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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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一般人の弱さ

広州の旧都の一角にあるその建物は、地元の人間で近づくものは極端に少なかった。


郵便配達などの必要不可欠なものでさえも可能な限り入り口に置いていくなどという対処をされかねないほどの危険な建物。


それは周囲の人間からも、堅気ではない所謂筋ものの人間が集う場所であるという認識を受けているのが原因である。


さして治安のよくない旧都の中にありながら、その旧都の人間からすら近寄りたくないと思われるようなその建物、そんな中にいる者たちは当然ながらまともな部類の人種ではない。


良くも悪くも荒くれもの。中には頭の切れるものもいるが、ほとんどは血の気を持て余し、喧騒と暴力を望むものばかりだ。


組織における上下を重んじる彼らだが、その本質は『危険』の一言に尽きる。その建物に攻撃を仕掛けようものなら、一族郎党皆殺しにされてもおかしくないという話が一般人にも届く程度には、この建物の中の組織は危険なものだった。


建物の中にいる構成員の行動は様々だ。ポーカーや麻雀などのかけ事に興じながら今後の仕事について話しているものもいる。武器を手にし見回りや見張りをしている者もいる。金勘定に余念のないものや、出世の道を模索するものまで。


そんな千差万別といってもいい構成員の行動が、この数十秒後にすべて一致することとなる。


耳をふさぎたくなるほどの轟音、そして部屋全体を、いや建物全体を揺らすほどの衝撃、それがいったい何だったのか、構成員のほとんどが正しく理解できてはいなかった。


だが決して耐久度が低いとは言えない建物に響く衝撃と轟音。爆発にも似たその衝撃を感じ取り、先ほどまでの退屈で平穏な時間に戻るような危機感覚を持っている構成員は一人もいなかった。

即座に武器を取り何が起きたのかを確認しようとする。


音の正体が何であるのかは不明だが、その音がいったいどこから響いてきたのかはそれぞれがなんとなく感じ取っていた。


下の階層から聞こえてきた音だとほとんどのものが感じ取り、それぞれが窓から外を覗こうとしたり、下の階段へと走る中、その光景を見た者が何人かいた。


巨大なトラック、十トンクラスのトラックがなぜかその建物の一階部分に正面からぶつかっていたのである。


このような裏通りにあのような大きなトラックが通ることなどまずはない。抜け道にするような道でもないし、わざわざ細い道を通るだけの理由がない。


大通りから一直線にこの建物めがけて突進してきたのだと、それを見たほとんどの構成員が理解していた。


周囲から怒号が聞こえてくる。


『ふざけたまねをしたやつを見つけ出してぶち殺せ!』『どこかの組織の回し者だ!』『被害報告を上げろ!』『全員戦闘準備だ!』


聞こえてくる声はすべて攻撃的なものばかりだ。だがそんな攻撃的な声の中に混じって聞こえてくる音があった。


弾けるような、強く弾かれるような炸裂音。それが銃を撃った時の音であると気付けたのは構成員たちが常日頃からその武器の恩恵を得ていたことが大きい。


発砲音。どのような状況なのかほとんどのものがまだ正確には理解していないが、発砲音が聞こえてきたということもあってほとんどのものが緊急時であり、戦闘態勢に入るべき案件なのだと理解していた。


徐々に多くなっていく発砲音に、自分たちがいる場所が安全なのか危険なのかの正常な判断が徐々に失われていく。


敵の数は、誰が発砲しているのか、なぜ発砲しているのか、優勢なのか劣勢なのか。


ありとあらゆる考えが頭の中をめぐり、そして徐々に構成員たちの思考能力は落ちて行っていた。


体の力が抜けていき、原因となった者たちのもとへと駆け付け撃ち殺してやらなければいけない。それほどの決意を持って臨んでも、その体はその決意とは裏腹に徐々にいうことを聞かなくなっていく。


先ほどまでまるで撃ち合いをしているがごとくリズミカルだった発砲音は、今度は単調なものへと変化していた。


その変化こそが危険なものであるのだと、一部の構成員は理解していた。


一方的に殺されている。そう思っても不思議はない単調な音だった。


いったい何が起きているのか、体に力が入らないのは何かガスでも吸わされたのではないかと、とっさにハンカチを口に当てるものもいた。


単調な発砲音が続き、いったい何発の発砲音を聞いただろうか、その構成員の前に銃声の音源がやってきていた。


手には中国などでよく仕入れられているアサルトライフル。そしてそのそばには槍を持った一人の男。


その構成員の目には目を疑いたくなるような光景が広がっていた。仮面をつけた男女、そして男の方のすぐ後ろには赤黒い謎の物体が追従するようについていっているのだ。


これは夢か?否、現実である。いやこれは夢だ、早く夢から覚めなければ。


大まかこの場にいて、その姿を見ていた者たちの大まかな反応がこれだった。


現実を直視し、自分ができないことをやろうとしているその人物に畏怖を感じる者。現実を直視できずに目の前に迫る現実から逃げる者。


そしてそれは、その体に強い激痛が走ってもなお続くものもいた。


それほどまでにその光景は理解しがたいものだったのだ。それらが全員の目に映るまで、あと数十分の話である。


小百合と康太がやったことは実にシンプルだった。


トラックを運転して建物に突っ込ませ、まず正面へと意識を集中させる。そして気が動転し、同時に戦闘態勢へと移行した状態で康太のDの慟哭によって徐々に生命力を吸い上げていく。


興奮状態に陥らせることによって、自らの体の状態を正確に把握できないようにすると同時に、意識を正面玄関の方へとむけることで裏側から容易に侵入することができた。


喧騒が響く中で小百合は的確にその場にいる構成員を撃ちぬいていった。一人に対して使う弾丸はきっかり四発。


両肩、両膝。戦えなくすることだけを目的とした射撃に、康太は目を奪われていた。


小百合自身そこまで銃が好きではないということは聞いていた。だが好きではないというだけで使えないわけではないのだ。


それどころか動く相手に的確に当てていく。康太の放つDの慟哭の効果が出てきたおかげで徐々に相手の動きが鈍くなっていくと、その精度はさらに上がっていっているように感じられた。


「久しぶりに使うと感覚がつかめんな・・・こんなものだったか・・・」


「銃の反動ってほとんどないんですか?平気でパンパン撃ってますけど」


「そこまでではない。お前でも普通に撃てるだろうよ」


曲がり角、あるいは部屋の中、階段、明らかに警戒し、視界確保や安全確認をしなければいけないような場所でも小百合は平然と進んでいく。


そして決死の奇襲をかけようとしてくる相手が見えているかのように先に銃口を向け、その銃を分解すると同時に構成員の肩を撃ちぬいていく。


圧倒的な初動の差。この建物に存在している者すべての位置が把握できているかのように小百合は銃を向ける。


「・・・師匠、本当に索敵の魔術使えないんですよね?」


「そうだが、なぜだ?」


「いえ・・・動いてるのを見ると全くそのようには見えなくて・・・先読みとも違いますし・・・気配だけで察知しているとはとても・・・」


二つの目だけでものを見ているとは思えないほどの反応速度、両の耳で音を聞いているだけとは思えないほどの対応範囲、明らかにそれらはただの人間の反応ではない。


無論彼女は魔術師だ。ただの人間ではないのは間違いないのだが、小百合は索敵に関してはほとんど人間と同じだ。


索敵という、本来魔術師が扱える周囲の状態を確認するための魔術を小百合は使うことができない。


破壊の魔術しか覚えていない、覚えることができない彼女は強化の魔術を扱うことさえもできない。

そのため視覚を強化することも聴力を強化することも、身体能力を強化することもできない。


見えるものも聞こえるものも、そしてその体でできることも、普通の人間とほとんど何も変わらない。


変わっているとすれば、彼女は長い時間をかけて魔術師に鍛え上げられた、この一点に尽きるだろう。


破壊しか覚えられないからこそ教え込まれた、ずば抜けた感性。敵意や殺気を感じ取り反応できる察知能力と一種の予知にも近い勘。


それは努力でどうこうできるレベルをはるかに超えている。良くも悪くも、小百合にはその才能があったのだろう。


他人から見ればうらやむようなものでも、本人からすれば『こんなものならばもっとほかの才能がよかったよ』ということだろう。


どんなに相手が隠れていても、どんなに相手が奇襲しようと襲い掛かっても、彼女の銃口は相手が出てくる場所を簡単に割り出す。


飛び出してくる前にすでに銃口は向けられている。その姿を現しかけた瞬間にはすでに指は引き金を動かしている。


その光景を見て、康太だけではない。他の魔術師たちも驚愕に目を奪われている者が多い。


小百合が行動不能にした者たちを攻撃する者、記憶を消すもの、小百合が倒していった場所以外の敵を倒している者、様々だがその技術に舌を巻いている者がほとんどだった。


相手が一般人ということもあって、ほとんど一方的な戦いになりつつあった。あらかじめ準備をしてきたからこその優位性であることは理解していたが、武装している一般人とここまでの違いがあるのかと康太は少しだけ複雑な気分だった。


康太のDの慟哭によって相手の動きはかなり鈍っている。体は重く、思うように体は動かないだろう。

そういった悪条件が重なっているにしても、この展開はあまりにも一方的すぎた。


「・・・一般人ってこんなに弱かったんですか・・・?」


「今更だな・・・こいつらを一般人として見ていいのかは正直微妙なところだが・・・少なくとも私の敵ではない・・・無論お前にとってもな」


「・・・相手が銃でもですか」


「銃だからこそだ。お前も分解が使えるならわかるだろう?」


康太や小百合の覚えている分解の魔術は部品のあるものを分解することができる。道具を簡単に分解できてしまうといえばわかりやすいだろうか。


銃も道具の一つだ。武器である前に道具である銃は分解の魔術で簡単にバラバラにできてしまう。


相手が銃を持っているということは逆に言えばその銃以外に攻撃手段がない可能性が高い。


銃さえ奪ってしまえばただの人。銃に頼っていた人間ほどその落差は激しくなるだろう。この状況はある意味仕方がないのかもわからない。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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