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異世界恋愛無双帝国 ~勇者が建国したらドラゴン300匹が国民になった~  作者: 4ランクは下の人間


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第二話 帝国、竜と遭遇す

 翌朝。


 恋愛無双帝国皇帝アルバートは、城門の前に立っていた。

 城門といっても、木の板を二枚立てただけである。

 その向こうには、五百人ほどの騎士が整列していた。


「アルバート!」

 先頭の騎士が叫ぶ。


「我らはダークキングダム王国騎士団である!」


「うむ!」


「ただちにその土地から立ち退け!」


「断る!」


「なぜだ!」


「余は皇帝だからじゃ!」


「皇帝を名乗る根拠は!」


「王冠!」


 アルバートは頭に乗せた。

 それは昨日、森で拾った木の輪だった。


「それは王冠ではない!」

「王冠じゃ!」


「木の枝だ!」

「王冠と言ったら王冠なのじゃ!」


「……」


 騎士団の間に微妙な沈黙が流れた。

 リリアが小声で言った。


「アルバートさん。もう謝りませんか?」

「なぜじゃ」


「どう考えても私たちが悪いです」

「余は勇者じゃぞ」


「勇者だから何をしてもいいわけじゃありません」

「魔王を倒したぞ」


「それは偉いですけど……」


「では余の勝ちじゃ」


「何の勝負ですか」


 アルバートは騎士団を見渡した。


「よし、交渉じゃ!」


「まともな話ができるんですか?」


「もちろんじゃ!」

「では、何と交渉するんです?」


「勝負じゃ!」


「交渉してください!」


 アルバートは隊長に向かって叫んだ。


「貴様ら! 余と勝負せい!」


「何の勝負だ!」


「野獣対決!」


「…………」


 リリアは目を閉じた。


「もう嫌だ……」


 隊長が眉をひそめた。


「野獣対決だと?」


 隊長が叫ぶ。


「いいよ。来いよ」


「どちらが多くの女性に好かれているかを競うのじゃ!」


「我々は騎士団だぞ!」

「だから負けるのじゃ!」


「なぜだ!」

「余は皇帝じゃ!」


「それしかないのか!」

「あと顔!」


「自分で言うな! それにお前、悪い側だろ!」


 騎士団の列から、一人の女騎士が進み出た。

「隊長。私に任せてください」


 赤い髪に青い瞳。白銀の鎧をまとった女騎士だった。


 アルバートの目が輝いた。


「おお……! 余の妃に――」

「斬ります」


「まだ最後まで言っておらん!」

「顔に書いてあります!」


 女騎士が剣を抜いた。


「王国騎士エリーナ! 勇者なら、私を倒してみなさい!」


「よかろう! 余の実力に惚れるでないぞ!」


 次の瞬間。

 ガキィン!


「ぎゃあああ!」


 アルバートは地面に転がっていた。


「弱っ!」


 オーク将軍が笑った。

 エリーナが剣を突きつける。


「これで終わりです」

 アルバートは彼女を見上げた。


「……見事じゃ」


「え?」


「一瞬で余を倒す剣技。敵を前に一歩も退かぬ胆力。貴様、将軍にならんか!」


「は?」


「給料はパン三個!」

「安すぎます!」


「四個!」

「そういう問題ではありません!」


「では妃も兼任で!」

「話を聞け!」


 エリーナが剣を振り上げた。

 その瞬間だった。


 ドォォォン!


 巨大な火球が、騎士団の背後に着弾した。


「な、何だ!?」

「火球だと!?」


 爆風が吹き抜け、騎士たちが一斉に振り返る。


 森の向こう。

 巨大な黒い翼が、空を覆っていた。


「ドラゴン……!」


 誰かが呟いた。

 次の瞬間、ドラゴンが咆哮した。


 騎士団の馬が暴れ、兵士たちの顔から血の気が引く。


「隊列を崩すな!」

 隊長が叫ぶ。

「負傷者を下げろ! 魔法部隊は迎撃準備!」


 エリーナも剣を構え直した。

「全員、戦闘態勢!」


 リリアが空を見上げる。

「……まずいですね。あの大きさ、普通のドラゴンじゃありません」


「王国騎士団だけでは危険です!」

 アルバートは竜を見上げた。


「ほう……」

「何か思いついたんですか?」


「いや、でかいのうと思って」

「それだけですか!?」


「うむ!」


 その瞬間。

 ドラゴンの火球がアルバートを直撃した。

 轟音。爆炎。黒煙。


「フー、死んだぜー」

「生きてるーーー!?」


 リリアは目を見開いた。

 ドラゴンが再び翼を広げた。

 黒い影が、森を覆い尽くしていく。

 隊長が叫んだ。


「全員、迎撃準備! 何としても食い止めろ!」


 エリーナは剣を握り直した。


「……こんなところで、負けるわけにはいかない!」

 そして、彼女はドラゴンへ向かって駆け出した。


 その姿を遠くから見ていたアルバートが、ぽつりと呟く。

「……格好いいのう」


「感心してないで助けに行ってください!」


「しかし、あのような美女が余の妃になれば……」


「まだ言ってるんですか!」


 ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

 リリアの表情が変わる。


「まずい! 来ます!」


「全員、退避!」


 轟音とともに、炎が森を薙いだ。

 エリーナは間一髪で飛び退いたが、その勢いで地面に転がった。


「エリーナ!」


 アルバートが立ち上がる。

 その顔から、いつものふざけた笑みが消えていた。


「……おい」


 リリアが驚いて見上げる。


「アルバートさん?」


「美女が傷ついておる」


「そこですか!?」


 アルバートはドラゴンを見上げた。

「しかし、あれだけ大きければ……」


「何ですか?」


「鱗一枚でも、相当な値がつくのではないか?」


「今はそんなことを考えている場合じゃありません!」


「よし。倒したら売るぞ!」


「倒せる前提で話さないでください!」


 アルバートは剣を握り直した。

「リリア、あの竜の弱点は?」


「知りませんよ!」


「では、聞いてくる!」

「聞けるわけないでしょう!」


 アルバートはドラゴンに向かって走り出した。


 三秒後。


「やっぱり無理じゃあああ!」


 全力で戻ってきた。


「何を確認してきたんですか!?」


「強さじゃ!」


「何も確認できてませんよ!」


 ドラゴンが首を傾げた。

 そして、ゆっくりとアルバートを見つめた。


「……?」


 黒い瞳が、彼を捉える。

 次の瞬間。

 ドラゴンの動きが止まった。


 エリーナも、リリアも、騎士団も、息を呑んだ。


「……何じゃ?」


 アルバートが首を傾げる。


 ドラゴンはしばらくアルバートを見つめていたが、やがて興味を失ったように顔を背けた。

 そして、翼を広げた。

 巨大な翼が風を巻き起こす。

 ドラゴンは森の上空へと舞い上がり、遠くへ飛び去っていった。


「……逃げた?」


 騎士の一人が呟いた。


「助かった……のか?」


 隊長は呆然としていた。


 リリアもまた、アルバートを見つめる。


「アルバートさん……」

「うむ!」


 アルバートは胸を張った。


「皇帝の威光にビビったんじゃな!」


「絶対違います!」


 アルバートは、ふと空を見上げた。


「……ところでリリア」


「何ですか」


「ドラゴンというのは、いくらで売れるのじゃ?」


「知りませんよ!」


 ――こうして。


 恋愛無双帝国の建国二日目。

 王国騎士団は壊滅を免れ、謎のドラゴンは去っていった。


 そして皇帝アルバートは、世界の命運よりもドラゴンの売却価格を気にしていた。



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