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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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筋が通らなくとも

「攻略の方法はある程度めどが立ったね・・・あとは決行日を待つばかり・・・と言いたいんだけど・・・」


その日の支部における打ち合わせが終わった後で、支部長はそういいながら部屋の中を見渡す。


そこにいるのは小百合、康太、文、アリス、倉敷、そして土御門の双子だけである。


「クラリス・・・言っても聞かないだろうけど・・・一応頼むよ・・・どうかその二人を連れていくのはやめてくれないかな?」


支部長の申し訳なさそうな声が支部長室の中に満ちる。その場にいた全員の視線が土御門の二人に向かい、そして小百合のもとへと移る。


「こいつらの訓練やらを押し付けておきながら、経験だといって実戦を積ませようとしても横から口を出す・・・随分と傲慢だな・・・」


「・・・勝手を言っているのはわかっているさ・・・どんな形であれ君に預けた話だ。僕がいまさら口を出すのは筋違い・・・それは理解している。だがそれを踏まえたうえで頼みたい。お願いだ」


命令ではなくあえてお願いなどという低い立場、おそらくは支部長としてではなく、一人の個人として、同じ立ち位置にいる者としての言葉に小百合は舌打ちをする。


万が一にも土御門の双子に怪我があってはならない。そのことくらいは小百合も理解している。


四法都連盟の一角、土御門は小百合にとってもお得意様なのだ。取引相手との関係を悪くするほど小百合も馬鹿ではない。


「こいつらが強くなるうえで、必要なのは実戦だ・・・参加せずとも、実戦を見せるだけでも得るものはあるだろう」


「だから連れていくと?ならもっと安全な実戦でもよかっただろう?君の取引とかそういう話でもよかったはずだ」


「普通の魔術師ならばそれでもよかっただろうな・・・だがこいつらは普通ではだめだ。普通の鍛え方ではだめだ」


まるでこの双子が普通ではないとでもいうかのような小百合の言葉に、当の本人たちは目を丸くし顔を見合わせてしまっていた。


「こいつらはいずれ一流の魔術師になるだろう。私やお前をしのぐ魔術師になる。そんな奴に生ぬるい現場を見せてなんになる。こいつらには一度、魔術師が作る地獄を見せておく必要があるんだ」


「・・・それは今必要なのかい?せめてもう少し実力をつけてからでも」


「今必要なんだ。これから伸びる、未熟だからこそ見せる必要がある。弱い今だからこそ見せる価値がある」


未熟である今だからこそ。力なく弱い今だからこそ。小百合の言葉に支部長の視線は土御門の二人から康太の方へと移る。


「なら、ブライトビーはどうなんだい?彼も・・・君からすればまだ未熟だろう?彼も今回地獄とやらを見せるのかい?」


支部長の言うように康太も魔術師としてはまだ未熟者の部類だ。支部長からの信頼は厚いとはいえ、小百合から見ればひよっ子もいいところである。


だが小百合はその言葉を失笑で返した。


「私の弟子をなめるな。こいつはすでに地獄を見ている・・・この程度の鉄火場で動揺するほど軟に鍛えたつもりはない」


康太の見た地獄、小百合の言っているそれがデビットとウィルにまつわることであるということをその場にいたほとんどのものが理解できていた。


三日間味わい続けた死の体感、そしてウィルの中に閉じ込められている魂たちの悲鳴、康太はそれらすべてを疑似的に経験し、感じ取った。


普通の魔術師では知ることすらできない地獄を、康太は体験してきた。それが自らの一種の才能であるのがまた不憫なところであるが。


「お前の気持ちもわからんでもない・・・こいつらに万が一があれば、今まで友好的だった四法都連盟との関係が崩れかねないんだ・・・慎重になるのもわかる」


「だったら」


「だからこそだ。いつまでもこいつらを箱の中にしまっておくわけにはいかないんだ。向こうの人間も、それがわかっているから、それを理解したからこいつらをこっちによこしたんだろう?」


今まで晴と明は箱入りという表現が最も似合うほどに大事に育てられてきた。それまでの経験がすべて無駄だったとは小百合も言わないが、これから魔術師として成長していくためには、温室である土御門という家そのものから出なければいけないのだ。


守ってくれる者はいない。自分たちだけが信じられるようなそんな状況にならないといけないのだ。


「・・・君は今回彼らを守らないのかい?」


「私に誰かを守れるとでも思っているのか?私は壊すことしかできん魔術師だぞ」


小百合の言葉にはどこか自嘲めいたものがあった。守るということを小百合はしない。いつだって壊して、傷つけて進んできた。


だからこそ今の力を有している。支部長だってそれを否定するつもりはない。だがだからと言って放り投げるにはあまりにもリスクが高いのだ。


「それが嫌ならそいつらを守るためだけに人員を動かせばいい・・・だが言っておく・・・そんなことをしていたらお前はいつまでもこいつらに実戦を積ませることはできんぞ。いつまでも理由をつけて、学生時代が終わるまでずっと誰かの後ろで戦いを見学させることになるぞ」


勝てない相手から逃げることは別にいい。戦いを避けるべく策を弄するのも別にいい。だが別の誰かに戦わないようにさせられることだけはしてはならない。自分で考えていない、それは与えられ、奪われているだけなのだ。


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