは思わず、康太は目を見開いていた。


そんな康太を見て小百合は目を細めてため息をつく。


「お前の素質は戦闘向きではない。どちらかというと長時間で断続的に魔術の使用を続ける調査型のそれだ。だが私の弟子になる以上それは望めない」


「だから短期決戦型の教育をしたと」


「間違ってはいないがな・・・お前は才能自体もないから徹底的に鍛え上げた。その結果いつの間にか自分で短期決戦型に仕上がっただけの話だ」


康太のような素質を持つ魔術師は、索敵や調査を長期にわたって行い、魔力が回復次第調査を再開するような調査系魔術師に向いているのだという。


短期間で継続的に魔術を行使し続ける戦闘型の魔術師には向いていない素質であるらしい。


だからこそ小百合は魔術にも頼らずに戦えるように肉体戦闘能力も高めていったわけなのだが、康太は自らの素質のことも考え、なるべく短時間で相手を仕留めることができるように短期決戦型に成長していった。


そういう意味では正しい方向に育っていったというべきなのだろう。


「師匠的には神加みたいなタイプはどう育てたいんですか?」


「・・・あいにく私は万能タイプの魔術師は育てられん・・・あいつを育てるとしたら・・・そうだな・・・属性メインの長期戦闘型魔術師だろうか」


「素質に恵まれていて、なおかつ精霊もたくさんいる・・・けどいつまでも精霊がいるとは限らないって言ってましたよね?」


「あぁ、だからこそ今は無属性ばかり教えている。属性魔術を覚えさせるのはあいつがある程度成長してからだ。そうじゃないと無駄になりかねん・・・まったく・・・才能がある奴を育てるなんて二度としたくなかったんだがな」


小百合の中では弱いものを強くするほうがやりがいを覚えるのだろう。自分と重ねているからなのか、小百合は素質に恵まれていないものを育てたかったようだ。


もっとも、今いる三人の弟子の中で素質にも才能に恵まれていないのは康太だけしかいないのだが。


「姉さんを育てたときはどうだったんですか?いろいろ苦労したと聞いてますけど」


「苦労したのは最初だけだ。あいつは物覚えもよく、素質もよく、周りからも好かれるタイプだったからな。何より人付き合いがうまい・・・私とは正反対のタイプの魔術師だよ」


正反対。それは素質面でも性格面でもということなのだろう。小百合はとことん才能に恵まれた魔術師が嫌いのようだった。


「でもどうして才能に恵まれた魔術師を育てたくないんですか?普通は恵まれたタイプのほうが育てやすいように思えるんですけど」


あらゆる方向に育てられる、鍛えられる魔術師ならば、指導者としてはこぞって育てようとするだろう。

だが小百合は誰も目を向けないような落ちこぼれや欠陥を抱えたタイプを育てたいと思うようだった。


やりがいなどと小百合は言っていたが、他にも何かがあるように思えてしまう。


「簡単な話だ。才能がある奴はなんにでもなれる。さっき言ったような長期調査型にもなれるし、その気になれば短期決戦型にもなれる。だから嫌なんだ」


「・・・?どういうことですか?」


「選択肢があるということはつまりそれだけ覚える必要があるということだ。才能がいくらあっても覚える時間が足りなければ中途半端になる。なまじ才能があるだけにあらゆる方向に手を出そうとするだろう。指導する側からすれば迷惑極まりない」


才能がある魔術師は良くも悪くも才能におごりやすい。どんなものにもなれるだけにどんなものも吸収しようとするだろう。そのためあらゆるものが中途半端になりやすいのだ。


「でも姉さんや文なんかは戦闘もできて調査もできる魔術師ですよね?そういう意味ではうまく育てられた方じゃないですか?まぁ文に関しては春奈さんの弟子ですけど」


「真理に関しては徹底的に戦闘型の訓練しかさせていない。あとはあいつが勝手に覚えていっただけの話だ。その証拠に、調査関係はひどく中途半端にまとまっている。あいつが調べ物が得意なのはあくまであいつの人柄の問題だ」


暗に真理の人柄がよいと言っている小百合だが、決してそれは褒めているつもりではないようだった。


なんとも妙な感覚をしているなと康太は眉をひそめてしまう。誉め言葉が誉め言葉にならないあたり小百合らしいというべきである。


「文に関しては?あいつある程度調査もできてある程度戦闘もできますよ?」


「あいつはまだ完成していないから何とも言えんが・・・実戦を何度も経験し、自分で強くなろうと努力している。あのバカの弟子にしては良く育っている。いや、あいつがそうなるように仕向けている感はあるがな」


「春奈さんが?」


そうなるように仕向けている。文の教育に関しては小百合よりも春奈が考えるべきことであるために、それが正しいことのように思える。


もっとも小百合のところに訓練に来させている時点でいろいろとずれているような気もするが。


「あいつはある程度強い。昔から一緒にいたからかある程度の強さを持っている」


「あれ?でも普通に戦ったら春奈さんの方が強いみたいなことをアリスが言ってましたけど」


「それはあいつの勝手な妄想だろうが。戦ったら私の方が強い」


意地でも春奈よりも弱いと言いたくないのだろうか、小百合は妙なところで頑固なところがある。


相手が春奈だからというのもあるのだろう。幼馴染なのになぜこうも仲が悪くなってしまったのかと康太は不思議でしょうがなかった。


「その強さは素質を前面に押し出した強さだ。良くも悪くも文とかみ合う。だがあいつはそれだけでは足りないということを身をもって実感しているんだろうな・・・」


「それで俺と引き合わせたと?」


「いや、それは私の思惑というのもある。それを踏まえてあいつはいろいろと手を打っているんだろう。お前のようなタイプではなく、別の形として強くしようとしている」


康太たちと一緒に訓練していても、文は康太のような近接タイプではない。確実に中距離、遠距離タイプの戦いを好む。


そんな魔術師に育てるうえで春奈はあえて近接戦もある程度こなせるようにしている。それは彼女のかつての経験からくる指導なのだろう。


それを押し付けようとせず、自ら学ぶように仕向けるには康太と接触させるのが最適だったのだ。


小百合の弟子、どうあがいても近接戦は得意になる魔術師。


先に戦うように仕向けたのは康太たちとは言え、それすらも春奈の思惑通りなのかもわからない。


「春奈さんってどういう戦い方する人なんですか?そもそも戦ってるところを見たことがないんですけど」


「・・・私と一緒に行動していた時は、私が前に出てあいつがフォローをするという戦い方をしていた。状況把握が上手くてな、攻撃と防御をうまく使い分けていた。接近戦には弱かったがな」


「・・・まんま俺と文みたいな感じですね」


「・・・あんなのとセット扱いにされるなんぞ二度とごめんだ・・・何が悲しくてあんな奴と・・・」


「・・・もうそれはいいですから・・・文は今後どうなると思いますか?」


「簡単だ、あいつの素質はあのバカを超えている。良くも悪くもあのバカの上位互換の魔術師になるだろう。あれはそれだけの才能と、経験を積みつつある」


上位互換。接近戦もある程度こなし、中距離、遠距離において圧倒的な戦闘能力を誇る魔術師。


さらに言えば調査も索敵もできる万能型の魔術師。素質面から魔力切れというのも考えられない。いろんな意味で高い実力を有する魔術師になると小百合は予想しているようだった。


実力というのは才能と努力だけでは培われない。そこに経験が積み重なって初めて確固たる実力へと変貌する。


そういう意味では文は強くなる要素を完璧に備えている。才能、環境、経験。ありとあらゆる意味で強くなる要素に満ちているのが文なのだ。


神加も負けてはいないが、調査系の魔術に関しては小百合では教えられない。うまく別の魔術師に指導を仰がなければ戦いしかできない魔術師になりかねない。


良くも悪くも小百合の弟子らしくなってしまう。


あらかじめいろいろと用意しておいたほうがいいかもしれないなと康太はマウ・フォウのことを思い出す。


彼のところに預けるのも一つの手だなと。


調査系の魔術に関してはマウ・フォウの右に出るものはそういないと康太は考えていた。かわいい弟弟子のためにそのあたりを頼むのもありかもしれないと康太は割と本気で考えていた。


問題なのは彼のスケジュールに人を指導するだけの時間があるかどうかという点である。そのあたりは会って確認しなければならない。


残りの誤字消化で五回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。