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異世界恋愛無双帝国 ~勇者が建国したらドラゴン300匹が国民になった~  作者: 4ランクは下の人間


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第八話 帝国、裁判す

 朝。

 恋愛無双帝国会議。


「裁判所から呼出状が来ました」

 リリアが言った。


「うむ」

 アルバートは頷いた。


「裁判とは何じゃ?」


「知らないんですか?」

「知らん!」


「威張ることじゃありません」

「じゃが安心せよ」


 アルバートは胸を張った。

「余は皇帝じゃ」


「それで?」

「恋愛無双じゃ!」


「はー……」


 リリアは頭を抱えた

 その横で竜王が首を傾げた。


「裁判とは戦いか?」

「違います。法律に従って、どちらが正しいか決めるんです」


「なるほど」

 竜王が頷いた。


「強い方が正しいのだな」

「違います!」


「では我が出れば勝てるのか?」

「だから違います!」


「……人間の決まりは難しいのう」

「あなたたちが特殊すぎるんです!」


 リリアはまた頭を抱えた。

 その横で竜王が財布を取り出す。


「一応、金ならあるぞ」

「いくらじゃ?」


「牛三頭分だ」

「少なすぎる!」


「牛三頭は大金だぞ」

「裁判官は牛を食わん!」


「では金貨に替えればよい」

「そういう問題じゃありません!」


 リリアは深いため息をついた。

「……本当に勝てるんでしょうか」


 アルバートは自信満々に答えた。

「任せておけ!」


「その言葉で安心できたこと、一度もないんですよね」


 翌日。

 恋愛無双帝国皇帝アルバートは、裁判所の前に立っていた。

 郊外にあるとは思えないほど立派な建物だった。


「ほう」

 アルバートが見上げる。


「城より立派じゃ」

「そりゃ裁判所ですからね」

 リリアが隣で答える。


「ところでアルバートさん」

「なんじゃ」


「本当に勝てると思ってます?」

「当然じゃ」


「何か作戦が?」

「ある」


「どんな?」

「これはガラスの剣」

 アルバートは短剣を取り出した。


「たった一度しか使えないが」

「奮った相手に大ダメージを与えるという伝説が――」


「ハイ。そんな物騒なモノ捨てましょうねー」

「ああーガラスの剣がー。高かったんじゃぞー」


 リリアの顔がひきつる。

「えっいくらしたんですか?」


「金貨一万枚」 

 リリアのグーパンが飛んできた。


「そんなお金どこにあったんですか」

「歩いておったら拾ったんじゃー」


「ああ。強盗だけはしない人だと信じてたのに」

「信じておらん!」


「……」

「裁判が始まる前から借金増えてる……」


 そのとき。


「来たぞ!」


 盗賊たちが現れた。十人ほど。

 全員、黒い服。

 全員、目つきが悪い。

 そして全員、妙に余裕がある。


「よう、皇帝さん」


「なんじゃ」


「今日はよろしくな」


「うむ!」


 アルバートは笑顔で握手した。

 リリアが頭を抱える。


「なんで握手してるんですか」


「人を見かけで判断しない優しい奴等だからな」

「昨日まで借金を取り立てていた人たちですよ」


「そうじゃったな」

「忘れてたんですか……」


 盗賊の頭が、一枚の紙を取り出した。

「これが借用書だ」


「ほう」


「金貨一万枚を借りた」


「うむ」


「一週間後に二万枚で返す契約だ」


「うむ」


「さらに、取り立ての際にお前たちから攻撃を受けた部下の治療費が二万枚」

 盗賊の頭は、何枚もの診断書を並べた。


「合計四万枚だ」


「……」


「払ってもらうぞ」


 リリアが小声で呟いた。

「アルバートさん……」


「なんじゃ」

「本当に大丈夫でしょうか」


「任せろ」

「何を?」


「ガラスの剣パート2」


「さらに罪を重ねる気ですか」


 裁判が始まった。

 裁判官が木槌を叩く。


「静粛に!」


 盗賊たちが席につく。アルバートたちも席についた。

 アルバートだけは、なぜか堂々としている。


「では、原告側」


 盗賊の頭が立ち上がった。


「我々は被告に金貨一万枚を貸しました」

「はい」


「契約書もあります」

「はい」


「返済期限は一週間」

「はい」


「返済額は二万枚」

「はい」


「さらに、取り立ての際に我々の部下が負傷しました」

 診断書を掲げる。


「治療費は二万枚」

「はい」


「よって、被告には合計四万枚の支払いを求めます」

 盗賊の頭がアルバートを見た。


「何か反論は?」


「嫌じゃ!」

「なぜだ!」


「高いからじゃ!」

「契約しただろ!」


「そうじゃった!」

「認めるのかよ!」


 裁判官が頭を押さえた。


「被告側」


 リリアが立ち上がる。

「はい」


「何か反論はありますか?」


「……ありません」


「ありません!?」

 アルバートが振り返る。


「お主、諦めるのが早すぎんか!」

「だって借用書ありますから!」


「借用書ってなんじゃ。紙切れじゃろ」

「紙切れなんメリーさんの前では無力じゃ!!」


「その紙切れに、あなたが自分で署名したんです!!」


「……」

 アルバートは借用書を見つめた。


「リリア」

「何です?」


「紙切れに名前を書くだけで、金貨二万枚を払わねばならんのか?」

「そういう契約をしたからです!」


「恐ろしい世界じゃ……」

「あなたが言わないでください!」


 裁判官が借用書を確認する。


「……なるほど」

 盗賊たちは笑っている。


「どうです?」

「完全にこちらの勝ちでしょう」


「そうだな」


「金貨四万枚、払ってもらいますよ」

「そこのお嬢ちゃんが稼げばすぐだろ」


「アルバートさんの臓器を売れば四万枚の足しになるかな」

「お主、皇帝を売る気か!」


 ローブを着た係員が裁判官へ紙を置いていった。

 そして裁判官が口を開いた。


「この契約書」

「はい」


「金利が法定上限を超えている可能性が――」


「裁判官!」

 係員が駆け込んできた。


「緊急通信です!」

「こんなときに何だ!」


「王都門前に、魔神軍が出現しました!」


 その瞬間。


 ウーッ! ウーッ! ウーッ!

 裁判所中に、けたたましい警報が鳴り響いた。


『緊急警報』

『王都門前に魔神軍が出現しました』

『王都民はただちに避難してください』

『繰り返します……』


 裁判官が立ち上がる。

「裁判は一時保留とします!」


「えっ」

 盗賊の頭が声を上げた。


「ちょっと待ってください! まだ判決が!」

「命が先です!」


 裁判官が駆け出す。

 傍聴人たちも、一斉に逃げ始めた。


「ひゃっほー!」

 アルバートが立ち上がる。

「見たか! ワシの計略を!」


「アルバートさん」

「なんじゃ?」


「今の、計略じゃないですよね」

「……」


「偶然ですよね?」

「……帰るぞ!」


「逃げるだけじゃないですか!」


「……でも」

「なんじゃ?」


「この裁判、もしかしたら勝ててたかもしれませんよ」

「何?」


 そのとき。ゴゴゴゴゴ……!


 裁判所の外で轟音が響いた。

 建物全体が揺れる。


「きゃあっ!」

「何だ!?」


 窓の外を見る。

 王都の空が、黒い影に覆われていた。


「……魔神」


 リリアが呟いた。


 その直後、王都のあちこちで、人々が倒れ始めた。

 兵士が倒れた。商人が倒れた。


 逃げようとしていた子供を、母親が抱き締める。

 その母親も、膝から崩れ落ちた。

 誰一人、抵抗できない。

 ただ倒れていく。


 そして、王都の別の場所。  

 王女セシリアもまた、黒く染まった空を見上げていた。


「……なんじゃ、これ」


 リリアの顔から血の気が引いた。

「魔力を使った様子がありません」


「じゃあ何じゃ?」


「……何もしてない」


「何?」


 魔神が、そこにいる。


「……いるだけで」

 リリアの声が震えた。


「人が、倒れていく……」


 そのとき。

 ボロボロになった竜王が、裁判所へ駆け込んできた。


「アルバート!」


「竜王!?」


「帝国へ魔神軍が侵入した!」

「何じゃと?」


「オーク将軍が持ちこたえている!」

「ならば問題ないではないか」


「だが、一部が王国へ流入した!」

 竜王が息を切らす。


「王都も危ない」

「……」


 アルバートの表情が変わった。

「帰るぞ」


「はい!」

 リリアが頷く。


「裁判はどうします?」

「後じゃ!」

 アルバートが振り返る。


「余の帝国を襲った奴を、全部王国側に追い出す」

「何、言ってるんだろう……」


 その瞬間。


 ドォォォォン!


 裁判所の壁が吹き飛んだ。


「なっ!」


 黒い巨大な影から、一人の男が降りてくる。


 黒い外套。

 異様なほど静かな足取り。

 人間とは思えないほど冷たい目。

 その周囲には、黒い霧のようなものが渦巻いている。


 盗賊たちが震え上がった。


「ま、魔神……」

 黒い霧が広がる。


「我が名は――」

「ヴェルム」


 その瞬間。

 リリアの顔が明らかに曇る。


「……アルバートさん」

「なんじゃ」


「逃げてください」

「なぜじゃ?」


「こいつは――」

 リリアが杖を握り締める。


「普通の魔物じゃありません」


 ヴェルムが笑った。

 黒い霧が、ゆっくりと周囲を覆っていく。


「我は七大魔神が一柱」

 ヴェルムの目が赤く光る。


「さあ、人間」

「……」

「その魂、どれほどの価値がある?」


 こうして。

 借金裁判は、魔神の襲来によって中断された。


 そしてアルバートは。

 七大魔神の一柱――ヴェルムと対峙することになった。


「……ところで、お主」

「何だ?」


「余の借金を肩代わりする気はないか?」

「……は?」


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