死人に口なし
「支部長、支部長はどれくらいの規模で危険だと思います?」
全員が集められたその後、康太たちは支部長の部屋へと向かい、話を聞きに来ていた。
正確には支部長に呼び出されたといったほうがいい。
本部による対策組織の設立にも似た今回の号令。今までの事件が何かしらのつながりを見せ、何かの目的のために行われているのではないかという仮説に康太としてはいろいろと思うところがある。
ところどころというと少し語弊があるが、今まで関わってきた事件の中には支部長の言うように少し気がかりな終わり方をしたものもある。
そういう意味では康太も無関係ではいられないのだ。
「んー・・・正直なところ何とも言い難いね。でも本部が重い腰を上げるレベルで面倒な感じはするよ。クラリスのおこす面倒ごとよりは面倒な感じがする」
長年小百合という面倒ごとの中心に付き合ってきたその勘は、今回の事件がかつて起きた小百合の引き起こした面倒ごとよりはランクが上だと告げているようだった。
全体像が見渡せないというのがまた不安を呼び、疑心を募らせる。何せ相手がどこの誰なのか、どのような組織なのかも今のところわかっていないのだから。
「本部はどのような動きをする予定なんですか?」
「それに関しては僕より君の方が詳しいと思うけど・・・一応こちらに降りてきている情報としては・・・今回の件を皮切りに、協会とは別の組織が何かを企んでいるってことかな。その中に協会の協力者・・・裏切者に近い立場の人間もいるってことくらい?」
協会の裏切り者という言い方は支部長としてはしたくないのだろう。少し言いよどみながら残念そうにため息をつく。
一つの支部を任されているものとしては、支部の中にいる人間は信じたいと考えているのだろうが、実際はそういうわけにもいかない。
現に日本の中でも何人かそれらしい事件を引き起こしているのだ。特に協会の門を管理する魔術師にそれらしい存在がいたことで、支部長も信じるべき対象をある程度狭めなければならないということを否でも理解しているらしい。
「・・・そのことを話すってことは、少なくとも私たちは信頼してもらえているってことでしょうか?」
「そう捉えてもらって構わないよ。クラリスを始めとして、君たちは僕が信頼に足る人物であると判断した・・・というか、クラリスがこういう回りくどいことをするとも思えないんだよね・・・君こういうのいやでしょ?」
「当たり前だ。回りくどい細々としたことは弟子にでも任せる」
「そう考えると俺とか結構危ない気がするんですけど?本部へも出入りありますし」
「君が信じられなくなったらそれこそ問題だよ・・・魔術師になった時から見てるのにどこでそんなことをやる暇があるのか聞きたいくらいさ・・・クラリスの下にいながらそういうことを実行できるならもう化け物クラスだよ。手に負えないね」
小百合の指導を受けながらも何か謀略を企めるようなスケジュール的な余裕はないといっていい。
もしそれができたとしたら、支部長の言うように化け物クラスだ。アリスと比肩できるだけの人材だということになる。
「この場にいるのは俺と、ベル、師匠、トゥトゥですか・・・土御門の双子はさすがに外れますか・・・?」
「そうだね・・・彼らは信頼できるのかもしれないけれど、まだまだ未熟すぎるし、何よりこれは魔術協会の話だ。部外者に聞かせるわけにはいかないさ」
土御門の二人は今出向という形で魔術協会にやってきている。この問題が魔術協会のそれである以上、二人を深入りさせるのは問題があると判断したのだろう。
英断ととるべきか、康太は少し判断に迷っていた。
「他には誰か戦力になる人いるんですか?信頼できる人って意味で」
「ここにはいないけどエアリスとかも適当なタイミングで話すつもりでいるよ。それと君の兄弟子もね。でも二人とも今忙しそうだからね・・・どのタイミングで声をかけたものかと悩みどころだよ・・・」
文の師匠である春奈と、康太の兄弟子である真理も信頼できる人材であるという認識であるようだった。
だが二人は支部長も言ったように今非常に多忙な時期に入っている。そのために魔術師としての活動ができるかも怪しいところである。
「それにクラリスの兄弟子二人も呼びたいところだね。ぶっちゃけ片方は今ほとんど魔術師として活動休止してるけど」
「あぁ・・・あの人は表の仕事が忙しいからな・・・兄さんならお前が声をかければすぐに応じてくれるだろう」
「そうだね、こっちとしてはありがたい限りさ・・・あとはマウ・フォウとか、アマネとか他にも何人か声をかけておきたい人材はいるね」
信頼に足る人物でありなおかつ実力のある人物の名前が上がる中、倉敷は自分がここにいていいのか少し迷っているようだった。
「あの、支部長・・・俺ここにいていいんすか?俺精霊術師ですけど」
「関係ないさ。君がブライトビーに連れまわされていろいろ経験したことも、エアリスのところで日々修業していることもよく知ってる。君は信頼に足る人物だよ。胸を張りなさい」
人物的にも実力的にも、倉敷は支部長に高く評価されているようだった。
康太と文が軽く背中を叩くと、倉敷は嬉しそうに胸を張って堂々とその場に直立する。精霊術師でありながら魔術師と肩を並べることができるというのは素直にうれしいのだろう。
康太のように精霊術師云々を気にしないようなタイプではなく、立場のある人物からの言葉であるがゆえに特にうれしかったのかもしれない。
倉敷にとっては今日は良い日だろうなと康太と文は薄く笑みを浮かべていた。
「実際問題、これまでの事件で不可解な点があったところだと・・・一番古いのがさっき支部長が言ってた長野での事件ですよね?」
「君たちだとそうなるかな・・・一応それ以前にも不可解というか、犯人が捕まらなかったり、捕まった後にちょっといろいろあったりっていう事件はあったんだよ。といってもだいぶ数は少ないけどね」
支部長曰く、康太たちが関わった事件でそのようなことが起きても特に不思議に思わなかったのは、今までもそういうことはあったから気にしなかったということらしい。
普通なら気にするのではないだろうかと思うところだが、支部長は康太たちのこと以外にも面倒ごとを多く抱え込んでいる。
そういった面倒ごとを前に、すでに解決し少し気がかりになる程度のことを深く調べるほどの気力はなかったのだろう。
「そういう事件を統合して、本部側はどうするつもりなんですか?何か対策でも?」
「マウ・フォウの調査結果と、各支部の調査結果をまとめてから判断するみたいだね。本部もどこの誰に話していいのか悩んでいる節があるから何とも言えないみたいだけど」
協会の内側にも裏切者がいるという仮説を立てている以上、作戦を大っぴらに明かすわけにもいかない。
かといって戦力を集めなければどのような事態に対応できるほどの力を得られない。なんとももどかしいところだった。
「実際のところ、禁術関係が出てきていて、なおかつ本部まで巻き込んだ話になっているんだ。支部の人間だからといって関係ないとは言えなくなるね・・・というか日本支部は少なくとも完璧に関係ないと言えない立場だけど」
少なくとも康太たちが確認できているだけで二件以上、それらしい不可解な事件は発生しているのだ。
調べる方法に限りがあるとはいえ、調べられないわけではない。本部と協力してその組織とやらを潰さなければ、また魔術の漏洩事件が起きかねないのだ。
徒党を組むこと自体は魔術協会では禁止していない。問題なのは魔術の漏洩をしようとすることだ。
今回の組織はその大前提に抵触してしまっているからこそ本部がようやく重い腰を上げたのだろう。
「片方は死んでいても、片方は記憶を消されただけでしたよね?そのあたりから調べられないんですか?」
「前にもいったと思うけど、記憶を操作されていてもうどうしようもなかったね・・・彼の一年前の行動をつぶさにトレースすればもしかしたら何か得られるかもしれないけど・・・正直微妙かな」
「どうしてですか?得られるものはあるんじゃ・・・」
「うん・・・得られるものはあるだろうけど、たぶん大したことはないんだよ。だからこそ悩ましいのさ」
どういうことだろうかと康太が悩んでいると、小百合が大きくため息をついてから助け舟を出してくれる。
「本当に知られたくないことを知っている者がいた場合、殺してしまうのが一番簡単で確実な情報の消去方法だ。死人に口なしという言葉の通りにな。お前たちが遭遇したうちの一人、記憶を消されている奴はばれたら困る程度の情報しか持っていなかったんだろう。だから生かされている」
「・・・つまり・・・マナを集める術式はその組織にとっては大したことじゃなく、ウィルを作ったような術式こそが本命であると?」
「その可能性はある。だがお前自身が生かされているということもよく覚えておけ」
「俺自身が?」
別に組織に所属したつもりはないんだがなと思いつつも、支部長はそういえばそうだったと頭を抱え込む。
「君のその連れ・・・そのウィル?だったっけ?その魔術を作ったのが件の神父だったんだから、それを引き連れている君も十分危険な可能性はあったんだよ・・・」
「だがこいつは何事もなく無事にこうしている・・・つまり、ウィルを作り出した術式とは別に何かがあったということだ。あるいは、ウィルを作り出す前の段階の術式こそが重要だったのかもわからん」
考えが進む中で、とにかくいつの間にか自分が状況によっては殺されてもおかしくなかったという事実に少しだけ康太は戦慄する。
運が悪いのは相変わらずなのだが、毎度毎度首の皮一枚繋がっているぎりぎりっぷりである。
「神父の周りはとにかく調べてあるんだよ・・・彼の場合はうちの所属だったからね・・・調べるのはそこまで難しくはなかった」
「だが何も出てこなかったと」
「そういうこと・・・つまり書物などに残されている魔導書ではなく、彼の頭の中にあったことこそが重要だったと」
「・・・その死体は?中には死体の記憶を読むことのできる魔術師もいるだろう?」
そんな魔術もあるのかと、康太たちは少し驚いていたが、支部長は小さく首を横に振った。
「殺された当初はそんなことわからないからね・・・もう時間が経ちすぎている。とっくに処理した後だよ・・・それに死体の記憶を読むというか、物体の記憶を読むくらいしかできないよ?深くまでは知ることはできないさ」
所謂サイコメトリーと呼ばれるような魔術があるらしい。物体そのものに残された事実のみの記録を読み取る魔術。
康太の魔術によって廃人同然になっていても殺したということはかなりの重要人物だったのかもしれないが、すでに死んでしまっているのだからどうしようもない。




