平和的な作戦
他支部との合同の打ち合わせを終えた康太たちは、後日今回の作戦に参加する魔術師全員にこの話を資料とともに伝達していた。
地形情報、そして襲撃する拠点の見取り図、構成員の人数や配置、装備や物品の状態。ありとあらゆる意味で重要な情報が一気に集まったことで支部内では作戦の立案が白熱していた。
「やはりここは一気に突入するべきでは?動きが遅くなれば遅くなるほど面倒なことになる。内部に数人を配置し、地上と屋上から同時攻略するのはどうだろうか」
「相手がどれくらい警戒しているかにもよるだろう。何よりいきなり屋上から攻撃を仕掛けては不審がられるぞ。ある程度派手に動かないと抗争には見えないんじゃないか?」
「正面突破だと危険が多すぎる。相手は銃を持っているんだぞ?こちらにも対抗策があるとはいえ絶対ではない。余計なリスクを負うべきではないだろう」
「いっそのこと建物ごと爆破するのはどうだ?マフィアの抗争っぽいだろう?下準備で何人かが侵入する必要があるが」
「爆破では内部にある資料を消去できないだろう。情報を淘汰するという目的があることを忘れるな」
あぁでもないこうでもないと次々に出てくる意見と攻略するために用意された資料の数々に、その場にいる康太たちは眉をひそめていた。
全て的を射ているのだが、どこか少しだけ的を外している。当たらずとも遠からずという言葉がこれほど適している状況も珍しい。
「なかなか行き詰ってきたね・・・情報が多いだけにどういう手段でも間違いじゃないだけに難しい・・・」
「アマネさん的にはどうですか?守りを得意とする人種からするとどういう攻められ方のほうが嫌です?」
アマネは防御に特化した魔術師だ。守りに長けているということはそれだけ守るときの重要なことを理解しているということでもあり、逆に守っている側としてどのようなことをされるのがいやかよくわかっているだろう。
常に攻撃のことを考えている康太たちのような人種からは出てこないような意見が出ることを期待していた。
「んー・・・やっぱり意識の隙を突かれると困るよね。まさかそっちから攻撃が来るの!?とかそんな攻撃ありかよ!?とかそういうことがたまにあるよ」
「やっぱりそういうのがいいですか・・・相手が考えているその裏をかければいいわけですね」
「・・・っていうかマフィアがどんなことを考えているのかなんてわかりようがないよね。ぶっちゃけどういう攻撃だと動揺するんだろうね」
普段からして危険に身を置いている康太たちも人のことをあまり言えないが、マフィアといえば非合法組織だ。
表にも裏にも敵が多い。そんな中で常に警戒している彼らがどのような攻撃でなら動揺し、統率を乱すのか、一般人である康太たちは想像することもできなかった
「クラリスはどうだい?何か意見はあるかな?」
この中で最も攻撃に秀でているであろう魔術師に意見を問いかける支部長、そして全員が一度議論をやめ小百合のほうに視線を向けていた。
「・・・組織が最も崩れやすくなる状況は二つ、頭を失った瞬間と、味方が信じられなくなった瞬間だ。私ならそれを狙う」
「・・・拠点のトップをいきなり狙うのかい?なかなかハードだね」
「相手が魔術師ならそれも難しかっただろう。だが相手はただの人間だ。不可能ではない。そして私たちは魔術師だ、相手に成りすますのは不可能ではない・・・良くも悪くも同じアジア系人種・・・もぐりこむのはさして難しくない・・・問題は言語だが」
そういいながら小百合は以前のように部屋の隅でこちらの様子を眺めているアリスのほうに視線を向ける。
今回言語に関してすべて通訳して見せるといったアリス、どの程度まで協力するのかは彼女の匙加減次第だ。
「まぁ・・・言語に関しては完璧に向こうの言葉に直してやろう。頼まれたからには仕事はこなしてやる。多少の方言も再現してやるぞ」
「ということだ。あとは外見の問題だが・・・構成員の顔をいくつか確認できれば、そいつに成りすますこともできるだろう」
「なるほど・・・内側から崩すのか・・・同時にトップを倒す・・・」
「トップを倒すだけではだめだな・・・おそらくこの拠点に何人か幹部がいるだろう。そいつらをすべて始末しておくくらいではないとこういう輩は崩れん」
まるでどこかで似たような連中を相手にしたことがあるような言い回しに、康太たちは眉をひそめていた。
戦闘経験で言えば支部だけではなく本部でもトップクラスに入るであろう小百合の言葉だ。かなり信憑性がある。
周りの魔術師もなるほどと納得することしかできていない。
「師匠、それだと変装して幹部たちを倒した後、あるいは倒している場面をほかの相手に見せつけていなきゃいけないですよ?そのほうが面倒では?」
「そこからが重要だ。組織の中に裏切者がいる。どんな目的か、何が理由か・・・良くも悪くも裏組織だ、後ろめたいことも裏切られる理由も山ほどあるだろう・・・そこから少しずつ瓦解させていくのも手だ・・・まぁ面倒くさいから私はやらんがな」
自分から提案しておいて面倒くさいから自分はやらないというのはいかにも小百合らしいというべきだろうか。
だがこうしていくつかの作戦を提案してくれているだけ、彼女なりに協力しようとしている姿勢が見て取れる。
「相変わらずいやなことを考えるね君は・・・もうちょっと平和的な方法はないかな?」
「平和的に皆殺しをしろというのならやってやるが・・・それだと銃弾で殺すということはできんぞ?」
「平和っていう言葉の意味を考えてしまう深い言葉をありがとう・・・皆殺しって時点で平和じゃないと思うんだけど」
「何を言う、敵がいなくなれば平和だ。敵がいなくなるまで殺せば真の平和は訪れるというものだ」
小百合の恐ろしい平和論にこの場にいた魔術師たちは辟易してしまう。何をどのように過ごしたらこんな危険思想を持った人間になるのか、全員不思議でしょうがなかった。




