作戦開始のカウントダウン
作戦開始時刻、康太たちはすべての準備を終えて待機していた。
すでにほかの支部との作戦決行時刻は合わせてある。中国という広い国土のせいもあって時差による若干の誤差はあるが、数分程度のものである。
「さて諸君、魔術の隠匿という魔術協会の本分ともいうべき仕事を行う時が来た。君たちが行う行動は決して正義ではない。だが君たちの行動こそが魔術の平穏には必要なものであることをよく理解してほしい!」
支部長は言葉を飾らずにその場にいた全員に通達していた。正義ではない。魔術師は正義の立場にいない。
かつて康太の兄弟子である真理も同じようなことを言っていた。魔術師は正義の側にはいない。むしろ悪の側にいるのだと。
「今回、魔術協会の人間の手によって引き起こされたこの作戦、僕らは失敗するわけにはいかない!ここで失敗すれば、さらに多くのものを消さなければいけない!僕らはここで犠牲者を打ち止めにするべく戦うのだ!理不尽であろうとも、それが魔術の本質だ!」
一方的な理由で戦いを挑む。向こうの都合など無視して殺そうとする。確かに理不尽だ。かつて康太が感じたそれと同じように、今度は康太がそれを与える側になる。
手に馴染む槍の感触を確かめながら、康太は魔術師装束の中身を一つずつ確認していく。
動作不良を起こしている部品はない。すべて正常に機能しているようだった。
「一人の魔術師として、この作戦に参加することに重い意味を僕は感じている。ここで僕がいることこそ意味があると考える。この戦いに重く、大きな価値があるのだと知らしめてほしい。諸君の健闘に期待する!」
支部長の演説が終わったところで康太たちは立ち上がった。目標までの距離はそう遠くはない。
時刻は夕方。すでに日は傾きこれからどんどん暗くなっていくだろう。
魔術師が活動するにはもってこいの時間帯となる。そんな中、康太は徐々に集中を高めていた。
「ビー、気をつけなさいよ?相手は銃を持ってるんだから」
「わかってる。怪我はしないようにするって。そっちも流れ弾には気をつけろよ?」
「わかってるわ。屋外にまで飛んでくる弾丸があったらもうある程度運要素が強くなっちゃうけど・・・まぁ仕方ないわね」
屋内での戦いが基本であると想定されている今回の戦いだが、屋外にまで弾丸が飛んでこないという保証はない。
そうなればあとは運だ。土御門の二人の予知にも期待したいところではあるが、過剰な期待は彼らの負担にしかならないことを康太と文は理解していた。
支部長の声でカウントダウンが開始される中、文は康太から離れ自らも作戦の班に交じりながら集中を高めていた。
一言二言程度しか交わしていないが、二人の間にはこの程度のやり取りで十分だった。
適度に肩の力を抜き、リラックスに近い状態になった二人の集中力はかなり高いレベルまで引き上げられている。
「ビー、雑兵は任せたぞ」
「了解です師匠。露払いは任されました」
康太は自らの肩に槍を担ぐと、大きく深呼吸する。すでに康太の腹は決まっていた。これが吉と出るか凶と出るかは不明だが、康太はある種の覚悟をすでに決めていた。
「師匠はうまく相手を倒してくださいよ?一応隠匿が目的なんですからね」
「言われなくてもわかっている・・・誰にものを言っているつもりだ」
「師匠だから心配なんですよ。勝手に無茶苦茶しそうだから」
「ふむ・・・ではあらかじめ宣言したうえで無茶苦茶をすればいいのか」
「・・・有言実行も勘弁してください」
なんて嫌な有言実行だと思いながらも、康太は支部長のカウントダウンに耳を傾ける。
意識を奥底に沈め、集中を高めていく。
襲い来る弾丸、イメージなどできようはずもない。康太は今まで弾丸と対峙したことなどないのだから。
だがそれでも、今の康太には対処できる自信があった。それは小百合によって培われた実戦の勘とでもいえばいいだろうか。肌から感じる周囲の緊張感が、これから対峙するであろう人種の脅威が、康太に大したことはないと告げてくる。
「・・・その様子だと何も心配は要らんらしいな」
どうやら小百合なりに、殺人を犯す目的の作戦に参加する康太のことを案じてるのか、少しだけ目を細めて集中状態にある康太を見ていた。
康太から感じられる殺気に、小百合はその心配が杞憂であることがわかると薄く笑みを浮かべていた。
「師匠に心配してもらえるとは、明日は雪ですかね?」
「この馬鹿弟子が・・・その減らず口がいつまで続くか見ものだ」
「心配ご無用です。始まれば自然と口数も減りますよ」
相手に情報を与える必要もない。康太は戦いが始まれば自然と口数が減るタイプであるため、今回もそうであると確信していた。
「2・・・1・・・0!作戦開始!」
支部長の号令と同時に康太たちは動き出した。
これから始まる虐殺にも近い行動を前に、康太の思考は全く熱を持っていなかった。動揺もなく興奮もない。極度の集中状態。
康太と小百合は多くの魔術師の視線を浴びながら動き出した。




