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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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合同の打ち合わせ

康太たちが日本支部に集められた翌々日、支部長と日本支部の何人かは本部に足を運び今回の作戦に関する合同の打ち合わせを行っていた。


本部の中にある巨大な会議室。円卓ともいえる丸いテーブル、そしてそれを囲むようにそれぞれの陣営が長テーブルを配置している。


部屋自体の外側には傍聴席のようなものもある。おそらくこの場所は普段本部でも使われている場所なのだろう。


細かいところまで掃除など手入れが行き届いているように感じられた。


その中には小百合と康太の姿もあった。各支部長に加え、各支部五人程度を選別して行われるこの打ち合わせ、いろいろと話をするにあたって戦闘に関することで他の追随を許さない小百合と、小百合を止められる可能性のある康太が選抜されたのである。


残りのメンバーは専属魔術師がほとんど、あと通訳としてアリスがやってきている。


「さて・・・それでは今回の作戦についての打ち合わせを行う・・・が、その前に紹介しておこう。今回日本支部所属の・・・アリシア・メリノスが通訳を買って出てくれた。今私が話している言葉も、各々の言語に翻訳されていることを確認してほしい」


今回の打ち合わせを進めるのは本部の人間だ。本人は英語で話しているつもりなのだろうが、康太たちの耳には日本語に聞こえている。


そして周りの他支部の人間も、きちんと自国語で通訳されていることを確認したのだろう、問題ないという言葉が多方向から聞こえてくる。さすがはアリスというべきだろうかと思いながら康太は周囲を観察していく。


周りの人間の意識はこの場にいるアリスのほうに向いている。いつも通り姿を変えた状態で、日本支部の位置に近い場所に座っている彼女。会議に参加することはないという明確な意思を少し離れた位置に座ることで表していた。


小声でいくつかアリスに対する声が聞こえてくるのを康太はアリスの翻訳を通して確認していた。そして、その意識が自分にも向けられていることを実感していた。


『あれが封印指定の』『初めて見るな』『とてもそうは見えんが』『それに日本支部の』『あれが百七十二号の』『まだ子供のように見えるが』『それに瓦礫のもいるな』『日本支部はずいぶんと主力を出してきたな』


いくつもの言葉を聞いて支部長は複雑そうな表情を仮面の下で作ってはいるものの仮面に隠れてその表情を表に出すことはなかった。


「随分と噂されてますね」


「仕方がないだろう。お前たちはいわば噂の原点だ。日本支部の中でも有名どころが出てきているということもあって主力と勘違いされても仕方がない」


小百合の言葉に康太は疑問符を飛ばす。では本当の主力とはいったい誰なのだろうかと思ってしまうが、そのことは今置いておくべきである。


周りをよく観察すると、康太は各陣営の中で一つ、幹部クラスがいないところがいることに気付いた。

この場には本部長や副本部長などは今のところ姿を見せていないのだ。


本部が動く案件ではあるものの、本部長や副本部長などが動く案件ではないということだろう。


副本部長と多少なりとも縁のある康太からすれば少し気になる話ではあったが、この場にいないのであれば今回の件はそこまで本部の中では大事として取り扱われてはないのだろうという印象を強めた。


「では、各支部の役割を明記した資料が手元にあると思う。各言語に翻訳してあるとはいえ不備があるかもしれない。各々確認してほしい」


康太たちはあらかじめ配布されていた資料に目を通し始める。各陣営の配置、割り振りなどが記載されており、各項目別に作られた資料だ。


写真や別紙として参考資料を載せており、とても見やすく、わかりやすくなるように工夫されているのがわかる。


「なお、この資料は日本支部のマウ・フォウ氏の調査をもとに、中国支部と本部の合同で作成した資料となっている。協力してくれた各員、各陣営に感謝を」


この資料の大本となった調査をマウ・フォウが行ったという事実に、今更ながらあの人は本当にすごい調査能力を持っているなと驚き、半ばあきれていた。


自身の目標がなくなってしまったからこそ、盲目的に働いているのかもわからないが、どちらにせよこれだけの調査をするのは並大抵のことではなかっただろう。


「ではまず概要から説明に移る。各支部ごとにすでにある程度の打ち合わせは済んでいるだろうからあくまで概要を話す」


司会進行を任されている魔術師がとりあえず今回の概要を説明していく中、ほとんどの人間が資料に目を通していた。


すでに聞いた話を聞き直すよりは、新しく配布された資料などに目を通したほうがよほど有意義だと思ったのだろう。


康太と小百合も資料を読み、現地の情報などを頭に入れ続けていた。


そして資料の中には相手組織が所有している不動産、薬物、武器、債券、株式などの情報が記載されている。


これはいったいどうやって調べたのだろうかと康太は不思議に思っていた中、司会進行の魔術師の概要の説明が終了する。


「以上が概要となる。現時点で質問などはあるだろうか?」


その問いの中、いくつかの手が上がる。その中から一人の人間を指さすと、その人物は立ち上がって全員をゆっくりと見渡した。


「この資料の中には武器などのデータもあるが、このデータは信頼のおける情報だろうか?種類や数、かなり記載されているように思えるが」


「資料には記載されてはいないが、そのデータは二カ月ほど前のものだ。百パーセント同じものだとは思わないでほしい。あくまで参考のデータだ。だがかなりそれに近い量が保有されているであろうと思われる。なお、このデータは私見だがかなり信頼のおけるものであると思われる。この資料には記載しなかったが、流入の経路、識別番号の有無、弾丸の種類や数、仕入れの詳細なども調べてくれていたのだ」


「・・・了解した。頭に入れておこう」


武器などのデータは実際に戦闘をする人間からすれば重要なものだ。二カ月前とはいえそこまで大幅に数が変化するとも思えない。


まさかその武器の仕入れ先なども調査済みとは思わなかった。このデータはそれなり以上に信頼のおけるデータなのだろう。本当にどうやって調べたのか気になるところである。


「それでは各方面の役割について説明しておこう。資料にも記載されている通り、今回は各支部によって攻略してもらう場所が異なる。本部の人間と中国支部の人間は各支部のフォローと連絡役に従事してもらうことになる。詳しくは資料に目を通してほしい」


康太たち日本支部はわかっていたことだが広州の支部を攻略する手はずとなっていた。組織の建物の見取り図、周辺の地図や周りの建物の詳細なども資料には記載されている。


人通りの有無、最寄りの教会の位置なども詳しく載っているため、これだけで十分に攻略作戦を考えることができそうだった。


「中国支部はどこも攻略しないんですね・・・ちょっと意外でした」


「仕方がないよ、今回は中国支部の管轄内でのことだからね・・・万が一彼らの支部の中に組織の一員がいたら・・・情けをかける可能性があるだろう?情報という流動しやすいものを止めようとしている僕らからすれば、その情けは致命的だ」


「今回の配置を決めたのって・・・本部ですか?」


「そうだよ。一番客観的に人的配置ができるっていうことで本部の人間が作戦の立案なんかは担当している。今回の場合状況が状況だからね」


身内の不始末は身内で、可能ならばそうしたいところだったのだろうが、万が一組織の構成員がいた場合、身内に対して情けをかける可能性がある。


そうするとせっかく押しとどめた情報がまた流動してしまう可能性だってあるのだ。今回のような作戦行動をとる場合、中国支部は裏方に回ったほうがいいと本部は判断したのだろう。


他支部を巻き込んでいろいろとやらかしている人間が所属しているのだ。それも無理からぬ話だろう。


「そういえば・・・今回の事件の発端の・・・えっと・・・情報をやり取りさせてた魔術師っていうのはどうなったんですか?」


「あぁ・・・そういえば言っていなかったね・・・彼はもう捕縛されているよ。本部の人間が直接出張っていたらしい。今回のはその後始末ってわけさ」


支部長の言葉になるほどなと康太は眉を顰める。お世辞にもあまり良い報告とは言えなかったが、少なくともあの時逃げていた魔術師が出てくるということはなさそうである。


「各拠点における魔術師の所在に関しても資料に記載してある。当然ではあるが、協会所属の魔術師に関しては当日、協会にて一時的に身柄を拘束する手はずとなっている。これは本人たちも了承済みのことだ」


三千人もの規模ともなれば、所属している魔術師も一人だけということはなかったのだろう。


協会に所属している魔術師の中で、そのマフィアの構成員であった魔術師にはすでに話が通っているらしい。


事情が事情なだけに、その魔術師たちも納得済みなのだろうが自分の所属していた組織を攻撃されるのを見ているしかないというのは複雑な気分だろう。


「なお・・・一応調査し、報告されていないとはいえ協会に所属していない魔術師との交戦も十分に考えられる。十分注意すること」


協会に所属している魔術師自体には交戦しないように対策することができるが、協会に所属していない魔術師に関してはその限りではない。


注意するとはいえ、それ以上のことができないのが現状なのだろう。


「中国にも協会に所属していない魔術師っているんですね」


「当たり前だ。日本で言うところの四法都連盟のような存在はほかの国にもある。国独自の伝統的な魔術を守るとでも言えばいいか・・・門外不出の魔術を取り扱っている魔術師は多い」


「四法都連盟なら予知が有名だね。他の国にもそれぞれ独自の技術を持った魔術師の組織は結構いるよ。ただやっぱりだけど、規模はそれなりになっちゃうけどね。今回の場合、そのマフィアが裏でその魔術師組織を支援している可能性が無きにしも非ずだったのさ」


「そこまでは調べられなかったと」


「それを調べる前に、今回の魔術師の情報漏洩が発覚したからね・・・攻略優先で調査を急いだってマウ・フォウは言っていたよ」


調査をするにあたっても優先順位がある。組織そのものの力がどの程度なのかを最優先で調査したために、裏での関係に関しては調べつくせなかったのだろう。もし時間さえあれば調べられたのだろうが、情報という流通の早いものを止めようとしている時点である程度スピードが優先されたのが悔やまれるところである。


「そして、これはあらかじめ各支部でも議論になったと報告があったが、今回は中国国内での非合法組織間における抗争というのが筋書きとなっているため、可能ならば銃での殺傷が好まれる。なお、銃に関しては現地調達が好ましいため、中国支部の人間にはそのあたりのバックアップを頼むことになる。調達する武器には注意するように」


銃での殺傷が好まれるということもあって、康太たち日本人はかなりやりにくい戦いになりそうだった。

少なくとも康太は銃など取り扱ったことはない。練習しておかないと面倒なことになりそうだなと康太はため息をつく。


「やっぱり現地調達ですか・・・師匠、支部の中で銃の取り扱いってできますか?」


「難しいだろうな。本部に行けば練習は可能だろうが・・・お前の場合そんな必要はないだろう。そもそもお前がいれば今回の攻略作戦ほとんど何とかなる」


「・・・あぁ・・・まぁ確かにそうかもしれませんけど・・・」


康太の使える手段の中で、一般人に対して圧倒的能力を誇る魔術は確かに存在する。


Dの慟哭。あれを使えば対抗策のない一般人はほぼ無力化できるだろう。


「後始末は協会の人間に任せればいい。お前はあくまでいつも通りだ。こんな下らんことでわざわざ出張る必要もあるまい」


くだらないことと小百合は吐き捨てたが、魔術協会にとってはかなり重要なことだ。


相変わらず自分勝手だなと思いながら康太はため息をつく。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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