スマートな解決法
だが支部長は支部内に裏切者がいることの可能性については告げなかった。単純に本部から知らされていないだけなのか、それとも意図的に話さなかったのかは不明である。
ここで康太や文が口を挟むわけにはいかないだろう。
「ここで全員にこのことを伝えたのは、今まで起きた事件、特に不完全燃焼に近い形で終わった事件が何らかのつながりを示すかもしれないということを知ってもらいたかったからであり、情報収集のためでもある。特に禁術などが関わった事件は重要性が高いものと思ってほしい。それらの報告はすでに終わっているかもしれないが、今一度、思い出せることがあったらすべて思い出して報告してほしい」
情報の共有、ほんの些細な情報でもいいから集めてそこから調べていこうということなのだろう。
地道ではあるがそれ以外にこちらに調べる手はない。マフィアの金の動きに関してはマウ・フォウが直接動いている。背後の組織関係に関しては彼と情報収集班が動くのが最も手っ取り早いだろう。
他の支部は外堀を埋める。今まで起きた事件の中で、どれだけの数が関連性が高く、またそれだけのつながりを見せるのか。それによっては危険度は大きく変わる。
「不完全燃焼かぁ・・・腑に落ちない事件ならいくつもあったけどな」
「いろいろあるわね。この間のウサギのそれなんてまさにそうじゃない?結局一匹見つからなかったし、実行犯捕まえただけで他にも二人協力者がいたっぽいし」
「あとどんなのがあったっけ・・・?もう覚えてないんだけど・・・」
今まで事件はいろいろ関わってきた康太たちだが、その一つ一つを完璧に覚えているかといわれるとそうでもない。
実際に関わってきた中でもそのほとんどがある程度解決したらそのあとは放置してきたものばかりだ。
康太と文は二人とも面倒ごとに首を突っ込みたがるような性分ではないために、理由がなければ基本的にかかわろうとしない。そのため事件一つ一つに対する思い入れや記憶が非常にあいまいなのである。
報告書を読み直せばそのあたりは思い出すかもしれないが、それでも完璧に思い出せるかは怪しいところである。
「あとあれだ、呪いのビデオ。あれを奪おうとした連中が結局どういう輩なのかわからなかったな・・・本部の連中なら知ってるんだろうけど」
「あぁ・・・そういえばまともに聞いてなかったわね・・・もしかしたら連中も今回のそれみたいに組織の一員だったりするのかしら」
「面倒くさいな・・・あの中に結構強い奴いたからなぁ・・・」
康太はかつて戦って勝てないと感じた魔術師のことを思い出していた。あの時は消耗していたために勝てないと感じたが、万全の状態でやればどうなっていたかはわからない。
状況からして面倒なことになり始めている、いや、すでになり始めているのではなくなっているというべきなのだろう。
今まで気づけなかっただけで、それらがすべて繋がっている可能性だってあるのだ。それを裏で操っている者がいたとしたら、それは恐るべき力を持ったものなのかもしれない。
そんな中、文は康太の体にまとわりついているウィルを見て思い出す。
「そういえばさ、ウィルを作った魔術師も確か誰かに殺されてたわよね?」
「・・・あぁそういえば・・・ひょっとしてあれか、口封じか?」
「確かウィルも禁術関係の技術を使われてるのよね?十分考えられない?」
ウィルは自分の話をされていることを理解しているのか、康太の外套とほぼ同化しながらもわずかに震えている。
かつてウィルを作った魔術師、協会の門を管理していた神父は康太によって植物状態にされ、何者かによって殺害されている。
ウィル自体が禁術によって作られているために、そう考えると無関係ともいえない状況である。
掘り返せば掘り返すほどに自分たちも関係があるのではないかと思えてくるだけに、康太と文は目を合わせて少し考えてしまっていた。
そして面倒ごとの中心にいるであろう小百合の方を二人同時に見る。
「師匠はそういうのありますか?不可解な・・・微妙にぼんやりした感じで終わった事件とか面倒ごとって」
「ん・・・私の場合たいてい全部壊して解決するからな。言葉を借りるようだが全体的にぼんやりさせるのが私の解決方法だ」
「あぁ・・・そういえばそうでしたね。とにかく壊して何となくなぁなぁで終わらせるのが師匠のやり方でしたね」
とりあえず壊す。それが小百合のもっとも簡単で確実な解決方法なのだ。
万物みな壊せば解決できる。何かを奪い合っているのであれば奪い合いをしている者たちを壊すか、奪い合いの対象となっているものを壊せば解決する。
何者かが憎いから殺害しようとするのであれば、その対象を先に破壊してしまえばいい。あるいは復讐しようとしているものを倒せば事足りる。
誰かを助けようと問題を起こそうとしているのであれば、その誰かを先に始末してしまえば目的がなくなる。結果的に解決したといえるだろう。
破壊によって解決できないことなどない。そういうかのように小百合は胸を張った状態で堂々としていた。
もやもやした状態で終わった、所謂不完全燃焼の事件の顛末、小百合にとってはそれは日常茶飯事なのかもしれない。
真犯人もわからず、何が目的だったのかもわからず、どのような被害が出たのか、どのような結末を迎えたのかもわからない。
とにかく壊すことでそのあたりをもやっと終わらせる。それこそが小百合の一番楽な解決方法であるらしい。
確かに悩まない分楽だろう。それがスマートかどうかはさておいて。




