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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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すでに賽は

「なんかさ・・・思ってたよりも私たちが関わった事件って裏でいろいろとつながってるのかもしれないわね」


「今まで特に何も考えずに一つ一つ事件を解決してきたけど・・・地味につながってそうだよな・・・それだけ相手の手がいろんなところに伸びてるってところか」


康太たちの運がいいのか悪いのか、今まで普通ではない事件を何度も経験し、かかわってきた。


その中に今回本部を動かすほどの事件へと発展した組織が関わっているものがあった。言葉にすればその程度のことなのだが、康太たちは何か因縁のようなものを感じずにはいられなかった。


「君たちだけではなく、もしかしたら他のところでも似たようなことが起きているかもしれないんだよね・・・クラリス、君が関わった事件の中でそれらしいものはないのかい?君も結構いろいろやってるだろう?」


「・・・いろいろやっているが、ほとんどが壊滅状態にしたものばかりだが?」


「そうだった、すまない忘れてくれ。いやまて、確か君の末の弟子に関わった事件、あの時は完全崩壊とまではいかなかったじゃないか」


末の弟子、つまりは神加の事である。


小百合が神加を助けた時の話は康太も大まかにしか聞いていない。どのような場所でどのようなことが起こったか程度しか知らないために、詳細を聞くことは少し憚られた。


特に店では聞く気がしなかったのだ。何せ神加がいる。本人がいるところで彼女が一般人でいられなくなった事件のことを話すのは良くないと康太は思ったのである。


「あれは関係者全員叩き潰したからいいだろう。建物を残したのは私の情けだと思え」


「いや、できれば関係者も残しておいてほしかったんだよね・・・生きる以外のことができなくなった人たちに何を聞けというのさ」


関係者をすべて完膚なきまでに叩き潰した。おそらく文字通りの言葉なのだろう。


生きる以外のことができないというのがどのような意味を持っているのか康太と文は少し首をかしげてしまっていたが、あまり良い予感はしなかった。


「だがあの事件に背後関係は特になかっただろう?そういう意味では今回の件には該当しない」


「確かにそうかもだけどね・・・なんだか何もかも疑わしくなってきちゃって・・・」


状況が状況だけに疑心暗鬼に陥ってしまっているようだが、支部長の言うように何でも怪しく見えてきてしまうのは康太たちにも理解できた。


実はありとあらゆるものが件の組織とつながっているのではないかという錯覚さえ覚えるほどである。


相手の組織がどの程度の規模なのかわからないために、ありとあらゆるものを疑うのも無理からぬことだが、あまり疑いすぎても話が先に進まなくなってしまう。


「面倒なことを抱え込んだものだ・・・それだけの組織になると全貌を掴むのも、目的を知るのも難しいな」


「目的・・・そもそも相手の目的って何なんでしょうね?」


「知らん・・・禁術関係で何かをしようとしているのは何となくわかるが、そこから先はさっぱりだな・・・共通点でもあればいいんだが」


今までの事件で扱われた禁術は『マナを吸い寄せる』『人間の魂を吸い出して物体に定着させる』といったものだが、どちらも扱いとして難しいのはわかるが通じているものがあるとは言いにくい。


もし仮にビデオを奪おうと襲ってきた者たちも今回の組織に該当するのであれば、呪い関係、あるいは儀式系の魔術を求めているという見方もできる。


現段階では情報が少なすぎて相手の目的を知ることは難しそうだった。


「戦力的にも相手は結構いい手駒そろえてるみたいですし、てこずりそうですね」


「まぁまぁ、こっちには歩くリーサルウェポンがいるから大丈夫だよ」


「いったい誰のことだろうな」


「あはは、何言ってるの、君以外にいるわけないじゃないごめんごめん!悪かったから刀を構えないで!」


リーサルウェポン扱いはさすがの小百合も許容しかねるのか、舌打ちをしながら居合の構えを解く。


おそらく支部長が謝罪しなければこの部屋で軽く血を流す結果になっただろう。こんな何気ない会話で血を流すようなことがあったら末代までの恥である。


「言っておくが、私もビーも基本的には戦闘でしか役に立たん。まともな探し方がしたいのであればもっとまともな魔術師を用意することだな」


「んー・・・やっぱりエアリスに声をかけられなかったのは痛いかな・・・ライリーベルの方で何とか言ってくれないかな?彼女の力があればかなり心強いんだけど」


小百合が戦闘特化の魔術師であるのに対し、文の師匠の春奈はある意味万能な能力を有している。


小百合が振り回した結果、万能でなければ困るようになったのだろうが、そのあたりは今は置いておくことにする。


春奈の名前が出たことで小百合は目に見えて不機嫌になる。文はとりあえず春奈が手伝ってくれるかどうかを悩み始めるが、春奈の表の仕事が今佳境なのはよくわかっているためになんとも言えなかった。


「正直師匠に力を借りるのは難しいかと・・・できないことはないかもしれないですけど、私やビー、クラリスさんみたいにある程度時間を都合するというのは結構面倒です。一カ月前くらいから告知してくれれば何とか・・・」


「予約必須とはずいぶんといいご身分だな。私が汗水たらして働いているというのに」


「師匠が汗水たらして働いてるなら世の中のまっとうな社会人はみんな脱水症状になりますよ」


康太の発言と同時に小百合の拳が康太めがけて襲い掛かるが、康太はそれを何とか回避していた。


この師弟は何とかならないのかと支部長と文は大きくため息をついてしまっていた。
























「康太、あんたどうするの?」


「どうするのとは?」


「これからよ、支部長が言ってたけど、たぶん今後あんたの力ってかなりあてにされると思うのよね。小百合さんよりは使いやすいし」


「使いやすいって・・・なんか言い方に棘がある気がするな」


「事実よ。小百合さんより扱いやすく、なおかつ小百合さんには劣るけど実力はある。経験はまぁまぁ、信頼はすでにある。少なくとも一般的な魔術師の十倍以上は役に立つわ」


「まぁ最終兵器一歩手前って扱いかな・・・良くも悪くも・・・いや、この場合悪い意味でしかないか・・・」


康太と文は帰宅し、自分たちの拠点を構築しながら話をしていた。


今回の本部の対策組織の立ち上げ、そして過去の事件から件の敵性勢力の調査、そしてこれまでとこれからの自分たちの話を交えたうえで、今後自分たちがどのような立場になっていくのか、どのような依頼がやってくるのか、容易に想像がつく故に悩みやすく、答えの出しようのないものとなっていた。


「実際のところどうなの?あんたとしては小百合さんのストッパー役か、二番手に甘んじてるってことになるけど」


「いいんじゃないのか?別に師匠と競い合ってるってわけでもないんだし。あの人に劣るのは事実だし、あの人より使いやすいのも何となく理解はできてる。まぁ俺も結構扱いにくい部類に入ると思うけどな」


そういいながら康太は自分の体の中にいるデビットの存在をわずかに感じ取る。本部から見ても康太の存在は異質。暴走の危険を鑑みると、なるべく使いたくない戦力であるのは間違いないだろう。


支部長などは康太の実績や性格などを知っているために、多少のことでは判断を覆すことはない。今まで通りに頼みごとをしてきたのがそのいい証拠である。


もしかしたら本部から何らかの圧力を受けている可能性もあるが、小百合という面倒ごとの塊を処理し続けてきた彼にとって、康太のような存在は些細なものでしかないだろう。


「支部長の懐の広さは本部とは比べ物にならないわ。あの人はその気になったら小百合さんでも使えるだけの実力者なんだから」


「そうなんだよな・・・何気に師匠もあの人の命令に逆らうつもりはないみたいだし・・・なんていうか、すごい人っていうのは実感してる」


小百合は基本的にやりたいことしかやらないような人種だ。自分のやりたいことをやりたいようにやるタイプであるために、自分が嫌だと思ったことは絶対にやらない。


そんな中、小百合をある程度とはいえコントロールできているのが支部長なのだ。彼の存在はかなり貴重なものといえるだろう。


「ていうかさ、仮に戦闘になったとして、俺たち以外にも魔術師の味方がいるならある程度は任せてもいいような気がするんだよ。今回みたいにさ・・・ん・・・もうちょっとこっちか?」


康太はリビングの一角にソファを設置しながらテレビとの位置関係を確認している。日当たりなどからテレビの角度も微調整しながらそんなことを口にする。


確かに今回のように大規模作戦となれば、多くの魔術師が参加する。康太たちほどではないにせよ戦闘を行える魔術師も多くいるのだ。何もすべての戦闘を康太たちが担う必要はないのである。


「他の人たちで手に負える相手ならいいんだけどね・・・あんたの言う小百合さんクラスの魔術師が一人でもいたら手に負えなくなるわよ?」


「それなんだよなぁ・・・魔術師の戦闘は良くも悪くも人数で決まるわけじゃないのが面倒くさい・・・実力者が一人でもいると戦況がひっくり返るからな・・・」


一般的な実力を持った魔術師が十人いるのと、小百合クラスの魔術師が一人いるのでは確実に小百合クラスの魔術師が勝利することになる。


魔術戦において重要なのは相性と技術と度胸。相性は相手によって変わり、技術は訓練によって磨かれ、度胸は実戦でしか身につかない。


それが十人規模ではなく、百人規模だった場合もほとんど同様である。戦場が広く展開し、各地にそれぞれ実力者がいるだけで大きく戦況が変化する。


均一化した武器しか使えない一般人と違って、魔術師は個人個人によって扱える魔術も出力も異なるのだ。


相手が強い魔術師を展開してきたら、こちらも同様に強い魔術師をぶつけてその場を膠着させるほかない。


大規模な戦闘を行った今回だが、相手の魔術師を手早く攻略するにはやはり戦闘能力に長けた魔術師が前に出るのが一番なのだ。


小百合が一番槍となってあの場にいたのはそういうことで、康太がその露払いを担っていたのはつまりそういうことなのだ。


「私は中間支援ができるからまだいいけど、あんたの場合は戦うしかできないんだしどうしてもそういう面ではつらいかもね・・・あ、ちょっとどいてくれる?机動かすから」


「あいよ・・・ついでに棚も作っちゃうか」


文は念動力の魔術で机を動かし、康太は買ってきた棚を構築の魔術で組み立てていた。一つ一つ手で運び、自分の手で作るより圧倒的に早く部屋の内装が完成していく。


魔術師の引っ越しの風景とは良くも悪くも超能力のように見えてしまうものである。


そんな中、部屋のインターフォンが鳴り響き、誰かがやってきたことを二人に知らせていた。


いったい誰だろうか、対応するよりも早く索敵した二人はそれが宅配便であることに気付くとすぐに康太が対応しに行く。


ハンコをもって回収しに行った康太は重たい段ボール箱を抱えて部屋の中に戻ってきていた。


「なにそれ?誰から?」


「テータさんからだな。頼んでたものができたみたいだ」


テータと言われて文は一瞬誰のことかわからなかったが、それが康太がひいきにしている武器職人の名前であることを思い出すと『あぁ、あの人か』とその仮面を思い浮かべていた。


康太の槍や防具、細かな武器なども彼の工房で作られたものだ。


そんな彼から送られてきたものなのだ。間違いなく武器や防具の類だろうなと文は理解していた。


「で、今度はどんな武器を作ってもらったわけ?」


「武器っていうのを即座に理解してくれるあたりさすがは文さん、話が早いぜ。といっても基本的なものは変わらないよ。ちょっと材質を見直したくらいだな。特別なことは何もしてない」


康太はそういいながら段ボールからいくつもの物品を取り出していく。それがなんであるのか、文はほとんど理解できていた。


「ていうか、あの人にこの場所を教えたの?」


「割と結構教えてるぞ?隠すようなものでもないからな。何より奏さんが管理してて俺らが住み着いてるってだけで大体のやつは手を出そうとは思わないよ」


「・・・まぁそれもそうか・・・前にこの辺りの魔術師に挨拶に行ったら土下座されたもんね・・・あれはびっくりしたわ」


小百合の兄弟子である奏、今でこそほとんど魔術師として活動していないが、日本支部のものなら新人でもない限りその存在はかなり広まっているといっていい。


そんな存在が管理している物件に、小百合の弟子で、現在魔術協会の日本支部や本部の中でもかなり危険な人種と認知されている康太が、その相方と一緒に拠点としている場所。はっきり言って誰も近づこうとしないのだ。


文の言葉には何の脚色もない。この辺りを縄張りとしている魔術師は前々からいた。その後に康太たちがやってきたのだから挨拶をするのが筋というもの。


康太と文は魔術師が活動するあたりの時間を見計らって、その魔術師のもとを訪れたのだが、康太たちが接近し、そして自分に用があるのだとわかった瞬間、その魔術師は康太たちに対して土下座という対応をして見せたのである。


完全な無血開城。無抵抗であることをアピールするためにまさか初対面、というか対面すらできていないような状態で土下座されるとは思ってもみなかった。


かつて康太たちの後輩の一年生魔術師の佐々木に自分がどのような存在なのかを聞いたことがあるが、そこまでの悪評を真実であると思い込んでいる輩が本当にいるとは思わなかったのである。


その場は文が何とか説得、というか説明して戦う意志がないことを示し、これからいろいろと迷惑をかけるかもしれないという意味を込めて菓子折りを進呈しておいたが、康太からすれば文に対してもかなり怯えているように見えた。


つまり康太が危険な存在であると、一緒にいる文も同様に危険な存在であると認知されているということである。


おかげで縄張り関係では困ることはなくなった。そもそも康太たちは別に縄張りを持ちたいわけでもないために、不可侵条約を結ぶだけで済んだのだ。


「周りからあんたがどういう目で見られているかよくわかったわよ・・・まぁ小百合さんの弟子ってだけでお察しかもしれないけど」


「何を言う、姉さんや神加という希望があるじゃないか。俺と違ってあの二人は危険だと認知されていないぞ」


「真理さんは危険だと思われそうなときは目撃者を全部消してるからそう思われてないだけでしょ。隠し事が上手いだけよ。神加ちゃんが最後の希望ね」


「そうだな、神加はお淑やかに育てよう。蝶よ花よと育てよう」


「・・・なんかもう手遅れな気はするけどね・・・あの子筋がいいでしょ?」


「あぁ、神加は天才だ。教えたことをたいていすぐに吸収するからな」


文は神加の訓練の様子を何度も見ている。徐々にではあるが、その攻撃や防御に鋭さが見え隠れしているのだ。


少なくとも今年小学校に上がった女の子がする動きではない。小百合の訓練は毎日行われている。その努力が実を結びつつあるのだ。


もともとあった素質に、才能。そして努力させるだけの環境。さらには自分よりも格上で指導に長けた存在が多数いる。


これだけの条件がそろっていたら間違いなく強くなるだろう。おそらく将来的には康太すらも凌駕する魔術師になる。文はそう確信していた。


「ねえ康太、あんたは自分の子供を魔術師にしようと思う?」


「唐突だな・・・ぶっちゃけわからん。魔術に関わらなくていいならそのほうがいいとも思うけど、才能があるなら伸ばしてやりたいし、あったほうが便利っていうのはある」


「・・・そうよね・・・そう思うわよね」


魔術師としての素質は遺伝しない。あくまで個人の素質であるために魔術師の子が魔術師になれるとは限らない。


だが文は可能なら、自分の子供を魔術師として育てたかった。自分がそうだったからという理由ではなく、万が一の時自分の身を守ることができるように、何かあった時自分の力で生き抜くことができるように育てたかった。


「文さん、子供の話をするってことはあれか、欲求不満か?」


「そういうのじゃないわよバカ。っていうか引っ越ししながらする話じゃないわよ」


「ベッドはもうセットし終えてるけどな」


「そういうことじゃないって言ってるでしょ。さっさと終わらせるわよ」


文は康太の頭を軽く小突きながらため息をつく。今はまだその時ではない。今はまだ。


そう言い聞かせながら文は康太の顔を横目で見る。


康太がどのようなことを望むのか、どのようなことを行うのか、文には半分もわからない。戦いの時とは違うのだなと、文は小さくため息をついた。


これから康太たちがどのような生活と戦いに身を投じていくのか、二人はまだ理解できていなかった。

すでに賽は投げられていた。そのことに気付くのはもっと後のことである。


誤字報告を30件分受けましたが、話の区切り的にまずは十件分消費で三回分投稿


残りの二十件分の合計五回分投稿は明日へ


これからもお楽しみいただければ幸いです



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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊の代わりに魔術師の魂を吸い出して方位陣に入れるのかな?
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