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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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魔術師の現実

「支部長、他の支部との打ち合わせとかはするんですか?」


「あぁ、明後日予定しているよ。アリシア・メリノス、迷惑をかけるがその時も通訳を頼んでいいだろうか?」


「私が行かなくとも他の通訳ぐらい用意していると思うが・・・?」


「君がいてくれるという事実が重要なんだ。君の存在はかなり大きいからね。無論君がいやだというなら断ってくれても構わない」


支部長はアリスを通訳としてだけではなく、日本支部の魔術師として他の支部に紹介、というかアピールするつもりのようだった。


だが無論アリスの意思を捻じ曲げてまで強引にその方針を取らせるつもりもないらしい。扱いきれない人間の御し方というか接し方はすでに心得があるようで、あまり期待もしてないような思惑が声音からも漏れていた。


アリスは一瞬康太のほうを見る。康太から頼まれたのはあくまで通訳。そういう意味では今度行われる他支部と合同の打ち合わせにも出席して通訳するのが筋というもの。


だがそこにまた支部との思惑が入ってくる場合は少し用向きが異なる。他の支部や日本支部でも通訳を用意するというのであれば無理に参加する必要性は薄くなる。


あとはアリスの気分次第、そして康太のお願いの幅次第ということである。


視線を振られた康太は特にいうことはなく、お前の好きにしろという風にジェスチャーをすると、アリスは小さくうなずいて見せた。


「支部長よ、今回私はビーから通訳を頼まれた。その打ち合わせも参加してやろう」


「おぉ・・・そうか、ありがとう。助かるよ」


「礼なら私ではなく、私に通訳を頼んだビーに言うのだな。こやつから引き受けたことを反故にするのは私としても心苦しい」


「俺は別に気にしてないんだけどな」


一応康太からの依頼があるからしたがうという形をとっているアリスに対して、支部長はそういう信頼関係があるからこそ話をつけられるのだなと二人の関係を正しく理解しつつあった。


「支部長、一ついいでしょうか」


「なんだい?」


「彼女・・・アリシア・メリノスにも全面的に作戦に参加していただくことはできないんですか?日本支部所属なら支部長命令で依頼を出すことも受けさせることも可能だと思いますけど」


今回参加する魔術師の一人、おそらくアリスの正確な立ち位置を知らない魔術師の一人だろう、ただ本部から来た魔術師ということしか知らないからこその発言なのだが、アリスの本当の立ち位置を知っている魔術師からすれば冷や汗ものの発言をして見せた。


当然支部長も、周りの事情を知っている魔術師も一瞬支部長とアリスを見比べて動揺しているが、支部長命令という聞きなれない言葉に康太は首をかしげていた。


そしてその言葉の意味を理解していない康太を見て、文がため息をつきながら横から小声で助け舟を出す。


「各支部の支部長はその支部に所属してる魔術師に対して依頼を出すことと命令を出すことができるのよ。多少強引なやり方でもね・・・あんた前に本部の連中に似たことされかけたでしょ?」


そういわれて康太は思い出す。確かに本部の人間はその気になれば強引に依頼を受けさせることができるようなことを小百合を始めとした魔術師たちが言っていた。


同じことが支部単位でもできるということなのだろう。


「あぁ・・・あぁいう感じか・・・でもうちの支部長はそういうことしないよな」


「人柄っていうのもあるんでしょうね・・・基本的に魔術師の自主性に任せている感じだし・・・」


文の言葉をそのまま表現するかのように、先ほどの魔術師の言葉に支部長はかなり難色を示しているようだった。


「んー・・・彼女に手伝ってもらえばそりゃいろいろ楽になるだろうけど・・・彼女はあくまでブライトビーに頼まれてここにきてるだけだからね。作戦参加の意思がないなら無理に参加させるのは嫌なんだよ」


「ですが、それで作戦の成功率が上がるなら、無理にでも頼むべきでは?」


「それならもっと別に声をかけるべき人はたくさんいるよ?さっき話に出たエアリスもその一人だね。ぶっちゃけアリシア・メリノスに固執する必要がないんだよ」


支部長が声をかけたものの、スケジュールの関係で参加できなかったものはたくさんいる。この場にいない春奈、そしておそらくは奏や幸彦もその一人だろう。


うまいことほかの魔術師を引き合いに出すことでアリスの力を強引に借りるという方法を取らないようにした支部長。おそらく支部長としてもあまりアリスの力には頼りたくないところがあるのだ。


アリスの力は確かに絶大だ。だがアリスは基本いつどこに行くかもわからない存在。はっきり言って常用の戦力とは言えないのである。


扱いにくいが比較的いうことを聞いてくれる小百合や康太たちもいるのだから、そこまで強力な力を支部の中に置いておいても意味がない。


あくまでほかの支部に『日本支部にはアリシア・メリノスがいる』ということを知らしめることができるだけでいいのだ。


支部長はもとより争いを好む性格ではないようで、他の支部に対して牽制ができればいいな程度にしか考えていないようだ。


「彼女が力を持っているなら、もっとうまくそれを扱えるようにサポートするべきでは?」


「彼女は確かに力を持っているけど、その力は彼女自身が得たものだよ。彼女が使いたいように使うだけの権利がある。それを強制するようなことはできない・・・というかぶっちゃけそういうのはクラリスだけで間に合ってるんだよ。これ以上面倒な人が増えるのは僕の許容量を超えるよ」


その言葉にその場の全員が小百合のほうを見て『なるほど・・・』と納得してしまっていた。


引き合いに出された小百合はひどく不本意な様子だった。アリスからすれば支部長の評価が少し上がった瞬間でもある。


「さて・・・話が少しそれたね・・・各支部との連携に関しては明後日の合同打ち合わせで決定することになる。その前にそれぞれ確認しておきたいことはあるかな?」


その問いかけに小百合がゆっくりと手を挙げた。その瞬間全員が嫌な顔をするが、仮面をしていることもあってその表情はわからない。


だが明らかに空気が警戒を含んだことでいやがおうにもその表情を読み取れてしまっていた。


「今回、相手は殺しても問題ないということだが・・・他組織との抗争という形にするのであれば、殺し方は注意するべきか?死体処理などの関係を確認しておきたい」


小百合の問いかけにしては至極もっともなものだった。


話の流れからして、今回そのマフィアの構成員をすべて排除することになるのだろうが、その排除の方法こそがネックなのだ。


一般人の目にも触れさせるということもあって、殺し方にも注意しなければならない。その方法に注意しなければいけないのは、構成員と戦闘を行う魔術師全員だ。


「・・・クラリスの言うように、今回は他組織との抗争によって全員死亡、ないし行方不明になってもらうというのが筋書きだ。確かにそう考えると、殺し方は気をつける必要があるね」


「具体的には・・・やはり銃で殺したほうがいいか?」


「あぁそうか・・・君は刃物をメインにするんだったね・・・確かに、拳銃での戦いのほうが好ましい・・・と・・・」


「銃が使えないというわけではないが、私はやはりこっちのほうが落ち着く。他組織との抗争ということで、発見されない死体というのも多く出るだろう。だがそれがあまりに多いと不信感を抱かせる」


「そうだね・・・なるべくなら拳銃で殺すか、記憶を消す、ないし植物状態にしておかなければならない・・・そのあたりも打ち合わせをしておく必要がありそうだ」


一般人同士の戦いにおいて最も使用されるのが銃だ。抗争でも戦争でも、個人単位で携帯でき、なおかつ攻撃力の高い武器。


逆に言えば拳銃以外で殺されるということの方が珍しいくらいなのだ。


爆発や衝撃などといった一撃で死ぬこともあるだろうが、銃で死ぬのに比べるとかなり少数になる。

その少数が多数を上回るようなことがあれば、当然不信感を与える。


「そして、銃を使うのなら線条痕にも注意が必要だ。それだけで銃を特定される可能性がある」


「そうなのかい?よくドラマとかではそういうの聞くけど・・・実際そういうのはあるのかな?」


「可能性の話をしている。私たちの足がつかないようにするためにはそのあたりを気をつけろと言っているんだ・・・魔術の存在を感知されずに、なおかつ弾丸を使わずに射殺できればそれが一番簡単なんだがな」


弾丸を使わずに射殺する。何と矛盾したことを言うのだろうかとその場の魔術師たちは考えてしまったが康太はそれができるのではないかと考えていた。


「相手の銃の弾丸の軌道をそらして、相手にぶつけるようなことができればいいんじゃないでしょうか?あるいは相手が撃った弾丸を回収して撃つとか」


「銃弾に反応しろっていうのか?なかなか無茶を言うな・・・」


「でも足がつかないようにするにはそれ以外にないか・・・あるいは銃を用意するところから始めるのか?」


「相手が所持している拳銃とかを奪えばいいんじゃないか?少し手間がかかるけど、足がつくよりはずっといいだろ」


小百合の質問と回答を切っ掛けに、他の魔術師たちもあれやこれやと話を進めていく。自然に見せかけるためにはいろいろと工夫が必要だということはこの場にいる全員が理解したのだろう。


戦闘に関しては小百合の発想は確かに必要なものだ。戦闘を繰り返してきたからこそ、その戦闘が不自然なものにならないように注意しなければならない。


日本では銃などとはあまり関わりがないためにイメージしにくいが、小百合はそのあたりをきちんと把握している。


海外に出てまでも戦闘を続けてきたその弊害か、経験がものをいうという奴だろうか、どちらにせよ小百合の言葉はかなり重みが込められている。


「なかなかいい意見が出ているようだね・・・クラリス、戦闘に関しては君は本当に役に立つね」


「戦闘以外では役に立たんというような言い草だな・・・失礼な奴だ」


「はっはっは・・・でも実際どうなんだい?相手は一応戦闘を何度かやっているであろうマフィア・・・そんな相手にこちらも攻勢に出ることになるけど・・・」


「まぁ・・・状況にもよるがこちらも無傷では無理だろうな。相手が殺傷能力の高い武器を持っている以上、こちらも多少の犠牲を覚悟するべきだ」


「・・・魔術で対抗はできないのかい?」


「阿呆が・・・魔術と銃、どちらがより便利で攻撃力があるか・・・比べるまでもないだろう。携帯性、速射性、そして扱いやすさ・・・何においても銃のほうが上だ。銃のそれは魔術師の防御能力を簡単に上回る」


魔術師が所有する防御魔術はいくつも存在するが、それらを銃で突破するのは割と難しくはない。


単発では難しくても、連続で発射すればおそらく数十秒もあれば魔術師の障壁を突破することができるだろう。


一対一ならばまだ勝ち目はある。だが銃による攻略というのは総じて人数と手数によるものが大きい。


どんなに特殊な力を持った人間がいても、魔術では銃に対応しきれない。


それが現代の魔術師の限界であり、現実なのである。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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