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異世界恋愛無双帝国 ~勇者が建国したらドラゴン300匹が国民になった~  作者: 4ランクは下の人間


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第六話 帝国、アルバイトす

「ドラゴンを全部殺す」

「は?」


 朝、愛無双帝国の財政会議にて。

 アルバートは、ランニングシャツにパンツ一丁、そしてマント姿でそう言った。


「食費が賄えないのじゃー!」

「だからって皆殺しにしないでください」


 リリアが即座に却下した。


「三百匹じゃぞ!」

「三百匹ですね」


「一匹につき牛を何頭食べると思う!」

「知りませんよ」


「余も知らん!」

「知らないんですか」


「とにかく金が足りん!」

 アルバートは机を叩いた。


「財政赤字からの国家転覆罪でドラゴンは皆殺しなのじゃー!」

「国家転覆罪って何ですか」


「知らん!」

「知らない言葉を使わないでください」


 その隣で、竜王が腕を組んでいた。


「我も腹が減っている」

「竜王まで!」


「一日に牛十頭は必要だ」

「人型になったら食費が減るんじゃなかったんですか?」


「減った」

「どれくらい?」


「牛十頭から、牛九頭になった」

「誤差ですよ!」


 リリアは頭を抱えた。

「もう、いいです」


「何がじゃ?」

「お金が足りないのなら」


 リリアは一枚の紙を取り出した。

「労働あるのみですよ」


「……」

「皇帝」


「……」

「アルバイトです」


「いやじゃー!」

 アルバートが机の下に潜った。


「働いたら負けなのじゃー!」

「労働派遣法から損切りをくらってFXで有り金全部溶かしてしまうのじゃー!」


「全部意味が分かりません」

「余は皇帝じゃぞ!」


「皇帝なら働いてください」

「皇帝は働かぬ!」


「国を運営するのが仕事でしょう」

「それは部下がやるものじゃ!」


「部下、いませんよ」

「お主はわしの部下じゃないんかー!」


「違いますし、私も働くのは嫌です」

「正直じゃな!」


「褒められても困ります」


 竜王が手を挙げた。

「では我は何をすればいい?」


「あなたも働くんですよ」

「我も?」


「はい」

「我は竜王だぞ」


「知っています」

「偉いぞ」


「知っています」

「強いぞ」


「知っています」

「ならば働く必要は――」


「あります」

「……」


 竜王が沈黙した。

「人間は厳しいのう」


「人間社会はそういうものです」


「では何をする?」

「もう決めてあります」


 リリアは紙を二人に渡した。

「レグナード王国のレストランです」


「レストラン?」

「はい」


「料理をするのか?」

「そうです」


「余が?」

「はい」


「竜王が?」

「はい」


「……」

「……」


 二人が顔を見合わせる。


「無理じゃろ」

「無理だな」


「なぜ二人とも即答なんですか!」


「大丈夫です」

 リリアは笑顔で言った。


「皿洗いですから」


「国の財政危機に自ら立ち上がる時が来たか」

 アルバートが立ち上がった。


「単純労働だからやる気になったんでしょうか」


「行くぞ竜王!」

「うむ!」


「労働じゃー!」

「金を稼ぐぞー!」


「……」

 リリアは二人を見送った。


「どうしてでしょう」

 ものすごく嫌な予感がした。


* * *


 レグナード王国。

 王都。

 高級レストラン『銀の食卓』。


「本当によろしくお願いします」

 優しそうな店長が頭を下げた。


「うちは従業員を大切にする店です」

「この店は私が二十年前に始めたんです」


「ほう!二十年」

「いつか王都一の店にする。それが俺の夢でしてね」

「二十年も続けているのか。大したものだ」


「だから、うちで働く人には気持ちよく働いてほしいんですよ」

「困ったことがあれば何でも言ってください」


「うむ!」

 アルバートは元気よく返事をした。

「よろしく頼む」

 竜王も頷く。


 アルバートは白いエプロンを着ていた。

 竜王も着ていた。

 ただし竜王のエプロンは、胸の筋肉で今にも破れそうだった。


「今日は皿洗いをお願いします」

「任せよ!」


「お皿を割りませんことよ」

 聞きなれた声がする。


「セシリア!何故ここにおる」

「ここは我が国の店ですもの。視察に来ただけです」


「さてはアルバイトの件、お主も噛んでおるな」

「知りません」


「怪しい」

「それよりも、アルバイト中に火を使ってはいけませんよ」


「分かっておる!」

「厨房に勝手に入ってもいけませんよ」


「分かっておる!!」

「ドラゴンを呼んでも――」


「……」

「アルバート?」


「分かっておる!」

「今、間がありましたね」


「気のせいじゃ!」

 店長は不安そうに二人を見た。


「……では、お願いします」


 三十分後。


「店長!」


「なんですか」


「皿洗い終わったぞ!」


「おお!」

「早いですね!」

 店長が驚いた。


「本当に?」


「うむ!」

 アルバートが胸を張る。


「余は勇者じゃからな!」

「では次、これをお願いします」


 店長が巨大な鍋を持ってきた。

「スープを混ぜてください」


「任せよ!」


 アルバートが木べらを握る。


 ぐるぐる。 


 ぐるぐる。


 ぐるぐる。


「どうじゃ!」


「完璧です」


「ふっふっふ」

 アルバートは得意げだった。

 そこへ竜王がやってくる。


「我にも何か仕事をくれ」

「では火加減をお願いします」


「分かった」

 竜王が鍋の下に手をかざした。


「こうか?」


「はい。弱火で」


「弱火だな」

 竜王は少しだけ魔力を込めた。


 ボッ!


「ちょっと!」

「火が強い!」


「すまん」


「弱火です!」


「これでも弱いぞ」


「あなた基準じゃありません!」


 さらに少し。


 ボッ!

 ボォッ!

 ゴオオオオオ!


「強い!」

「我としては弱火だ」


「店が燃えます!」


 厨房の天井に火がついた。


「消してください!」


「分かった!」

 竜王が息を吸った。


「ふーっ」


 ゴオオオオオオ!


 ドラゴンのブレスが店を覆った

 火がさらに広がった。

 店内から悲鳴が上がった。


「きゃー!」「火事だ!」「逃げろ!」


「ドラゴンだ!」


「ドラゴンが厨房にいるぞ!」


「厨房が燃えてる!」

 客が一斉に立ち上がった。


「ぎゃあああああ!」

 そして、店の外。


「ドラゴンが大量に来ましたーーー!」

 店員が叫んだ。


「何!?」


 窓の外を見る。

 空。

 そこには、三百匹のドラゴン。


「アルバート」

「なんじゃ!」


「ドラゴンを呼びましたね」

「呼んでおらん!」


「じゃあ何で来たんですか!」

「昼飯じゃろ!」


「仕事中ですよ!」

「彼らも腹が減ったのじゃ!」


 ドラゴンたちが一斉に店へ降りてくる。

 ドドドドドドドド!


「グオオオオ!」

「店内が狭い!」

「翼を畳め!」

「尻尾が当たってる!」


「テーブルが!」「料理が!」「火が!」

「もっと燃えた!」


「うわああああ!」


 そして。

 店内は地獄と化した。


「お客様!」


「逃げろー!」「金払ってないぞ!」


「そんな場合か!」

「誰か消防を!」


「消防も逃げたぞ!」


 客がクモの子を散らすように逃げていく。

 アルバートはそれを眺めていた。


「……」


 竜王も眺めていた。


「……」


「店長」


「……」


「客が全部逃げたな」


「……」


「これは」

 アルバートが腕を組む。


 ピロピロピロ・・・

 

 通信機が鳴った。リリアからの魔法通信だ。


「アルバートさん、ドラゴンが大量にいなくなりました。」

「心配するな。みんな、この店に来ておる」


 アルバートは店内の様子を通信機を通してリリアに見せた。


「もうこの店には金輪際、客は来んだろうな」

「何を冷静に分析してるんですか!」


「いや、余はアルバイトとして良い仕事をしたと思うぞ」

「どこがです!」


「客を全員帰した」

「それは営業妨害です!」


「竜王」

「なんだ」


「余たちは仕事をしたのか?」

「した」


「何の仕事だ?」

「店を閉める仕事だ」


「なるほど!」

「納得しないでください!」


 そのとき、店長がゆっくりと立ち上がった。


「……二十年」


「店長?」


「二十年かけて……作った店が……」


 店長はフライパンを握りしめた。


「俺の夢があああああ!」


 ガンガンガン!


「店長! フライパンで自分を叩かないでください!」


 アルバートは腕を組んだ。

 セシリアもいつの間にかいなくなっていた。


「竜王。人間とは、もろいものじゃな」

「お前が言うな!」


 リリアの声が響いた。


「しかし、二十年も続けたのなら、そろそろ引退してもよい頃ではないか?」

「お前が引退させたんだろうが!」


「うむ。では、アルバイト代をもらって帰るか」

「働いたのは店を燃やしたことだけでしょう!」


 アルバートは金庫を抱えた。


「では、これを給料にする」

「それは店の金庫です!」


「なるほど。現物支給じゃな」

「強盗です!」



* * *


 翌日。


 帝国財務省。

 まだ存在していない。

 その代わり、リリアが一人で帳簿をつけていた。


「収入」

 ゼロ。


「支出」

 大量。


「賠償金」

 莫大。


「ドラゴンの食費」

 莫大。


「竜王の食費」

 超莫大。


「アルバートの給料」

 ゼロ。


「……」


 リリアは帳簿を閉じた。

 そして、帝国には新たな請求書が届いていた。


『レグナード王国・銀の食卓より』


『店舗全焼に伴う損害賠償金』

 金額。

 金貨一万枚。


 リリアは請求書を見つめた。


「……金庫、返してきてください」


 こうして、恋愛無双帝国は新たな借金地獄へと足を踏み入れることになった。




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