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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
もしものお話
48/48

セテとイオとハナ

陛下がヘタレです

「枝豆の惑星?」


 昔そんな映画あったよね。ん、あれは「砂」か。

 などと呟きながら、セテはイオの話に耳を傾けていた。


「ですから、ハナさんが「わたくしと一緒に」わたくしの両親の住まう惑星に行きたい、と陛下に申し出たようですわ」


「えー……良いなぁ。私も行きたいなぁ」


 「わたくしと一緒に」を得意げな顔で強調するイオだが、セテはそこは軽く聞き流した。


「では、ハナさんに聞いたらどうかしら? ハナさんが喜ぶのでしたらあなたもご一緒にどうぞ」


「そうだねぇ。そうしよう」


***


「ハナさん」


「あ、セテさん。こんにちは!」


 セテがハナの部屋を訪れると、ハナはホクホクした顔でいそいそと大きなカバンに着替えやらタオルやら詰めていた。イオと旅立つ準備をしているところだ。


「ねぇ、イオと一緒に枝豆の惑星に行くって聞いたのだけど……?」


「はい! まだ進路とか全然決められなくて、そしたらイオさんが気分転換に旅行を勧めてくれて……今、丁度収穫の時期なのでお手伝いもできるし」


 それはそれは嬉しそうな顔でカバンに詰めるハナに、セテは苛立ちを覚えた。

 初めてお茶会を開いてから、ハナとイオとセテはなんだかんだで三人一緒なのに、仲間外れにされた感じがして堪らない。 


「ふぅ、ん……そうか。そう言えば、三人で行こうって話、覚えてる?」


 そんな話あったかも、とハナは曖昧に頷いてから顔を輝かせた。


「あ! あの、セテさんも一緒にどうですか?」


「もちろん、お供させていただくよ」


「じゃ、陛下に言ってきますね!」


 嬉しそうに走って行くハナの後ろ姿を、セテは目を細めて見送った。

 三人で旅行。


「楽しみだなぁ……旅行の準備でもしよ」


 自分がそんな物を楽しみにする日が来るとは思ってもみなかったが、存外いい気分だ。


***


「ほほほ、では陛下。ごきげんよう」


「ハナさんは私たちが責任を持って末永く可愛がりますので」


「え、旅行であろう!? すぐに帰ってくるのであろう!?」


「じゃ、陛下。行ってきまーす!」


「あ、ああああ、ハナ、風邪をひかぬようにな? 嫌になったらすぐ戻ってくるのだぞ? それから……とにかく帰ってくるのだぞ! 旅行なんだから――」


『シャトルが出発します、お見送りの陛下はおさがりください』


 そしてシャトル発着場に流れる無情なアナウンス。


「余は余は……あああ! ハナアアアァァァァ!」


「行ってきまーす!」


 シャトルに乗って元気に旅立つハナを、皇帝は涙と鼻水を垂らしながらいつまでも見つめていた。


「本当に宜しかったのですか、陛下?」


 シャトルが見えなくなると、その場に丸まってしまった皇帝の背中を摩りながらセルゲンが尋ねた。


「よろしくない! またこのパターンか! そもそも『お見送りの陛下』ってなんぞ!? 余のことか!? ガハッ!」


「陛下……いかん、血を……エレウ! エレウはいないかー!?」




◆◆◆◆


「余を置いて行くなどまかりならん! そもそも、イオ!」


 「もしも」の話に熱く異を唱える皇帝陛下にイオは目をしばたいた。


「なんですの? 陛下」


「そなた、ハナを引き取ってどうしようと言うのだ!?」


「あら、決まってますわ。お揃いのドレスを着たり、音楽を楽しんだり……陶芸も楽しそうですわねぇ……ほほほ」


 午前と午後のお茶の時間には色とりどりのお菓子。旅行を楽しむのも良い。

 ハナが望めばもちろん学校にだって通わせる。

 ああ、幸せ、とイオが顔を綻ばせる。


「フ、笑止」


 だがそんなイオの妄想を鼻で笑い飛ばす皇帝。

 なんかちょっと苛っとする。


「所詮はおままごとではないか……そんな幼稚なことでハナが喜ぶと思うか?」


「でしたら、陛下はどうなさるおつもりですの?」


 微笑みを絶やさず、だが挑戦的な眼差しを陛下に向けるイオに陛下は声高に宣言した。


「そんなの決まっておる! ハナと結婚するのだ!」


 小さな教会で内々でひっそりと式を挙げるのが皇帝陛下の夢だ。実は教会の建設を始めさせている。


「プロポーズの言葉は?」


「ヨ……ゲフンゲフン、余とケッコンしてください!」


 手を差し出し頭を頭を下げる陛下の姿は初々しい。

 そう思えば微笑ましい光景に見えなくもないが、身長2m超の赤い長髪の男が起立して頭を下げて手を差し出している姿はシュールだ。


「はいはい。そして式を終え、ハネムーンへ出発、いよいよお待ちかねの初夜でーす」


 そんな皇帝へ、セテが面倒臭そうな声で横やりを入れると皇帝はピシリ、と音が立つほど固まった。


「しょ、しょや……と?」


 ここはもちろん無駄に経験豊富な皇帝がハナをリードする。

 何を想像しているのか、眼を瞑る皇帝陛下の唇は「チュー」の形になり、手はワキワキと何かを揉む仕種になっている。


「おお……ハナ、そ、そなた、割と胸が……思った以上に……」


 鼻息も荒く、脳内のハナの胸を揉む男。

 銀河の頂点に君臨する男の残念な姿に、臣下三人は、生温い視線を注いでいる。

 数分の間、銀河一偉い男のエア乳揉み姿を堪能していたが、とうとうセテが口を開いた。


「そして、初夜を迎える二人の部屋から突如絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。皇帝陛下侍従のセルゲンが何事かと部屋へ駆け込むと鉄錆びの臭いが鼻を突く。

 ベッドの上には血塗れの花嫁、ノハラハナ。一体何が起こったのであろうか。明らかな異常事態にセルゲンは二人の許へと駆け寄る。


「陛下、一体なにが……ハナさんは大丈夫なのですか!?」


「あ、わたし、大丈夫ですけど、陛下が……」


 怯えたハナの声が聞こえ、セルゲンが皇帝陛下へと顔を向けると頭から血を流す主君の姿が目に入る。


「へ、陛下どうなさいましたか!?」


「い、いやセルゲン。その……少々興奮して髪から血が……ほら、余の髪の毛、毛細血管であろう?」


 鼻血ならぬ髪血を垂らす皇帝の姿にセルゲンはハッとした。ここでようやく、皇帝陛下の知られざる設定が生かされるのか、と」


 セテが話を締めくくると、イオが頷きながら拍手をしている。侯爵まで頷いているから堪った物ではない。


「ぐぬぬぬ……セテ! そなた、余をバカにしておるのか!?」


 ぷりぷりと怒る陛下だが、未だに手はワキワキとエア乳揉み状態だ。全く説得力がない。


「余だってやるときはやる!」


「では、プロポーズの言葉はどうなさいますの?」


「ヨ……ゲフンゲフン、余とケッコンしてください!」


 結局「もしも」の話でさえも惜しげもなくヘタレぶりを晒す皇帝陛下の結婚への道のりはまだまだ長い。



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